映画ごときで人生は変わらない

映画大好き中年主婦KYOROKOの感想と考察が入り混じるレビュー。うっすらネタバレあり。週1〜2回更新中!

【柄本家のゴドー】感想/柄本明と佑&時生の舞台ができるまで。結局一番楽しんでるのは親父?!


柄本家のゴドー [DVD]

基本情報

公開年:2019年

撮影&演出:山﨑裕

出演:柄本明 柄本佑 柄本時生

上映時間:64分

あらすじ

<以下、公式サイトの「作品紹介」より引用>

人気俳優として映画、テレビで活躍する一方で、演劇ユニット“ET×2”を組む柄本 佑・時生兄弟。2014年、ふたりはサミュエル・ベケットによる不条理演劇の代表作『ゴドーを待ちながら』の公演に挑んだ。2017年、父親の名優・柄本明を演出に迎えて、再びゴドーにふたりは挑戦する。その稽古場にドキュメンタリーカメラの名手・山崎裕が立ち会った。演出家と俳優の関係を超え、父から子への芸の伝承の厳しさと温かさにあふれる“時間の記録”である。

感想

「ゴドーを待ちながら」とは

20代の頃は趣味の合う友人とちょくちょく演劇を観に行ったものですが、映画ほどのめり込むことができず、最近の観劇は「チケット余って困ってるの〜」と頼まれた時のみ。そんなワタシが「えっ?!何それそんなのやってたの?!くっそう〜観たかった!!」と地団駄を踏んだのが、柄本明演出・柄本兄弟出演の「ゴドーを待ちながら」です。2017年下北沢スズナリで演ったそうで。

今作はその舞台ができるまでのドキュメンタリー。稽古場にカメラを回し、合間に3人それぞれのインタビューを挟みます。仕掛け的なものは、各自にスケッチブックとクレヨンを渡し、舞台上では木が立っているだけの場所がどんなところだと思うか?を描いてもらう…というくらい。ちなみにこの時の絵がDVDのパッケージになっています。全員見事に絵心がない!笑

映画の感想の前にサミュエル・ベケット「ゴドーを待ちながら」の件を少し。「ゴドーを待ちながら」はダブリン出身の劇作家ベケットが1952年に発表した作品。もしかして…と思いましたがやはり同じダブリン出身の作家ジェイムズ・ジョイスと交流があったようです。さもありなん…!同作は二幕からなりエストラゴンとウラジミールという二人の男が道端で延々と出口のないお喋りをしながら「ゴドー」を待っている、というもの。さらにそこに通りかがった二人の男が加わるけれど、相変わらず意味のないお喋りを続けます。ゴドーは最後まで姿を見せず、それが人なのかすら分かりません。その斬新さに当初は酷評されたそうですが、やがて評判になり今でも人気の作品に。ベケットは1969年にノーベル文学賞を受賞しています。不条理と称されますが「人生は死ぬまでの暇つぶし…」などと考えている人(ワタシです)にはとても面白く共感できるお話。意味のあるように見えることだってどうせ死ぬのだから無意味だし、無意味なことを人はやり続け、無意味の重なりこそが人生と言えます。ん?って考えると無意味って何だ?と思いますよね。少し前よく言われた「不要不急」と同じです。ちなみにワタシは舞台は観たことはありませんが、戯曲を読んで号泣しましたよ、ええ。

その衝撃は今でも多くの文学や様々な作品に影響を与えていますが、タイトルにまでなっているのに本人が最後まで出てこない、という構造は「桐島、部活やめるってよ」もそうですね。こちらの映画もとても面白かったです。

kyoroko.com

あのコワモテがニッコニコ!

さて、この「ゴドーを待ちながら」を舞台にかけるまでを追ったドキュメンタリー映画「柄本家のゴドー」、感想は「オヤジ楽しそうでいいなあオイ!」です。そもそもは佑と時生で2014年に演り「ずっと2人で続けたい」という気持ちになったのだとか。じゃあ次やるなら演出は父親に頼もう、となって2017年の舞台に繋がる…ってな流れ。その説明をする時の明のニヤケ顔といったら!演劇を始めたばかりの若き日に読んだ戯曲を50代で(2000年)に演じ、当時観ていた息子に今度は演出を頼まれる。全部肯定されてるやん。こんな良き人生がありましょうか。思わず嫉妬に身悶えましたわ。

さて、2人の息子に演技をつける明ですが、案外優しい。灰皿飛んだらやだなあ〜なんて思ったのは杞憂でした。抽象的な言葉と具体的な言葉を混ぜながら伝え、時には自分で演ってみせる。立ち方一つ、歩き方一つ取ってみても、2人の息子は明のレベルにほど遠いことが分かります。人によっちゃあイラついて灰皿投げたくなりますよね(しつこい)。でも優しい。ニヤニヤしている。嬉しいんでしょう相当。なんだよ、こんな強面にニヤニヤされたらこっちまで嬉しくなるじゃん。対する2人の息子は神妙な顔で父親の言うことを聞いていますが、かなり恐れているようです。時生にいたっては「オヤジが何か言い出すとさあ、ぜんぶセリフ飛ぶんだよ」的なことまで言っていました。3人の関係性が垣間見えるのも面白いです。

心にメモしたい柄本明の名言

とはいえ、明はニヤニヤしているだけではありません(当たり前だよ!)。思わずメモしたくなる含蓄の深い言葉を吐いていました。うろ覚えですが曰く。

■「(ゴドーを)若い頃は分かろうしたが、年齢を重ねて『分からない』ということが分かった」

■「2人で喋っている時は(観客を)意識しなくていい。街を歩いている2人組はそうでしょ。街を歩く二人組はみんなエストラゴンとウラジミールなんだ。一人のやつはハムレット。」→うわあ、これは全身演劇人の言葉ですよ!

■「上手くたって悪くたってやらなきゃいけない」

 →佑と時生に言っているのか?エストラゴンとウラジミールに言っているのか?おそらく両方

■「残念なことに全部喜劇なんだよ」→この世は全部喜劇、という意味に捉えましたよ

■「エストラゴンとウラジミールが待っているのは死だよね…なんて戯言を言いつつね、ハハハ…」

→「ゴドーとは神であり死である」という一般的な解釈を言った後、それを否定するような言葉を足しています。解釈を限定したくないということでしょう。「分からないことを分かる」にも通じますが、こういう態度とてもいいなあと思います。

何もないところに舞台を作り「何もしない」を演る。ああ無意味!さらにそれを映像で撮っている。重ねて無意味!これが人生でなくてなんでありましょう…!演劇ファンの方も柄本明・佑・時生ファンの方も楽しめる一本。上映時間64分でサクッと観られますので、ぜひどうぞ。そしてET×2のゴドー、次回はいつ演るんだろう?!絶対観たいし、二人がライフワークにしていくのならそれも楽しみです。

人生変わった度

★★

しっかし佑も時生も顔がいいよね〜。なんか意味のある顔してる

 

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サミュエル・ベケット「ゴドーを待ちながら」。2人の男が道端でたわいないお喋りをしながらゴドーを待っています。ゴドーって誰?「待つ」って何?考え出したら夜しか眠れない不条理戯曲の傑作!