基本情報
公開年:2023年
監督&脚本:北野武
キャスト:ビートたけし(羽柴秀吉)西島秀俊(明智光秀)加瀬亮(織田信長)中村獅童(難波茂助)浅野忠信(黒田官兵衛)大森南朋(羽柴秀長)
上映時間:131分
あらすじ
<以下公式サイトより引用>
天下統一を掲げる織田信長は、毛利軍、武田軍、上杉軍、京都の寺社勢力と激しい戦いを繰り広げていたが、その最中、信長の家臣・荒木村重が反乱を起こし姿を消す。信長は羽柴秀吉、明智光秀ら家臣を一堂に集め、自身の跡目相続を餌に村重の捜索を命じる。秀吉の弟・秀長、軍司・黒田官兵衛の策で捕らえられた村重は光秀に引き渡されるが、光秀はなぜか村重を殺さず匿う。村重の行方が分からず苛立つ信長は、思いもよらない方向へ疑いの目を向け始める。だが、それはすべて仕組まれた罠だった。
果たして黒幕は誰なのか? 権力争いの行方は?史実を根底から覆す波乱の展開が“本能寺の変”に向かって動き出す―
よっ!待ってました!2017年「アウトレイジ 最終章」から6年ぶりの北野武監督作品の公開です。初日の昨日、観に行ってきました!いやあ〜面白かったです!点数でいえば85点!「キタノブルー」を共に作ってきた撮影監督が変わったとのことで心配していましたが、全くの杞憂でございました。タイトルバックから早くもうっとりするような色彩の美しさは健在。本能寺の変という日本史上最大のミステリーを扱ったストーリーも面白かったのですが、途中「あれ?長くない?この映画?もう3時間くらい観てない?」って感じになりまして(実際は131分)、以下、それがなぜなのかってことを考えつつ書いてみた感想です。(ちょびっとネタバレしています!一切情報を入れずに観たい方はここで引返すことをおすすめします!)
感想
“薄らBL好き”から観ると…?
サブタイトルに“薄らBL好き”と書きましたが言い過ぎでした、初めに謝っておきます、すみません!ワタクシ「BL」「腐女子」という言葉もまだなかった80年代「風と木の詩」「アナザーカントリー」「モーリス」などを嗜んだ程度の人間です、ハイ。当時はそういった系統を「耽美系」などと呼んでいましたね。なんとなく「耽美」と「BL」は違うような気がして、雑誌JUNEの廃刊あたりから離れていったかな。“薄らBL好き”ですらないですね、ごめんご。
さて、前置きが長くなりましたが「首」にはこのBL要素が入っています。「衆道」ってヤツです。誰と誰が、というのは書きませんが本能寺の変の裏にはそういった方面の愛憎も絡んでいたのでは?という解釈です。
ここでどうしても思い浮かべてしまうのが、ビートたけしも出演していた大島渚監督の「御法度」。こちらは新撰組の話なのでだいぶ年代は異なりますが、同じ「時代もの」。影響を受けているように思います。また、今作は秀吉がビートたけし、信長が加瀬亮となっており、実際の人物の年齢とキャストの年齢がぜんぜん合ってないやん!でもそんなことどうでも良いやん!と思わせる力も「御法度」に似ているなと思いました。(御法度では当時49歳の崔洋一が近藤勇を、51歳のビートたけしが土方歳三を演じています)
となると比較してしまうのがその「お耽美シーン」。「御法度」では裸と裸が絡み合う直接的な性描写はほぼありませんでした(うろ覚え)。かわりに「どうしてもあなたが欲しい」的な直球セリフと恋の鞘当てに右往左往する心理描写が多かったような気がします。そしてなんといっても新人だった松田龍平の顔がエロい。エロすぎる。同衾する夜のシーンの「限りない暗さ」や常に死と隣り合わせで生きている人間たちの切実な表情も作品の淫靡さを際立たせていました。
一方の「首」。裸で絡み合うシーンはありますがどうもいまいちエロくない。くそう、エロくないぞ。いえね、えっちなシーンが観たくて言ってるわけではないですよ?武将たちの間に複雑な愛憎関係があるってところが物語の根幹なのに、エロくないと「なぜこの人はこんなにまであの人に仕えるのか?」ってのが分からないのですよ。
それと常に「次の刹那にある死」を描いてきた北野監督、今回も躊躇なくバサバサと首を切り落とし諸行無常を感じさせてくれるわけですが、タナトスの対局として「エロス」を持ってきたのだとしたら、映像的にはあまり成功してないんではないか…と思った次第。おそらく長く感じてしまったのもそのメリハリのなさかもしれません。
全部観たわけではないですが、これまでの北野作品の中にエロエロな性描写はないように思います。大島渚にあって北野武にないもの、それは「エロ」ではなかろうか、と。
北野武にしかないもの
あれ?なんか辛口になってしまいましたが、面白かったのも事実。まさに「戦国版アウトレイジ」。「アウトレイジが好きだ!」という方には力強くお勧めします。
それと賛否分かれるようですが、作中コント、ワタシは声出して笑いそうになるくらい面白かったです。近年テレビでやるビートたけしのコントは面白いと思ったことがないのですが、どういうわけか今作のは面白かった。とくに大森南朋扮する秀長と秀吉(ビートたけし)とのやりとり。パンフレットの解説を読むとアドリブも多かったようです。なんでもリハは代役が秀吉を台本通りになり、いざ本番になると武監督が全然違うことを振る、と。受け止める大森南朋のお笑いセンスが高いというのもあるのでしょうが、笑えるのは溢れる暴力と死への緊張に対する緩和のせいでしょう。
北野映画の場合「タナトス」に対するものとしてあるのは「笑い」なんですよね。夥しいまでの暴力と死、そして合間の笑い。…っていうといつもの北野映画なんですけど、今作はより大きなスケールを感じましたよ。まさに「よっ!待ってました!」に相応しい、北野武作品を観た!!という満足感溢れる一本でした。
「首」はアマゾンプライムビデオで観られます!
80年代を代表する「耽美系」映画「アナザーカントリー」レビューはこちら
11/25追記:今作のコントはどうしてこんなに笑えたのか?!
上述した「作中のコントが面白かった」のはなぜか?考えた結果出た答えは「フリがでかい」という実にシンプルなもの。お笑い…っていうか多くの物語は「フリ」と「落ち」で出来ています。フリが大きければオチも大きくなりドーンと笑える。今作のフリとは「名優をズラリと揃え、膨大なお金と人手と時間をかけた大作である。武監督のスキャンダルも色々あり完成が危ぶまれた。さらにKADOKAWAとの揉め事でお蔵入りになる可能性すらあった。そんな苦難の末に生まれ、やっと公開された作品である」というものです。それでやってるのが戦国コントなんか〜い!しかも一発撮りのアドリブなんか〜い!っていう、コントそれ自体がオチなのです。大阪なら「感動作にしないとあかんやろが〜い!」っていうツッコミを入れるところ。それをさらっとやるところが東京の笑いって感じで粋ですね。