不穏度
95(100を満点として)
影はどこまでも黒く、女の服は鮮血のように赤い
基本情報
公開年:2001年
監督&脚本:黒沢清
キャスト:加藤晴彦(川島亮介)麻生久美子(工藤ミチ)小雪(唐沢春江)有坂来瞳(佐々木順子)
上映時間:118分
あらすじ
<以下、Amazonプライムビデオの作品紹介文より引用>
インターネットから新たな恐怖が生まれる…。カンヌ国際批評家連盟賞受賞。同僚の自殺を皮切りにOLミチの周りで奇妙な事件が続発。「助けて」と着信のあった矢部が姿を消し、社長が友人が両親が…一人、また一人と消えていく。同じ頃、大学生の亮介のPCが突如、あるサイトにアクセスを開始。「幽霊に会いたいですか」の文字。強制終了しても繋がってしまう。彼は春江に相談を持ちかけるが、それは世界中をも巻き込んでいき…
評価
黒沢清監督のセルフリメイク「蛇の道」公開を記念してKADOKAWAのYouTubeチャンネルで「回路」を無料公開していたもんですから、やった〜!と6年ぶりくらいに観たのですが…あれ?意外と怖くないぞ?幽霊もこんなにしっかり映ってたっけ…?とだいぶ印象が変わりました。前回観た時はやたら怖かったのですが、今回はコワさよりもツッコミ所と古臭さが目立ってしまったのですわ…
とはいえ、初見の方には充分怖いと思いますし、2001年カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞受賞の、Jホラーを代表する作品の一つですんで、ホラー好きな方はぜひ一度は観ておくと良いんではないかと。では以下、良かった点と微妙だった点、合わせて感想です!(ネタバレはほぼありません!)
感想
良かった点
もっとリメイクされて良くない?!素晴らしいアイデア
お話の骨子となる部分を説明すると「死者が行く『あの世』にも収容の限界がある。実は『あの世』はもう店員オーバー。ちょっとした偶然で回路がつながれば『あの世』で溢れたモノはそこへ向かう。その回路が繋がってしまった先が『この世』だった…」というもの。「繋がる回路」は2001年当時まだ大衆化して間もない「インターネット」です。
いや、凄くないですか?!このアイデア!あの世は容量いっぱい、だからこっちに戻ってくるかも?!なんて考えたこともありませんでしたよ。2000年初頭当時に似たような話ってあったのかな?(知ってる方いたら教えて下さい〜)インターネットという世の中を変える新しい技術を絡めたのも良かったです。
これ、アメリカで「パルス」というタイトルでリメイクされているそうですが、もっと色んなリメイクというか展開が出来そうに思うんですけど。この前提を理解させておけばどんなに沢山の異形の幽霊が出てきてもいいんですから(動物やら虫やら恐竜の幽霊だってOK)!
この作品、「世界の終わり」という地球規模の壮大な出来事を1人称目線で描いています。「世界が終わる」スペクタルよりも「なぜ世界は終わるのか?」という内面を描いている。それはそれで良いのですが、スペクタルも観てみたいなと。そういうリメイクもできるんでは?と。
脅威のノーカット飛び降り
同作を観たことのない人でもこのシーンはどこかで観たことがあるのでは?というほど有名な「ノーカット飛び降り」。主人公(麻生久美子)の背景にある高い塔の上に赤い服の女。その女が飛び降りて地面に叩きつけられるまでがノーカット。…であるわけではもちろんなく、途中で人形に入れ替わって(つまりカットを割って)いるのだそう。ですが全然そうは見えない。
訂正:人形とどこかで聞いた覚えがあったのですが、失礼しました!合成も含まれています。メイキング動画を見たのですが技術的にも凄いシーンであることがわかります。おそらく人形+VFXでしょう。こちら中盤の衝撃シーンですが、まあこういうシーンをノーカット(に見せて)撮ろうというその根性が怖いですよ!(役者さんも怖かったろうな…)
微妙な点
“古い”せいだけじゃない絶妙なダサさ
20年以上前の作品なんで「古く見える」のは当然なんですが、なんつうか「古臭い」。原因の一つは衣装。女性陣のチビTやらミュールやら(懐かしすぎておばちゃん泣く)、当時の流行服が多く、普遍的な衣装ではありません。流行とかに関係ない仕事してはりますのに。
それから、演技にも流行り廃りがあるんですかね?!ケレン味ありすぎな話し方をする武田真治とか、良いことを言う時に社長(麻生久美子&有坂来瞳がいる会社)がわざわざに椅子に座って脚を組むとか、「…なんか…古くね?」と思ってしまいました…。
あとですね、何かの動画か本か忘れましたが、黒沢清監督がこんなことを言っていたんですよ。「怖いシーンに怖い音楽はつけない。怖い音楽はその後につけたほうが観客が『あのシーンやっぱり怖かったんだ…』と気づいてゾッとする」と。へええ〜って思ったんですけど、「回路」ではこの理論はまだ出来ていなかったのか、怖いシーンにバッチリ怖い音が被せてあります。むうう…、このへんも「古臭く」思える一因かと。
「ヘンテコ」の箱に入れときます…
どうにも黒沢清作品好きでして当ブログでも7本目の紹介となりました。でも何もかもが良いと思ってるわけではなくてですね…。ストーリー、役者、音楽、ロケーションなどなど全ての要素がクロサワワールドにビタっとハマると【映画】というメディアを超越したスゴイものが生まれる、と思うのですが、あちこちズレてしまうと「…なんだこりゃ?」なヘンテコ作品になるのです。そんなわけで自分の中で勝手に黒沢清作品は「名作」と「ヘンテコ」の箱に振り分けているのですが、このたび2度目に観た「回路」を「名作」から「ヘンテコ」の箱にそっと入れ替えた次第です…。アイドル俳優をキャスティングしていかにも「普通の映画ですよ!」と見せかけてやっぱりお話が意味不明だったり、美術や衣装も噛み合ってない感じがして、でも壁のシミとか真っ黒い幽霊は異様に怖かったりとチグハグ。そう、、ヘンテコなんだもの…。
「回路」はアマゾンプライムビデオで観られます。
アメリカリメイク版「パルス」もありました!日本語字幕入っています。