映画ごときで人生は変わらない

映画大好き中年主婦KYOROKOの感想と考察が入り混じるレビュー。うっすらネタバレあり。週1〜2回更新中!

【蛇の道(リメイク版)】評価と感想(ネタバレなし)/名作リメイクはついに胸糞悪さの底が抜けた…!

パンフレットは中身充実です!

基本情報

公開年:2024年

監督&脚本:黒沢清

キャスト:柴咲コウ(新島小夜子)、ダミアン・ボナール(アルベール・バシュレ)、西島秀俊(吉村/小夜子の患者)、青木崇高(小夜子の夫)

上映時間:113分

あらすじ

<以下、公式YouTube概要欄より引用>

何者かによって8歳の愛娘を殺された父、アルベール・バシュレ(ダミアン・ボナール)。偶然出会った精神科医の新島小夜子(柴咲コウ)の協力を得て、犯人を突き止め復讐することを生きがいに、殺意を燃やす。“誰に、なぜ、娘は殺されたのか”。とある財団の関係者たちを2人で拉致していく中で、次第に明らかになっていく真相。 “必ずこの手で犯人に報いを——” その先に待っているのは、人の道か、蛇の道か。

評価

微妙な所もありつつの面白かったです!1998年(制作は97年)版の「蛇の道」を観て「えっ?!こんなスゴイ作品がVシネだったの?!」ってな衝撃を受け、当ブログにネタバレありでガシガシと感想を書いたのが1年前。そんで今回セルフリメイクとあって「『ミステリー』って宣伝してるし、ネタバレのところ伏せ字に変更したほうがいいのかな〜?」などと勝手に気に病んでいましたがまったくの杞憂。前作とは別物でした。いや、同じっちゃあ同じなんだけど。(どっちだよ?)

あのですね、スナッフビデオがオチになる前作の感想でも「イヤミス(後味の悪いミステリー)の走り」と書きましたが今作はそれ以上に胸糞悪いです。グロ描写は出てきません。レーティングはGです。救いのない、心のない、痛覚をえぐられるような作品は他にも沢山あります。でも本作、なんていうか胸糞悪さの底が抜けてるっちゅう感じがするんですわ。しかもそれがさり気なく出てくるんで、この心底怖いグロテスクさに気が付かない人も多そうって所がさらにイヤ。

立川シネマシティで鑑賞、上映後に黒沢清監督×高橋洋さんのスペシャルトークも聞けたのですが、監督「悪い人たちが次々成敗されていく所で少しでも爽快感を感じていただければ」とお話になられていました。…つか、爽快感て。どの口が言っとるんじゃあ?!爽快感など1ミリも湧かんわい!と心の中で突っ込んでしまいましたよ…。

かわいい盛りのお子さんをお持ちの方にはお勧めできません。いやむしろ観ないでください。が、この手の作品大好きな方はぜひ!ちなみに前作は観てても観なくてもどちらでも良いかと思います。では以下感想です〜(なるべくネタバレしないように書いてます!)

感想

どこが胸糞悪いのか?

前作は「ヤクザ組織がスナッフビデオ撮影のために少女を誘拐し殺害した」という話。今回の「悪の組織」はヤクザ(あちら的にはマフィア)ではありません。ミナール財団という組織です。これ、トークショーの質問コーナーでどなたかが質問してくれてハッとしたんですが、胸糞悪さの一つはこの「ミナール財団」がどうも良く分からん組織だってことなんです。アルベールは小夜子の助けを得ながら娘を殺した犯人に復讐していくわけですが、例えば初めにとっ捕まえて監禁する財団の元会計係は人の良さそうな男性です。「えっ?この人悪い人じゃないんじゃない!?何も知らずに悪の手下にされてただけじゃないか?」という疑念が払拭できない。その違和感が劇中ずっと消えないんですよ。監督によれば「前作は『ヤクザ映画』というジャンルの映画だからヤクザが出てきて、ヤクザっていうのは『悪』だから」、観客はすんなり復讐者2人に寄り添うことができたわけです。設定を変えたことによって前作にはない「違和感」「胸糞感」が出てきたように思います。

それともう一つ、前作にはなかった要素が追加されてて、まあこれはネタバレになりそうだから書きませんが、嫌だなあ…うーん、、すごく嫌です。かの名作「CURE」にも通じるところですが、胸糞の底が抜けてるってのはココですわ。愛の裏側にベッタリと貼り付いている憎悪を見てしまったと言うか…。(何言ってるのか分からないと思うんで、観られるそうな人はぜひ観て下さい!!)

小夜子とは何者なのか?

小夜子とアルベール2人の関係性も前作とは大きく違うところ。前作だとアルベールの役回りは香川照之、小夜子は哀川翔です。この2人の場合はいびつながらもギリ「バディ感」があった。しかし今回は一人目を誘拐する最初のシークエンスから彼女が先導しているのがわかります。引っ張る女と引っ張られる男。男、いろんな意味で女に頼りすぎ。

小夜子はフランスに10年滞在している心療内科医です。異国の地で一人で暮らすアジア人女性の「強くならざるを得ない感」があるのはもちろんですが、それ以上に強い目的と意思を目に秘めている。その目が物語を牽引していきます。

そんで、小夜子のクランケの一人が西島秀俊なんですが、なかなかに失礼なこの男を小夜子は一撃で始末します(ネタバレしないように書いてるよ〜)。アルベールのことも操っているように見えるし、、って、ここで思いますよね?!「この人、『CUREの間宮』じゃん…」って。間宮が撒いた種は巡り巡ってこんなところにまでたどり着いたんだなあと思うと感慨深いです。

さて、小夜子はいったい何者なのか?前作の新島(哀川翔)は人間ではないような部分がありましたが、小夜子は人間に見えます。しかも愛に溢れた人間に見えます。残酷なことをしているのに。女性だからかな?柴咲コウさんの美しさのせいかな?不思議です。

フランスにもあった「蛇の道」

実は今作で一番気にしていたのはフランスにも「蛇の道」はあるのか?ということです。あ、今更ですがタイトルは「じゃのみち」ではなく「へびのみち」と読むのが正解のようです。

前作には上がったり下がったりする道や曲がりくねった道を車で走るというシーンが出てきて、まさに「蛇の道」!うわ〜カッコいい!と思ったんで。曲がりくねった道なんてのは、昔の農道をそのままアスファルトで固めたようなもんですから、さて大陸国フランスにそんな道はあるのかいな?と。

ありました!ワンシーン、ちょろりとだけ曲がる道が!嬉しい!あの道を車で走るシーンだけはあと2、3秒観たかったよ!!

ついでに車のシーンつながりで言えば、パンフレットに面白いことが書いてありました。せっかちな柴咲コウさん、「運転席に座ってシートベルトしてエンジンかけてギア入れる」という一連の動作がとても早いそうで、ワンカットで撮れたのだとか。普通はカット割らないとモタモタな画になっちゃうんですって!へえ〜考えたことなかったな。

残念だった点

別物と書いておいてちょいちょい前作と比較してますが、一番残念だった点もやはり前作との比較になってしまいます。

前作のルック(っていう言い方で合ってる?!)、全体の色味が冷たいグレーに統一されていてそれがとても良かったんです。陰惨な物語ともロケーションともぴったりだった。今回はそういう魅力がなかったのが残念でした。…ってか98年版が名作過ぎたんだな、うん。

さて、これから観に行こうかな?という方へ。面白くはあるんですが黒沢清監督っぽい「妙ちくりんさ(言い換えるならツッコミ所)」はしっかりありますんで「ふつうの」ミステリー映画だは思わない方が良いです!面白いと思ったらぜひ98年公開版もどうぞ!

人生変わった度

★★★

続作「蜘蛛の瞳」リメイクもあるとしたら一番先に殺られるのアイツだよな…

公式サイト貼っておきます。(たぶんKADOKAWAへのサイバー攻撃の関係で現在劇場情報のみ)

eigakan.or

1998年公開版「蛇の道」レビューはこちらです。

kyoroko.com