基本情報
監督:デヴィット・リーン(他作品「戦場にかける橋」「ドクトル・ジバゴ」等)
公開年:1963年
キャスト:ロレンス/ピーター・オトゥール アリ首長/オマー・シャリフ
ファイサル王子/アレック・ギネス アウダ・アブ・タイ/アンソニー・クイン
上映時間:207分
あらすじ
<以下「アラビアのロレンス」公式サイトより引用>
1914年、第一次世界大戦が勃発し、アラビアはドイツと結んだトルコ帝国の圧政下にあった。英国は、ドイツ連合軍の勢力を分散させるため、稀代の天才戦略家ロレンスをアラビアに派遣する。ハーシム家のファイサル王子の軍事顧問となったロレンスは、ハリト族のリーダー、アリや黄金を探し求めるアウダらとともに、独自のゲリラ戦法を駆使して反乱軍を指揮し、アラブ国民から砂漠の英雄とうたわれるようになる。だが次第に自分が軍上層部に利用されていることを知り、アラブ民族もまた、部族間の対立からロレンスを裏切っていく・・・。
「映画のお手本」と言われる理由
えーっと、どこかの本で確か淀川長治先生が言っていたこととして読んだのですが、(きちんと出典見つけたら追筆しますね〜)「アラビアのロレンス」のオープニングのバイクのシーン。あれは「オープニングがその映画の総てを表す」という意味で映画のお手本のようなシーンである、と。
そのオープニングとは、バイクに乗った一人の男性(ロレンス)が、はじめはおっかなびっくりゆっくりと走っているけど次第に気持ちよくなりスピードを上げる。どんどん上げる。猛スピードになる。そのあげく自転車を避け損ね岩に突っ込みます。そう、この作品はロレンスが亡くなるシーンから始まるのです。実際のロレンス(トーマス・エドワード・ロレンス)も46歳でバイク事故で亡くなっています。
「バイクで事故る」というありがちなシークエンスがなぜ「映画のお手本」なのか?それはこの作品がロレンスの青春の栄光と挫折を描いた作品だからです。はじめはへっぴり腰。でもうまく操縦できると分かると途端に気持ちよくなり調子こいて無駄なスピードを出す。あげく事故る。ああ、青春。
青春とは年齢ではありません。調子に乗り続けることができれば続くのです。青春の終焉は自分でハタと気がついてスピードを緩めるか、ロレンスのように事故に遭うかどちらかしかありません。つまり、このオープニングのバイクシーンがロレンスの青春を描いた同作そのものを表しているのです。
かくいうワタシも身に覚えがあります。わりと特殊な業界にいたせいでずいぶん長い青春を味合わせてもらいました。「さすがに年齢的にもう無理だ」と自分でスピードを緩めたのが青春の終わりだったな〜と。今思えば調子に乗ってた頃の自分って、思い出すのも恥ずかしい黒歴史ばかりですわ。でも楽しかったし恥ずかしいからこそ青春だよな、と思います。
「ロレンスの人生の栄光と挫折を描いた作品」と紹介するのが一般的ですが、ワタシはこれ人生っていうより青春の話よなと思います。なんつて青春論をぶち上げてしまいまいましたが、作品に戻ってあらすじと感想など。(以下ネタバレ注意!それとこの重厚な名作を勝手な解釈でねじ曲げていますがご容赦ください!)
あらすじと感想
ドM エピソードからスタート
いきなりロレンスが亡くなり葬式から始まる本作。次の場面では過去に戻り、エジプトに勤務していた英国陸軍少尉のロレンスが工作員としてアラブの部族に接触せよと任命を受けます。なぜロレンスに白羽の矢がたったのか?それはロレンスが変人だからです。アラブ語を習得しアラブ文化に詳しい…なんてのは当時の感覚では変人です。とくに軍隊の中では奇人中の奇人でしょう。しかも特技は「指でマッチの火を消すこと」。熱いでしょうに。Mかな? とまあ、このブロックではロレンスの変人ぶりと与えられた任務が語られます。
美しい砂漠のシーンとはしゃぐロレンス
その後を大雑把に説明すると…ロレンスは、「国」という単位がなく対立していたアラブの部族を一つにまとめあげ、もちろん本当はイギリスのためなんだけど「アラブのみんなのために」とアラブの部族たちをオスマン帝国(トルコ)との戦いに駆り立てます。
上映時間207分の超大作に完璧主義者のデヴィット・リーン監督。美しい砂漠の名シーンが数々出てきます。監督命令で砂の上のスタッフの足跡を全部消したという逸話もあるとか…。ほっこりするのはロレンスが砂漠の民の仲間と認められて真っ白い民族衣装をプレゼントされ、嬉しさのあまりすぐ着用してあははうふふとはしゃぐシーン。カワイイですね。
そしてロレンス率いるアラブ軍は快進撃を続け、ついにオスマン帝国の占領地アカバを陥落させます。ロレンスは無事任務を果たしたわけですが…ここからがバイクで言う「事故る」寸前です。
自国の三枚舌外交に騙されて…
純粋というか軍人よりも学者肌だったロレンスは自国の言う「アラブのため」をかなり本気で信じていたんですね。ところがイギリス政府はアラブの野蛮人のことなど知ったこっちゃない。いわゆる「イギリスの三枚舌外交」というやつです。アラブに対しては「オスマン帝国やっつけてくれたらこのへんの土地あげるね」と言いつつ、フランスとロシアとイギリスで「俺ら勝ったらここ三等分ね」と闇の会議をしつつ、ユダヤ人には「えっ?何?お金出してくれんの?!じゃあウチらが勝ったらこのへんの土地あげるね!」と約束していたわけで。つまり今のイスラエルあたりの土地を「イギリスを勝たせてくれたらここあげるからがんばって!」と三方に対してやっていたんですよ。
このあたり世界史で学びましたけど、まさか天下の大英帝国がそんな卑怯な真似するわけないと思い込んでいたせいかよく理解できず、「アラビアのロレンス」も3回ほど観てやっとわかりました。ひどいですねイギリス。民間人がやったら詐欺罪でぶち込まれますよ。今に至るパレスチナ問題の一因を作ったわけですから…。
さてロレンスは軍の中でさほど上層部にいなかったので、アラブに対しての「オスマン帝国やっつけてくれたらこのへんの土地あげるね」しか聞いていませんでした。国に裏切られたわけです。さらに共に戦ったアラブの民も勝ったとばかりに大騒ぎして目に余る略奪行為をしたり、アラブ自身の手で勝利したという事実が欲しいがために白人のロレンスを急に邪魔者扱いしたりと散々。失望したロレンスはアラブを去ります。たぶんイギリスとアラブに失望したというより、甘ちゃんの自分にやんなっちゃったんでしょう。あんなに美しいと憧れた砂漠を、ラクダを、そしてともに戦った仲間達を、ロレンスはロールスロイスに乗って追い越していきます。振り返りもせず。
間違いなくロレンスの青春はここで終わったのです。…切ない…。
まとめると
青春時代のイキリって黒歴史になりかねませんよね。とくにロレンスのようなインテリで自意識高そうな人は、民族衣装をもらって嬉しくてあははうふふしていたことなんて思い出すたびに「ああああ〜〜忘れたいぃぃ〜忘れてくれ〜!」ともんどりうつのではないでしょうか。
「あれは黒歴史や〜!小っ恥ずかしいし、やんなっちゃったし砂漠にももう興味ないし〜」ってなってロールスロイスで一瞥もせずにラクダを追い抜くロレンス。そんな彼を「煽るだけ煽ってアラブを見捨てた!冷酷!」と思う向きもおありでしょうが、ワタシは言いたい。
青春の黒歴史を持たないものだけがロレンスに石を投げよ、と。
さて、この作品初めて見たのは高校生の時だったのですが、クラスメイトの今でいう「腐」のジュンコちゃん、「ねえねえ、ロレンスが敵に捕まって上半身脱がされるとこあったじゃん?あれヤられてるよね?」と言いました。そんなこと微塵も考えつかなかったワタシは「ええ〜マジ?!」となりましたが、後で色々調べたらその通りらしいですね、どうも。。うーん‥ツライ…そして腐、恐るべし。
それから今調べててウィキ「トーマス・エドワード・ロレンス」にすごい一行発見。
ロレンスは自伝にて、戦時中に変装し潜り込んだ地で敵に拘束され苦しい拷問の末、快感を覚えるようになったと告白しているしかし、戦争が終わった後に拷問の機会は訪れることは無いため、わざわざ人を雇って自分を鞭で打たせている。
どええええ…!冒頭のマッチの火を指で消すシーンがまたなんとも深みを持ってきますね…。
「アラビアのロレンス」はアマゾンプライムビデオで見られます〜