映画ごときで人生は変わらない

映画大好き中年主婦KYOROKOの感想と考察が入り混じるレビュー。うっすらネタバレあり。週1〜2回更新中!

【カリスマ】ネタバレ感想と考察/理解不能にはワケがある


カリスマ [DVD]

基本情報

公開年:1999年

監督&脚本:黒沢清

キャスト:役所広司(薮池五郎)池内博之(桐山直人)大杉漣(中曽根敏)風吹ジュン(神保美津子)洞口依子(神保千鶴)松重豊(猫島)

上映時間:104分

あらすじ

<以下、Amazonプライムビデオの紹介文より引用>

犯人と人質を両方死なせてしまい、心に深い傷を負った刑事・藪池は、心の傷を癒そうとふらりと入った森で一本の木に出会う。幻想的な森を舞台に"カリスマ"と呼ばれる一本の木を巡って争う人々の不安と恐怖を描いたサスペンスホラー。

感想と考察

ヒントはまさかのインディ・ジョーンズ?!

ワタシのオールタイムベスト5の一本である黒沢清作品「CURE」。書きたいけど好きすぎて書けないー!と頭を掻きむしりながら周囲をうろうろしているうちに、当ブログ4本目の黒沢清作品紹介となってしまいました。1999年の「カリスマ」、今回初見です。感想はというと、全くもってよくわからんくて、ロケ地は廃墟で、画面が真っ暗で、ちょっと怖くて…と、実にキヨシクロサワ的な痺れるワタシ好みの一本でした。ではその中身について。

今回「あらすじ」欄が短くなっているとおり、説明のしようがないストーリーです。「カリスマ」とは森にある一本の木のこと。なんの変哲もない今にも枯れそうな貧相な木ですが、特殊な力があるらしい。命懸けでその木を守る人がいたかと思えば、盗もうとする人、枯らそうとする人もいる。その「カリスマ」という木を巡る物語です。

ソースのないWiki記述ですが、映画「カリスマ」の項目に「ストーリーの着想自体は、インディ・ジョーンズの中の宝の奪い合いからヒントを得たらしい」ということが書いてありました。いや、インディ・ジョーンズて。似ても似つかんがな、と一見思いますが、これ「マクガフィン」という物語の仕掛けの一つのこと。ヒッチコックが提唱したと言われる「マクガフィン」自体にも様々な解釈があるようですが、簡単に言えば、インディ・ジョーンズにおける「アーク」(1作目)であり「富と栄光をもたらす石、シバ・リンガ」(2作目)であり、「聖杯」(3作目)のこと。「それ」を手に入れるため登場人物たちが右往左往することで物語が展開しますが「それ」自体はストーリーを練る上で代替可能なもの。「それ」のことをマクガフィンと言うのだそうです。典型的な冒険活劇やスパイものを思い浮かべてもらえれば。

一見難解に思える同作「カリスマ」もこのフォーマットに基づいたもの。マクガフィンは、「カリスマと呼ばれる一本の木」です。

いや、これに気づくとすごいな〜ってなりますわい。お馴染みのフォーマットを使っているのに、見たこともない作品になっている。まず「木」という簡単に持ち運べないものがマクガフィンになっているため、冒険活劇にはならない。そして様々な映画の中の「代替可能なそれ」はよく「世界を変えるほどのお宝」や「人類滅亡を目的に作られたウィルス」などにされますが、「カリスマ」の場合、比喩ではなく「世界を変える/絶滅させるモノ」そのものなのです。でも木がどうやって世界を変えるのかはよくわからない。私たち観客は当然戸惑いますわね、「あの木いったいなんなの…?」と。でもその木が何かを考えることに意味はありません。「代替可能なそれ」でしかないのですから。なんじゃこの迷路。意味ありげなセリフやホラーじみた音楽、暗い画面…。「この作品を観たら何か気が利いた感想を言わないとマズイんじゃないか」と思いがちですがそう思うこと自体トリックにハマっている…ということを考えること自体考えさせられている…ええい、すっかり分からなくなりました。まあ、理解不能になるにはワケがあるので理解不能のままでいいんではないでしょうか(もう考えるのやめた)。

CUREと同じ世界線

さて、これはワタシの妄想ですが…。黒沢清・役所広司コンビは「CURE」「ニンゲン合格」(未見です)につぐ3作目。役所広司は「CURE」と同じ刑事役。そして今回の役柄の藪池刑事って、CUREの間宮(萩原聖人)に似ていませんか?!CUREでは記憶喪失の催眠術師、間宮が会う人に次々と催眠をかけて人を殺させています。その間宮を追い詰めて殺す高部刑事(役所広司)ですが、ラスト、その高部が間宮のあとを継いだことがわかる衝撃的なシーンがあります。思うにここから繋がってるんじゃないでしょうか?「世界の法則を回復せよ」というメッセージ、「生かすことと殺すことは同じ」というセリフ、2つの映画は同じ世界観を描いていように思います。話のわけわからなさは「カリスマ」のほうがダントツですけど。

タルコフスキー調なのか?

話を「カリスマ」に戻します。桐山(池内博之)が必死に守っていたカリスマの木は燃やされてしまいます。しかし、藪池(役所広司)はもう一本の「カリスマの木」を見つけて大切に生かそうとします。しかし最後は自分の手で木を壊し、不穏の森を出るのです。遠くに見える燃える街は、世界に裂け目ができたことを予見させます。ようわからんけど痺れる。カッコいい。同作、タルコフスキーっぽいと評されているようですが、そこまでの重厚さはない。これたぶん日本の自然のせいです。木々は貧弱だし森は黒くないし川幅は狭くて浅い。どこかに優しさというか軽さがあって、だからダークな物語に救いを感じるのです。ヨーロッパの人が好きなのも分かるよねえ。

人生変わった度

★★★

考えるな、感じろ!

2023/8月現在、アマプラ会員特典(無料)で観られます。

カリスマ

カリスマ

  • 役所広司
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アマゾンプライムは30日間無料体験できます。申込はこちら。

以下、おすすめ黒沢清監督作品置いておきます!

いったいいつになったら書けるんだ…これまで観た映画の中のベスト5に入る作品「CURE」はこちら。記憶喪失の天才催眠術師が次々と会う人に「日常では隠しているけど本音では憎いと思っている人」を殺す暗示をかけていく。役所広司扮する愛妻家の刑事が心の底で憎んでいた相手とは…。神経のピリピリが伝わってくる傑作!

CURE

CURE

  • 役所広司
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霊能者が「私たちが観るのと同じように霊が映っている」と慄いたという「降霊」は残念ながらアマプラに入っていませんが、こちらに出てくる霊もちびりそうになるくらい怖かったです。彼岸と此岸が繋がってしまったら…「回路」。

回路

回路

  • 加藤晴彦
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奇妙な、あまりに奇妙な作品。原作は人気劇団の戯曲。行方不明になっていた夫が帰ってきたが、まるで別人のように優しくなっていた…。人間は静かにゆっくりと地球から排除されるのかもしれないね。もう一度観たい。

散歩する侵略者

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  • 長澤まさみ
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過去紹介した黒沢清作品はこちらです。

kyoroko.com

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