映画ごときで人生は変わらない

映画大好き中年主婦KYOROKOの感想と考察が入り混じるレビュー。うっすらネタバレあり。週1〜2回更新中!

【ディア・ドクター】感想/悲哀あってこそ芸人(ネタバレほぼなし)


ディア・ドクター [Blu-ray]

基本情報

公開年:2009年

監督:西川美和(他監督作品:ゆれる 永い言い訳

キャスト:笑福亭鶴瓶(伊野治/医者)瑛太(相馬啓介/研修医)

余貴美子(大竹朱美/看護師) 八千草薫(鳥飼かづ子)井川遥(りつ子/かづ子の娘で医者)

上映時間:127分

あらすじ

<以下公式サイトより引用>

山間部に位置する人口1千余人の小さな村・神和田村にある村営診療所から村の唯一の医者・伊野治(笑福亭鶴瓶)が失踪する。伊野と数年来コンビを組んできたベテラン看護師の大竹朱美(余貴美子)や、地域医療を現場で学ぶため2ヶ月前から神和田村診療所で働いていた研修医の相馬啓介(瑛太)は突然の伊野の失踪に困惑するばかり。やがて村の依頼を受けた警察がやってきて伊野の捜索を始めるが、捜査を続けるうちに誰も伊野の背景を知らなかったことが明かされる。

かつて、神和田村には医者が一人もいなかった。そんな村にやってきた伊野はいろいろな治療を一手に引き受け、更には老人達の話し相手になってくれる大らかな人柄から村人に慕われるようになる。

そんなある日、伊野は鳥飼かづ子(八千草薫)という一人暮らしの未亡人を診察する事になった。伊野の診療を受けるうちに次第に彼に心を開いていったかづ子は、ある時伊野に「自分の家族に嘘をついて欲しい」と頼む。だが、伊野がその頼みを引き受けたことで、同時に伊野が隠してきたある「嘘」が次第に浮かび上がっていくことになる。

面白かったですね〜昨日のR-1グランプリ。夢がないと言われるだけあってあまり盛り上がっていないような気もしますが、田津原理音さん優勝おめ!結局後番組「ENGEIグランドスラム」「さんまの向上委員会」までずっと観てしまいましたわい。んでいまさらですが思ったのはコントだけでなく漫才もピン芸もやっぱ「演技力」だよなあ〜と。芸人さんは役者としても大変優れている方が多いです。というわけで笑福亭鶴瓶師匠が主演の「ディア・ドクター」のことを。

感想

鶴瓶師匠は演じているのか?

鶴瓶はこの作品で「偽医師」を演じますが、これ演じてるって言うんですかね?「芸人は役者として優れてる」と言ったそばからナンですが。「家族に乾杯!で来てんねん。なんやややこしいから説明せんけどいろいろあってな、医者の格好させられてんねん。」でもいけそうですね。

監督の手腕なんでしょうが、この作品の中では鶴瓶=奥底にコンプレックスを抱えた心優しい偽医者がピタリとズレなく収まっており、この人あっての映画になっています。

よく「喜劇人ならではの悲哀」と言った表現をしますが、芸人の悲哀とはどこから来るのかちょっと考えてみました。

一つは「笑われる」経験の多さではないでしょうか。「人に笑われる」というのは人間にとって相当屈辱的なことです。どんな芸人でもスベる時はスベる。笑わせるつもりが笑われる。自分も一緒に笑っちゃえるくらいの軽いノリなら良いでしょうが、全力で「笑わせる」つもりだったのが「笑われる」のはこの場から消えてなくなりたい…と思うくらいショックでしょう。その屈辱を身に受けて「悲哀」が育つのではなかろうかと。

そしてもう一つ。

「ディア・ドクター」の伊野治が偽医師だということは看護師はもちろん、村の人もうっすら気づいていています。それでも「医者」として扱います。だって村で唯一の医者ですから。いなくなったら困ります。それに親切でとても良い人ですしね。こんなふうに「周囲に見込まれて舞台から降りられないようにされる」という所も人気芸能人になってしまった鶴瓶と被ります。人気になってしまうと「その人の関連で仕事をもらう」周りの人が出てくるので自分は辞めたくても辞められないんですよね。そしていつの間にか自分の意思とは関係なく、猿回しの猿のごとく舞台で踊り続けなくてはならなくなる。食えない貧乏芸人とはまた違う悲哀が生まれます。

この作品、鶴瓶師匠をキャスティングできたことでもう良い作品になることは約束されていたんでしょう。

井川遥の二の腕に見る女の嫉妬

と、鶴瓶師匠の話になってしまいましたが、「ディア・ドクター」は地方の医師不足という社会問題をテーマにした骨太の作品でもあります。八千草薫さんはもちろん、チャラい研修医の瑛太、それから八千草薫の娘、井川遥さんもすごくいい。

女性監督だから撮れる、という言い方は今の時代ダメなのでしょうが、西川美和作品にはそれでもそう言いたくなるほどドキッとする「女」を感じさせるシーンが必ず出てきます。今作では、りつ子(井川遥)に対する他の姉妹の言葉でした。都会でバリバリと医師として働いている独身のりつ子はかづ子の娘です。娘は3人おり、他の2人はどうやら田舎に残った既婚子持ちで、身なりも雰囲気もりつ子とは対照的。世帯収入の差も大きそうです。そこにりつ子はノースリーブ姿で帰ってきて寝転んでいます。りつ子が寝ていると思っている2人の姉妹、ちらっと見やって「腕なんか出しちゃって」と意地悪な口調で言うのです。

このなんとも言えない嫌さ、伝わるかな〜。

ノースリーブはりつ子にとって取り立てて「おしゃれな格好」ではありません。でも他の姉妹にとっては「嫌味なおしゃれ」なんでしょう。それを寝ていると思って小さな声で言う。本当は起きているりつ子はそれを聞いている。ああ〜ヤダヤダ。これ、男3兄弟だったら生まれないシーンだと思うのですが、どうでしょう?

人生変わった度

★★

ちなみに今一番役者として見たい芸人はウエストランドの河本さんです。舞台上であれだけ「『何もしない』をできる」ってすごくないですか?!

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