映画ごときで人生は変わらない

映画大好き中年主婦KYOROKOの感想と考察が入り混じるレビュー。うっすらネタバレあり。週1〜2回更新中!

【乾いた花】感想と考察(ネタバレあり)/スコセッシも絶賛のフィルムノワール傑作!


<あの頃映画> 乾いた花 [DVD]

基本情報

公開年:1964年

監督:篠田正浩(他監督作品:瀬戸内少年野球団 スパイ・ゾルゲ)

脚本:馬場当

キャスト:池部良(村木)加賀まりこ(冴子)藤木孝(葉)原知佐子(古田新子)

上映時間:96分

あらすじ

<以下、DVD紹介文より引用>

やくざを殺して、三年ぶりに出所した村木(池部良)の足は賭場に向かった。賭けの緊張感とその後の虚脱感だけが村木に生を実感させた。その賭場で少女(加賀まりこ)と村木は出逢う。茣蓙を見つめる熱っぽい眼差しと、勝負への放胆さを持つ少女に村木は羨望と嫉妬を感じた。少女にせがまれて大規模な賭場に案内した村木だったがその部屋の隅には殺しと麻薬にだけ生きている中国帰りの葉(藤木孝)がうずくまっていた……。

※ちなみに松竹の公式サイトにはラストまでのあらすじ(ネタバレ)が掲載されています

www.shochiku.co.jp

あのマーティン・スコセッシ監督が惚れすぎてフィルムを購入したという逸話のある本作。そして公開当時「難解」という理由で8ヶ月公開を延ばされた上に成人指定で公開となった問題作(現在はPG-12)でもあります。原作:石原慎太郎、音楽:武満徹。この情報だけですでに大好物の予感です。狂った果実を書いた際に見つけましてね、この度やっと観たのですがやっぱりワタシ好みのダークなクライム作品でしたよ、たまりません!なんでも「松竹ヌーベルヴァーグ」と呼ばれる作品群の一本だそうで。では感想とちょびっと考察です。

感想

コントラストの強さにシビれる!

主人公はムショ帰りのやくざの村木(池部良)。再び組に戻り鉄火場に出入りします。その鉄火場で出会った謎の美少女が加賀まりこ演じる冴子。彼女に請われより大きなカネが動く鉄火場に案内する村木。冴子は夜の高速をスポーツカーでカーチェイスしたり、麻薬に興味を持ったりと、強い刺激を求めます。二人は同じ時間を過ごしますがあくまで「客」と「案内人」です。さて、この作品を鮮烈なものにしているのはその光と影のコントラストの強さです。荒くれた男ばかりの鉄火場にポツンと咲く若い美女。戦後の雰囲気の残る侘しい裏路地と冴子のスポーツカー。死に向かう村木と新しく生まれた小さな命。村木と冴子が会って遊ぶのは常に夜ですが、ワンシーンだけ昼間の明るい日差しの中で相まみえます。夜と昼。見事なコントラストです。初めて見る「昼の冴子」をじっと見つめる村木。無表情で一瞥するだけの冴子。この場面だけで2人の関係の複雑さがわかります。ウキーっ!カッコいい!!これ、カラーだと「やりすぎ感」でちゃうんだろうな。モノクロだからこそ、後を引くような味が出ているのだと思います。

加賀まりこが見ていたものは?

池部良演じる村木はやくざを殺して服役していた男。殺した理由は「仁義のため」「何の意味もない」と言います。村木の中にあるのは空洞です。その空洞を埋めるためにやくざとなりギャンブルも嗜みますが「身を破滅させるほどのめり込む」ことはできません。冴子はそんな村木と同じ魂を持った娘です。最後のほうで「あなたが好きよ」と村木に言いますが、冴子が好きなのは村木に映った自分自身であり、彼が見せてくれる「刺激」に過ぎません。村木はそれを分かっており「とっておきのを見せてやる」と、殺しの現場に冴子を連れて行きます。敵対するヤクザの親分を刺し殺す村木。それを真っ直ぐに見つめる冴子。目を爛々とさせ、口元はほんのりと笑っているようです。冴子は殺されるやくざに自らを投影してうっとりしていたのではないでしょうか?ああ、なんというめくるめくタナトス!冴子は「生きていること」に、もはやなんの刺激も感じていないのでしょう。

実を言うと池部良はおぼっちゃま風味が残っていて、あんまり若い娘が惹かれそうなダークさがないなあ、と思っていました。ダチの杉浦直樹のほうがカッコいいやんけ、と。しかし池部良がカッコ良すぎると「冴子は本当に村木自身に惚れている」と見てしまうので、これはこれで良かったんだろうね、うん。

考察

加賀まりこ(冴子)の正体は?

(注!ネタバレあり!)年後。再び刑務所に入っている村木。そこに新入りとしてダチが入所してきます。シャバでの噂話を持ち込むのですが、その話に出てくるのが冴子のこと。「冴子が殺された。それであの女の身元が分かったんですがね…」というところで会話が遮られてしまいます。果たして謎の女、冴子は誰だったのか…?村木にとってはどうでも良いことです。おそらくですが、一度だけ昼間に出会った冴子の様子からするといいところのお嬢さんでしょう。生まれた時から許嫁が決まっているような。昔、やんごとなき方々が通われる学校の高等部卒の知人から聞いたのですが、家柄のよいご学友たちの無軌道ぶりといったら、その辺の不良の比較ではないようでして。神楽坂生まれの加賀まりこにもそんな匂いを感じるし、原作の石原慎太郎の周囲にもいたような人物像ではないでしょうか。

シャバに出る日まで冴子が待っていてくれる…なんつう甘っちょろい考えは村木には1ミリもなかったでしょうが、心に同じ空洞を持つソウルメイトの冴子がもうこの世にいないという事実はじわじわと彼を蝕んでいくのでしょう。刑務所の中、光刺す庭での休憩が終わり真っ暗な室内の中に入ってくる村木のシルエット、そして扉が閉められ真っ暗になるというラストカットが象徴的です。

最後に、恥ずかしながら石原慎太郎の小説を読んだことがないのですが(小説家以外の諸々のイメージが強すぎてどうもねえ…)、今作を観てやっぱりワタシ好みなのでは?と思いました。慎太郎も今作を絶賛していたそうですよ。

人生変わった度

★★

空洞のやっかいさは持ってる人しかわからない

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乾いた花

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