映画ごときで人生は変わらない

映画大好き中年主婦KYOROKOの感想と考察が入り混じるレビュー。うっすらネタバレあり。週1〜2回更新中!

【暗殺の森】感想(ネタバレあり)/ハンパな生き方はどこまで行っても苦しいのだ

 

暗殺の森【4K修復版】 UHD+Blu-ray [Blu-ray]

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  • ジャン=ルイ・トランティニャン
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基本情報

公開年:1972年

監督:ベルナルド・ベルトルッチ(他監督作品:ラストエンペラー ラストタンゴ・イン・パリ)

脚本:ベルナルド・ベルトルッチ

キャスト:ジャン=ルイ・トランティニャン(マルチェロ・クレリチ)ドミニク・サンダ(アンナ・クアドリ)エンツォ・タラシオ(ルカ・クアドリ教授)ステファニア・サンドレッリ(ジュリア)    

上映時間:127分

あらすじ

<以下アマプラの紹介文より引用>

1928年から43年までのイタリアを舞台にファシズムの発生とその崩壊を描く。〜中略〜大学の哲学講師のマルチェロは、13歳の時、彼を犯そうとした同性愛の男をピストルで射殺して以来、罪の意識が消えずにいた。マルチェロは、殺人狂かもしれない自分の血筋から逃れるために、熱狂的なファシストになっていった。ある日マルチェロは、ファシスト政府から、学生時代の恩師でパリに亡命中の教授の調査を命じられ、婚約者のジュリアとの新婚旅行を口実にパリに向かう。

恥ずかしながらこの名画、観ないとなと思いつつずっと未見でですね…、4Kレストア版がアマプラにあったので、思い立ったら吉日!とばかりに観てみましたよ。いや〜、この年で観て良かったと思いました!若い時に観てたら主人公のマルチェロにイライラするばっかりだったんじゃないかと。映像は流石に美しく見どころはありすぎです。

ではどの辺が良かったのか?あと何故「若い時に観たらイライラしっぱなしだよ!」と思ったのか、感想です〜。

感想

救いのジュリア

ベルトリッチの最高傑作との呼び名も高い「暗殺の森」、4Kレストア版で観ました。映像の美しさ、ドミニク・サンダの美しさについては今さらワタシが語ることでもないので置いといて、と。

ワタシがいいなあと思ったのは主人公マルチェロの妻、ジュリアのキャラクターです。いつも暗い顔をしているマルチェロに対し、享楽的で明るいんです。お酒、ダンス、性的快楽が大好き。いやよくマルチェロと結婚したな?マルチェロのどこが良かったん?と問い詰めたくなりますよ。マルチェロがクアドリ教授とその妻アンナ(ドミニク・サンダ)殺しに関わっていることを知ってなお一緒にいてくれる。物事を深く考えないからこその情深さがあります。彼女の存在が「苦しい人生そのもの」のようなこの作品の救いです。ついでに言うとこのジュリアと謎めいた女アンナが踊るシーンは白眉!身体のラインを美しく見せるため2人とも下着をつけず、薄いドレスを着ています。踊る刹那の時間は彼女たちの人生の最も美しい瞬間のようで切ない。当然衣装も素晴らしいです。

マルチェロ、中途半端やん?

さて、「若い時に観てたらイライラしそう」と思ったのは何故か?それは主人公マルチェロの中途半端さです。「あらすじ」に書いた通り、子供の頃同性愛者の男に襲われそうになり銃殺してしまったという罪の意識を抱えるマルチェロ。(逮捕はされていません)。その上、どうやら父親も暴力的。「自分は普通の人間とは違うヤバい衝動を持っているのではないか?」と恐れるあまり、「大衆的なごくふつうの人間になりたい」と考えます。そんで大戦下当時の「ふつう」というのが「ファシスト」だった、と。

話が進んでいくうちにわかるのですが、マルチェロは大学で哲学を学んでいます。ここでワタシは「待て待て。」と思ってしまったわけですよ。「ふつうの人間」になりたくば哲学なんぞ専攻すなよ、と。この選択がまず中途半端。そう、物語上マルチェロの人生が辛くなったのは子供の頃の事件のせい、ということにはなっていますが、マルチェロはもともと希死念慮のある人なのです。(誤解を恐れず言うならば、哲学に惹かれる人は希死念慮のある人だと思っています)。

そしてファシスト組織の一員となった彼は政府からの依頼でかつての恩師であるクアドリ教授の暗殺を命じられます。クアドリは反ファシズムだったからです。そんで「お久しぶりです先生〜」なんつってクアドリを訪ね、そしたら彼の若妻のアンナに魅了され、アンナを一緒に殺すことになったら嫌だなとか思い始める。結局、自分では教授もアンナも殺せず、ファシスト仲間に手を汚してもらう。その仲間に「卑怯者が!」と罵られます。そりゃそうよ。

ところどころ光が差し込む暗い森、逃げ惑う女、銃声、鮮血。このシーンを有名にしているのは、まさに希死念慮という概念を映像化しているからだと思います。マルチェロがずっと殺したかったのは自分自身なのに、横たわっているのは別人の死体なのですよ。

やがて戦争は終わり、ムッソリーニ政権も倒れ、真逆の時代がやってくる。妻ジュリアに「これからどうするの?」と聞かれると「また大衆に紛れるだけだ(たぶんこんなセリフ)」と言います。

そして最後、自分が殺したと思っていた同性愛者の男にバッタリ会います。ヤツは生きていた!俺は人殺しじゃなかった!俺のこれまでの苦しみはなんだったんだ!と自暴自棄になる。

ええ、50代の今ならよく分かります。誰しも子供の頃のトラウマを持っている。ほどほどに時代に乗ってれば間違いない。けど時代と心中するほどの勇気はない。そしてずっと死にたいと思っているのになぜかまだ生きている。その成れの果てがこうなんだよなあ…。

マルチェロは戦後も、これまでと同じようにつまらなそうな顔をして生き続けるでしょう。死にたいと思いながら時代に、大衆になんとなく迎合しつつ生きている多くの人々と同じように…。

時代設定こそ戦中ですが、同作の「どう生きるか」という普遍的なテーマは今にも通じます。ハンパもんは苦しみながら生き続けるんだよなあ…なんて観終わったあとしばらく鬱々となっちゃいましたよ…。

もし20代で観てたら「気持ちは分かるけどぜってーマルチェロみたいなハンパな生き方はしないぞ!」とパンク精神を深め、結果世間的にはしんどい人生になっていたことでしょう。くわばらくわばら。

人生変わった度

★★★★★

バウハウスっぽい建築物(?)も良かったです

2024/3/20現在、アマプラ会員特典で観られます!

暗殺の森 [4K修復版] (字幕版)

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