映画ごときで人生は変わらない

映画大好き中年主婦KYOROKOの感想と考察が入り混じるレビュー。うっすらネタバレあり。週1〜2回更新中!

映画の中の絵画【ある男・オブリビオン・甘い生活】考察!隠された意味とは?!

いえね、特別な意味はないんですけどちょっと趣向を変えてみたくなりまして。今回は「絵画が印象的な映画」をテーマに3作品まとめてみようかなと。なぜ絵画かといえば単なる思いつきです、ハイ。映像の中に意図的に選ばれて置かれる絵画には当然深い意味があり、その意味を知るとまた映画が違って見えて面白いのです。あ、わりとネタバレしていますのでご注意下さい。

「ある男」の中のマグリッド

2022年の邦画「ある男」。原作:平野啓一郎、監督:石川慶、主演:妻夫木聡。

※映画の詳しい内容はDVDの紹介文をどうぞ〜


ある男 特別版(数量限定生産)(本編Blu-ray1枚+特典DVD1枚) [Blu-ray]

この作品の冒頭に登場する絵画はマグリットの「複製禁止」。主人公の弁護士、城戸(妻夫木聡)が通うバーの壁に飾られています。絵には一人の男が鏡を見る背中が描かれています。その鏡には当然、男の顔が映るはずですよね?ところが「複製禁止」の中の鏡に映るのは男の背中。まるでコピーのように2つの男の背中が並んでいます。マグリットならではのシュールな作品ですね。映画ではさらにその絵の前に妻夫木くんの背中が重なります。つまり画面(映像)の中に顔が見えない男の背中が3つ。

「アラビアのロレンス」の回で「良い映画ってのはオープニングがその映画の全てを表現してるらしいですぜ」と書きましたが、「ある男」はそのセオリー通りの素晴らしい冒頭です。

タイトルの「ある男」とは、片田舎に住む主婦の里枝(安藤サクラ)の夫、大祐(窪田正孝)のこと。大祐が事故で急死した後、彼の経歴も名前もすべて嘘だったことがわかり、一体夫は何者だったのか?!を探っていくミステリーです。そのミステリーを解いていくのが安藤サクラが依頼した弁護士の城戸(妻夫木聡)というわけ。

以下ネタバレあり!!

タネを明かすと、大祐は死刑囚の息子。それを隠すため戸籍売買ブローカー(柄本明)に依頼し、他人の戸籍を買ったのです。城戸は有能な弁護士で一見恵まれた環境にいますが、在日韓国人のため妻の実家でなんとも嫌味な差別を受けます。大祐の過去を追ううちに城戸の中にも「自分も別人になりたい」という気持ちが芽生えていきます。そして最後は、冒頭と同じマグリットの絵が飾られているバーでグラスを傾ける城戸の背中で幕を閉じます。

鏡を前にしてさえ顔の見えない男。それは生まれた時からある種のスティグマを背負わされた人間にとって憧れです。一枚の絵を実に効果的に使った素晴らしい演出!作品自体も面白いのでぜひ!

ある男

ある男

  • 妻夫木聡
Amazon

「オブリビオン」のワイエス

トム・クルーズ主演のSF「オブリビオン」(2013年)。ストーリーは複雑でワタシも細部まで理解できたかといえば自信はありません。

※映画の詳しい内容はDVDの紹介文をどうぞ〜。あとWikiにはかなり詳しくあらすじが書いてあります。


オブリビオン (4K ULTRA HD + Blu-rayセット)

エイリアンの襲撃でほぼ壊滅し、人類のいなくなった地球で相棒と2人で警備を行うジャック(トム・クルーズ)。

以下ネタバレ注意!!

実はジャックは何人もいるクローン人間の一人。すべてのクローンに5年以上前の記憶がないのですが、主役のジャックにだけ、記憶の断片が残っていて…みたいな展開。その「記憶の断片」とは「美しかった地球への郷愁」。ジャックは自分でもなぜかわからないけどノスタルジックな風景に惹かれるのです。唯一自然が残っている地区があり、ジャックはそこの小屋で「昔の地球人」のようにネルシャツを着てレコードを聞きバスケットをして遊びリラックスします。この小屋にかかっている絵がワイエスの「クリスティーナの世界」。何度かこの絵がクローズアップされます。「クリスティーナの世界」で検索すると出てきますが、この絵は草原の中遠くにアーリーアメリカン調の家が見え、手前にいるピンクのワンピースの女性が横座りの格好でその家を見上げているという構図。草原でくつろいでいるようにも見えますが、実はこの女性クリスティーナは生まれつき脚が悪いながらも、誰の手も借りずに下半身を引き摺りながら草原の向こうまで毎日お墓参りに行くという逞しく強い女性。「クリスティーナの世界」はその日課の帰り道を描いたものです。ワイエスのご近所さんだった実在の人物でもあります。

さて、映画「オブリビオン」はハッピーエンドなのか良くわからない終わり方をします。自分は大勢のクローンの一人だと気づきショックを受けるジャックですが、「郷愁」というおそらく他のクローンにはない感情だけが「自分は他とは違う」という気持ちの拠り所です。ワイエスはアメリカの郷愁を感じさせる画風ですが、そこに描かれているのは力強く運命に逆らって生きる女性。それを知るとオブビリオンもきっとハッピーエンドなんだろうな…と思います。賛否ある映画ですがワタシは好き。荒廃した地球も、対照的なジャックの秘密の小屋も両方ともとても美しいです。

※2023年8月現在プライム会員特典(レンタル料なし)で観られます

「甘い生活」のモランディ

名作、フェリーニの「甘い生活」(1960)。とても素晴らしい作品ですが小説家を目指していたのにゴシップ記者に甘んじて生きる主人公マストロヤンニの生活ぶりと荒んだ心がぐっさりと刺さりすぎて、もう一度観る勇気がありません…。

※映画の詳しい内容はDVDの紹介文をどうぞ〜。


甘い生活 4Kデジタルリマスター版(スペシャル・プライス) [DVD]

作中出てくるのがモランディの絵。(同じような絵が多すぎてなんという題名の絵かは不明)。マストロヤンニ演じるマルチェロが憧れる「スノッブな友人」の家に飾られています。この絵について友人は「この絵は偶然に描かれたものではない」と言います。しかしこの憧れの友人、その後家族を巻き込んで無理心中してしまうのです。

モランディは並べた瓶や立体の配置を少しずつ変えながら何枚も何枚も同じような絵を執拗に描いた作家です。細部と光にとことん拘り、もちろん「偶然を捉えた」ものは一つもありません。

モランディの絵と友人の言葉、一体この物語の中で何を表現しているのか…。すみません、ワタシはよう分かりませんでした。考えられるとすれば、はたから観てオシャレで軽やかに生きてるような人も血の滲むような努力をしている、という意味でしょうか…。それはマルチェロの友人の生き方そのものであり(だから疲れて心中してしまった)、小説家を目指しながらも目先の享楽に溺れて努力を怠るマルチェロには決して描けない絵、という意味かも知れません。もう一度観れば何かヒントが得られそうですが、前述のように勇気がありませんのです…。

そんなわけで「こんな意味では?!」と思われる方、ぜひコメント下さい〜!(他力本願)なお同作「享楽的生活の中の虚無」をこれでもかと突きつけてくるので落ち込みそうな方はお気をつけ下さいね!!

※残念ながらAmazonプライムビデオでは観られません。U-NEXTなどで観られるようです〜