不穏度
35(100を満点として)
「生きにくさ」は澱のように溜まる
基本情報
公開年:2021年
監督&脚本:ホン・サンス
キャスト:キム・ミニ(ガミ)ソ・ヨンファ(ヨンスン)ソン・ソンミ(スヨン)キム・セビョク(ウシン)
上映時間:77分
あらすじ
<以下アマゾン紹介文より引用>
ガミ(キム・ミニ)は、5年間の結婚生活で一度も離れたことのなかった夫の出張中に、ソウル郊外の3人の女友だちを訪ねる。バツイチで面倒見のいい先輩ヨンスン、気楽な独身生活を謳歌する先輩スヨン、そして偶然再会した旧友ウジン。行く先々で、「愛する人とは何があっても一緒にいるべき」という夫の言葉を執拗に繰り返すガミ。穏やかで親密な会話の中に隠された女たちの本心と、それをかき乱す男たちの出現を通して、ガミの中で少しずつ何かが変わり始めていく。
Twitter改め「X」をやって10年になります。すると「一度も会ったことないけど友達って言ってもいいんじゃないか?」って人が出てくるんですよね。主に映画の趣味が合うことで繋がっているある「友人」にずっとおすすめされていたのがホン・サンス作品。このたびやっと観ましたん…ってことではじめてのホン・サンス、その感想です。
感想
常識人の生きにくさ
前回書いた「パターソン」について「何も起きない映画です」と書きましたが、本作「逃げた女」はそれ以上に何も起きない映画です。では何が映されているのか?それは「一対一の会話」です。録音した会話の文字起こしをしていると気が付きますが「会話」って思っている以上に相手の言うことを聞いてなかったり、「分かるぅ〜」なんて盛り上がっててもその場の雰囲気でそう感じているだけだったりします。そういう上滑りな、ある意味自然なやりとりを見せてくれるんです。その会話以外、登場人物たちのバックボーンはわかりません。しかしその会話劇から主人公ガミがおそらく自覚していない「本当のこと」が見えてくる様がスリリングで最後までとても面白く観ることができました。「あ、あなた自身が気づいてないことにこっち気づいちゃったっぽいんですけど?!」みたいな。
主人公ガミが繰り返す「夫とはこれまで一度も離れたことがないの」という言葉。翻訳のせいで不思議な感じになっているのかも知れませんが、「『離れたことない』ってどういう意味?別々にお泊まりしたことないってこと?日中、夫が仕事で外出するのは『離れてる』に入らないの?」とワタシは気になって気になって。「相手の人、そこ、ツッコんで聞いてくれよ」と思ってしまいましたが、まあ対面でしゃべってれば「へえ〜、そうなんだ〜」程度で流しちゃいますよね。ガミの方は会う人会う人にこう話すので、本当は聞いて欲しそうです。でもスルーされても「私と夫の関係についてもっと聞いてよ〜」とは言わず、相手に上手に合わせる。ごく常識的で感じのいい女性です。
そんな女性が一体「何から逃げて」いるのか?おそらくその答えは最後にありそうですが、映画は明確な答えを避けて終わります。つうか答え、ありません。
創作物の中にはよく、私たちが普段言えないようなことを言う破天荒なはみ出しものが登場し、観客をスカッとさせてくれます。同作に登場するのは真逆の「常識的で感じの良い人」。こういう人の胸のうちに澱のように溜まっていく「生きにくさ」のようなものを描いた作品だと思いました。
安上がりだから?!のズーム
さて初めてのホン・サンス作品、繊細で面白いとこをついてくるなあ〜という感想の他、誰もがひっかかるあの不自然なズーム、癖になるやん!と思いました。なんだありゃ?と検索したら監督本人が「経済的な理由で」あのズームが生まれたと話していました。カットを割るとなると撮影時間も編集時間もかかる。時間=出ていくお金ですから、その場でズームにしちゃったら安くすむ、と。ほえ〜。安上がりズーム!
それにしてもなんだか遠隔操作しているようなぎこちないズームに見えるの、なんなんですかね?
それと検索していて知ったんですけど監督、本作のガミ役のキム・ミニと不倫関係にあり、彼女との出会いで作風が変わったんだとか。以前はだいぶ違う感じのものを撮っていたようでそちらも気になります。2本目観るとしたら何がいいのかな…。
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キム・ミニは「お嬢さん」もとても印象的でした。芯の強さが顔に出てるよね