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【キング・オブ・コメディ(1983)】感想(ネタバレあり)と考察/「ジョーカー」との類似点と相違点と

 

不穏度

50(100を満点として)

見終えた直後が最も不穏

基本情報

公開年:1984年(日本公開年)

監督:マーティン・スコセッシ

脚本:ポール・D・ジマーマン

キャスト:ロバート・デ・ニーロ(ルパート・パプキン)ジェリー・ルイス(ジェリー・ラングフォード)ダイアン・アボット(リタ)サンドラ・バーンハード(マーシャ)

上映時間:109分

あらすじ

<以下、アマプラ紹介文より引用>

ニューヨークに住むコメディアン志望のパプキンは、人気コメディアンのジェリー・ラングフォードの熱狂的なファン。ある日、パプキンはファンに取り囲まれるジェリーの車に強引に乗り込み、彼と面会する口約束を取りつける。その後、パプキンは何度も事務所を訪ねるが、ジェリーは全く取り合わない。業を煮やしたパプキンは、同じくジェリーの熱狂的ファンである女友達のマーシャと共謀してジェリーを誘拐してしまうのだが…。

評価

ドえらいこと面白かったです!!

えっと…、10/11〜公開の「ジョーカー フォリ・ア・ドゥ」。映画館で散々予告編を観せられたので楽しみにしていましたが、一足先に公開したアメリカではとんでもない低評価のようです。逆に面白そうだし、体調もよくなってきたんで観に行こうかと。(追記:観ましたよ!レビュー記事はこちら

と、その前に前作を見返して書こうかと思ったんですが、「ジョーカー」、結構な鬱映画なんで正直再見したくはない。

そこで「ジョーカー」に多大なる影響を与えたと言われる「タクシー・ドライバー」と「キング・オブ・コメディ」のうち未見だった後者をアマプラで観ました。

お、思ってたより「ジョーカー」に似ている!

でも「ジョーカー」ほど鬱映画じゃないぞ!笑えたし!

名作と言われるだけのことはある!

…ってなわけで以下感想です〜(ネタバレあり!)

感想と考察

現実か妄想か?論争

主人公がヤバめな人、という意味では「タクシードライバー」も「ジョーカー」も今作「キング・オブ・コメディ」も皆同じです。

ただですね…一般の人が一番「自分に近い」…と思うのは「キング・オブ・コメディ」のパプキンなのではないでしょうか?特に今の時代。

人気コメディアンのジェリー・ラングフォードの熱狂的なファンで、自らもコメディアン志望のパプキン。「もし自分が人気コメディアンだったら」を妄想しながら、ネタを書いてチャンスを狙っています。でも大変な下積み生活はしたくない。ジェリーに大抜擢されて簡単に人気者になりたい。そのためなら多少悪いことをしたっていい。

…これ、炎上系YouTuberじゃん。

同作は1982年の制作。有名になる手段はネットではなくTVです。今のテレビよりずっと影響力があり、出演さえすれば一夜にして人気になり大金も転がり込んでくる。

さすがにここまでの妄想ではなくても「なるべく努力しないで人気者になったりお金持ちになりたい」とは誰もが一度は考える夢。万が一夢が叶ったら「多少の悪いこと」も武勇伝に変わるしね。自分ごとのようでぞわぞわするわあ〜。

映画ではパプキンの妄想が現実と地続きのまま描かれます。「あれ?このシーンは現実?妄想?」としばらく立つまで区別がつかないことも。

そしてその妄想シーンが美しい。笑っている人の写真からカメラが引いていくと、写真の観客の前で漫談をしてどっかんどっかんウケているパプキンの後ろ姿が映し出される…このカットは白眉です。

この映画の恐ろしいところってここなんですよ。妄想があまりにくっきりと美しく映されているのです。

実際のパプキンはというと、「ジェリーと友人になった」という妄想を膨らませオフィスに潜り込み、警備員につまみ出される。彼とつるんでくれるのは同じストーカー仲間のマーシャだけ。病院に通っている、というマーシャは明らかに病気です。

最後はマーシャと組んで番組本番前のジェリーを誘拐。自分が代役で出演することに成功します。パプキンのネタは視聴者に大ウケしますが、直後誘拐犯として捕まり、実刑判決を受ける。しかし刑務所内で書いた自伝が大ヒット。そして出所すると大喝采のうちにステージに迎えられて、エンド。

最後の畳みかけるような出世街道爆走シークエンスに「え?そんなに上手くいく?!」からの「もしかしたらパプキンの妄想なのでは?」「だとしたらどこから…?」と不穏な気持ちになってきます。そしてその不穏さを解決できないままに映画は終わる。

「最後は現実か?パプキンの妄想か?」はずっと論争が続いているようですが、もちろんスコセッシ監督は答えを提示していません。観た人の自由です。

ワタシは誘拐自体も妄想、もちろん最後も妄想だと思います。だって、コメディアンになりたいなら出られる会場はいくらでもあるのに、彼は一度もチャレンジしてないんですもの。「スベるのが怖い」からでしょう。そんな人に人気コメディアンを誘拐して代わりにステージに立つ度胸があるんでしょうか…?どうなの‥?

おそらく車内でマーシャと一緒にジェリーの出待ちをしているカットから妄想。そしてこの妄想にはマーシャの妄想も混じっているように思います。なぜならジェリーを監禁するあの素敵な部屋、あれはいったいどこなんだ?と。いかにも恋する女性が夢見そうな部屋じゃありませんか?!後半は「ジェリーを誘拐しようぜ!」と意気投合した危ないストーカー2人が夢見た世界のような気もします。(ってこれ自体ワタシの妄想ですけど!!)

ジョーカーとの類似点と相違点

「ジョーカー」を観た方は上のあらすじを観てやっぱり似てると思いますよね。「ジョーカー」も最後の精神病院のシーンで「えっ?全部妄想?!」疑惑が浮かびますもんね。そんな全体の感じが思った以上に似ているな〜ってのと、一ヶ所「ジョーカー」を観た時と同じなんとも痛々しい気持ちになるシーンがありました。

それは誘拐犯となったパプキンがジェリーの事務所に電話をかけてくるシーン。電話先ではジェリーのマネージャーらとFBIが待機。

この事務所には以前パプキンが漫談の入ったテープを持参して訪れ、しつこく居座ってつまみ出されています。ジェリーのマネージャーにパプキンは何度か会っています。それなのにマネージャーは電話の主がパプキンだと気付かない。「もしかしてアイツじゃないか?」すら思わなかったようです。セレブリティとその周辺の人にとってパプキンは見えない存在であり、さらにスターにつきまとう彼のような人間は珍しくもないのでしょう。アーサー(後のジョーカー)が底辺の人間として不可視化されていたこと、しかし実は社会には彼のような存在がたくさんいたこと(だから祭り上げられてジョーカーになった)と被ってゾッとしてしまいました。

逆に相違点は、ホントにつまらなかったアーサーの漫談に対し、パプキンの漫談は面白かったこと。ワタシは吹き替えで見たんですが何度か声出して笑いましたもん。

パプキン、本当に才能あるのでは?と思えるあたりが【現実か?妄想か?】がますます分からなくなって不穏。でも実際笑えるから作品全体に暗いイメージがつきません。妄想癖のある男が憧れる存在が歌手でも俳優でもなく「コメディアン」であることが実に効いています。デ・ニーロは当然素晴らしいし、いやはや傑作!ワタシごときが今さら言うことでもないんですけどね!

特に「ジョーカー」を観た方には味わい深いと思いますのでぜひ!109分と短いのも良いですよ!

キング・オブ・コメディはアマプラで観られます〜。