不穏度
45(100を満点として)
若者とは不穏な存在である
基本情報
公開年:2024年
監督&脚本:二ノ宮隆太郎
キャスト:坂東龍汰(渉)髙橋里恩(英治)清水尚弥(光則)岩松了(喫茶店のマスター 平吉)豊原功補(渉の義父 修二郎)
上映時間:103分
あらすじ
<以下公式サイトより引用>
工場に勤める寡黙な渉、血の気の多い飲食店員の英治、一見温厚そうに見える介護士の光則は互いに幼馴染の若者である。
ある晩秋の昼下がり、暇を持て余した彼らは“世直し”と称して街の人間たちの些細な違反や差別に対し、無軌道に牙を剥いていく。その“世直し”は、徐々に“暴力”へと変化してしまうのだった─。
評価
面白かった!
二ノ宮監督は前作「逃げきれた夢」が良かったものですから今作も期待してたんですけど、期待通りの良さでした。
※逃げ切れた夢レビューはこちら↓
はじめに言っておきますがほとんど何も起きません。はい、「何も起きない系」の映画です。引用した公式のあらすじを読むと【無軌道な若者が暴走!破滅へのバイオレンス!】的なものを想像しますが、さにあらず。でも静謐な映像の中に「あ、今この人、の人生、変わったんだな。心の中で革命が起きたんだな」という瞬間が見えるんですよ。CGも使ってないのに本当に「見える」。台詞のせいなのか芝居の付け方なのかカメラ位置なのか音楽の効果なのか分かりませんが、見える。とても不思議です。
前作でも同じようなシーンがありました。これを二ノ宮マジックと言わずして何と言いましょう。では以下、そのシーンも含めて感想です。ネタバレなしです。
感想
自我に目覚める前の物語
小学1年か2年生の頃の話です。学校からの帰り道、いつものように友達と一緒に歩いていると突然、神の啓示が天から降ってきたように「ワタシは自分のことをワタシだと思ってるけど、今隣にいる友達も、自分のことを自分だと思ってるんだ!」ということに気がつき、それこそ天地がひっくり返ったような衝撃を受けました。今でもはっきりとその瞬間を覚えているくらいです。その事実は子供にはあまりに恐ろしく、友達にも親にも言えずにただただ震えていました。これ、おそらく「自我に目覚めた瞬間」なんでしょう。同時に「人は皆一人である」という壮絶な孤独に慄いた瞬間でもあります。
…えっと、いきなり良くわからん話ですんません。何が言いたいかというとこの映画、「自我に目覚める前とその瞬間」を捉えたような作品だな、と思ったのですよ。
主人公は20代前半と思われる3人の若者。ようわからんけど最近の若者ってこんな感じなんすか?地元を離れず高校時代の友人とつるみ、バイトや仕事はキチンとこなすけど向上心はない。家族や彼女といった身内には優しいけどそれ以外には反社会的。
中でもほとんど何も喋らずぼーっとしているのが渉(坂東龍汰)。感情すらよくわからず、本当に自我に目覚める前の子供のようです。まあ、こうなったのはいくつかの原因があるわけで、それは劇中で明かされます(なかなかにキツい状況です)。
始終ぼんやりしているその渉の心が「動いたな、今」って分かる瞬間が後半での喫茶店のシーン。
3人で良く行く喫茶店に今日は渉が1人。店にはいつものマスター(岩松了)が1人。ぽつりぽつりとする会話の中で「心に革命が起きた」瞬間が奇跡のように訪れる。画面がパアッと華やぐわけでもなければ、大袈裟な音楽がつくわけでもないのに、観ているほうに伝わってくる。なぜか分からないけど涙ぐんでしまいました。まあ、ワタシが勝手に「奇跡の瞬間」と解釈しているだけでしょうけど。
世界の優しさに気づいてくれよな
さて、映画は3人のしょうもない若者の日常を丁寧に描いていくのですが、一つのシークエンス事に3人それぞれの「別の顔」をしっかり見せてくれるので意外性があって飽きない。「街中で人に絡むクソガキの英治、案外まじめに仕事してんじゃん…」とか「若干ヤバい思想を持ってる介護士の光則、お母さんにはとことん優しいんだね…」とかね。
あと、特徴的なのが「カメラに向かって(正面、あるいはカメラ横)」喋るシーンが多いこと。「逃げきれた夢」の際は「人と対峙することから逃げ続けてきた男」が喋る際、相手の横に座り(カウンター方式ね)、正面のカメラに向かって喋っていました。
今回は「カメラ位置に相手がいて、その相手に向かって喋り続ける」パターンが主。とくに何かと人に絡むチンピラ、英治(髙橋里恩)に多い。こういう時って、聞いている相手の顔を数秒に一回とか挟み込むのがセオリーだと思うんですが、喋り終えるまで一切それがない。つまり、相手がどんな表情で英治のしょうもない演説を聞いているのかわからないんです。声も発しない。
これ、英治は「虚無」に向かってがなり立てる虚しい行為をしている、とも言えます。若者特有の悲しさです。
が、彼らよりずっと大人のワタシは思うんです。「オマエの黙って聞いてやってるんだぞ、こっちは。そんな“世界”の優しさに気づけよ」、と。
彼らの苛立ちは分かります、通ってきた道だもの。しょうもな、と思いつつ聞いてあげるくらいの余裕はあるよ。あんたは革命革命と騒いでいるけど、世界は今もこれからもずっとあんたに優しいんだよ、と。
こういうの、若者に嫌われると思いますけど50代のオバサンの率直な感想ね。
あと最後になりましたが、この映画1:33:1のスタンダードサイズで撮られています。両サイドに黒帯がつくやつです。このノスタルジックさは大人にも「若武者時代」のしょっぱい思い出を蘇えらせます。人によっては劇薬かも…。
公式サイト貼っておきます〜