【蛇の道】ネタバレ感想と解説的なもの/「低体温イヤミス」と名付けたい(追記あり)


蛇の道 [DVD]

※この記事は1998年版「蛇の道」のレビューです!2024年公開セルフリメイク版レビューはこちらをどうぞ↓

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不穏度

75(100を満点として)

曲がりくねった道。先が見えない不安。

基本情報

公開:1998年

監督:黒沢清(他監督作品:スパイの妻 クリーピー偽りの隣人)

脚本:高橋洋

キャスト:哀川翔(新島直巳)香川照之(宮下辰雄)柳ユーレイ(檜山)下元史朗(大槻)

上映時間:85分

あらすじ

<以下、DVDの紹介文より引用>

幼女誘拐殺人…。娘を殺された宮下は、謎の男、新島の協力を得ることによって、復讐を実現しようとしていた。ある組織の幹部、大槻、檜山、有賀を次々に拉致し、拷問まがいのやり方で、事の真相を問いただしていく。3人は自分の身の保身のために、罪を擦り付けあい、醜い争いを繰り広げる。娘を殺したのは誰なのか?そして、新島の本当の狙いは?

感想と解説的なもの

「イヤミス」の走り?!胸糞悪ミステリー

いや〜、面白かったです!先日黒沢清監督作「ドレミファ娘の血は騒ぐ」を観ましてね。実に「よう分からん」作品だったわけです。分からない作品って残るんですよね。案の定ただでさえ余力の少ないワタクシの脳みそにマシンガンを持った洞口依子が張り付いて剥がれなくなりまして、ええい、とその勢いで1997年黒沢清作品「蛇の道」とその続きの「蜘蛛の瞳」を続けて観たというわけです。ちなみに97年黒沢監督はこの2本の他、大傑作「CURE」も撮ってますスゴイ!

この2つの作品はVシネマとして作られた「復讐」という作品の3、4作目。ですのでもともとの題名は「修羅の極道 蛇の道」と「修羅の狼 蜘蛛の瞳」。おおお、ワイシャツの胸元をはだけさせ、金のネックレスをした哀川翔がバーンと写るパッケージが目に浮かびますな。しかし中身はそうじゃない。Vシネといえども黒沢清なんでね。脚本は盟友高橋洋氏(「蛇の道」のみ)。女優霊、リングなどの脚本で有名な方です。

復讐劇「蛇の道」はミステリーですが、後味がじんわり悪い、いわゆる「イヤミス」です。と言ってもイヤミスの3大女王と言われる湊かなえ・真梨幸子・沼田まほかるのデビューは2005年以降なので、同作公開の98年はまだ「イヤミス」という言葉もない時代。だいぶ早い。公開当時に観たらかなり衝撃的だったのではないでしょうか。

以下ネタバレ注意です!

小学生の娘を殺された宮下(香川照之)は復讐のため関わったであろうヤクザを監禁拷問。素性のわからない新島(哀川翔)という男がそれを手際良く手伝ってくれます。なぜ新島が手伝ってくれるのか宮下にも分からないまま話は進んでいきます。最後に明かされるのは、新島もやはり彼らヤクザに娘を殺されている、ということ。そしてさらに明かされる事実が恐ろしい。幼女を強姦し殺したのはいわゆるスナッフビデオ撮影のため。宮下は被害者家族でもありますが、実はその一味。「販売を担当していただけで何も知らないんだよう〜」と言いますが、その罪は免れません。実は新島の真の目的はこれ。宮下に仲間を殺させた後、最後に宮下をこれまでのヤクザと同じように監禁拷問するのです。

目的も分からず宮下に協力する新島が「謎の男」のようですが、実は宮下も終盤近くまで「謎の男」なんですよね。バックボーンは「娘を殺された」以外何も出てこない。ただヤクザをシメている間に「宮下もこいつらと近そうだな」と観客がピンとくるような会話が出てきて、だんだん素性がわかってくる。で、最後に集約されるというわけ。とても面白いです。

ロケーションのすばらしさに脱帽

冒頭、哀川翔と香川照之の乗った車が坂道をゆくシーン。その道は上がって下り、上がって下りを繰り返す一本道。そしてとあるヤクザの家にこれも車で向かうシーン。住宅街の細い道はくねくねと曲がり、先が見えません。どちらもまさに「蛇の道」。メタファー…というより「モロ出し」と言っていいほど分かりやすい。撮り方もあると思いますが、良い場所見つけてくるな〜といつも感心します。ヤクザを監禁する商店街の隅っこにある廃工場も良い。灰色のアスファルト、監禁場所の壁となる薄汚れたブロック塀、新島の職場の雑居ビル…。照明もあるでしょうが、こういうロケーションそものものが独特の「体温の低い」映像に直結しています。そうそう、蛇って体温低いしさあ…。

そもそも廃墟のようなところが多いので今は失われていそうですが「黒沢清映画のロケ地」をまとめたら、日本の別の姿が浮かび上がってきそうです。フランスあたりのファンも聖地巡礼に来そうだしな。

「蜘蛛の瞳」への繋がり

黒沢監督と高橋洋さんの対談を観まして(公式のものではないのでリンクは控えます)。その中で高橋さんは「新島は人間ではないかも知れない」と言っています。いや人間なんですけど、ストーリー上の役割としてごく普通の人間だったらしないこと(分からないこと)を予言的にしている、と。新島は「復讐の鬼」であり、鬼はヒトの思考を超えているんですね、うむ。

さて、この作品の続きが「蜘蛛の瞳」なわけですが、問題の新島の「その後」が描かれます。復讐という大きな目的を果たした「鬼」は一体どうなるのか…?こちらは監督&脚本黒沢清。案の定ワケがわかりません。でも面白いです。あと怖い。ホラー入ってます。こちらについてはまた後日。

※その後書きました。「蜘蛛の瞳」レビューです。

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蛇の道

蛇の道

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脳みそに洞口依子が張り付いて剥がれない…「ドレミファ娘の血は騒ぐ」レビューはこちら

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黒沢清最高傑作!「CURE」レビューもやっと書きました。「蛇の道」がお好きな方は好きだと思います。

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