不穏度
30
どっちかっていえばコメディ
基本情報
公開年:2025年
監督&脚本:ポン・ジュノ
キャスト:ロバート・パティンソン(ミッキー・バーンズ/ミッキー2〜18)ナオミ・アッキー(ナーシャ・バリッジ)マーク・ラファロ(ケネス・マーシャル)トニ・コレット(イルファ・マーシャル)
上映時間:137分
あらすじ
<以下公式サイトより引用>
主人公は、人生失敗だらけの男“ミッキー”。一発逆転のため申し込んだのは、何度でも生まれ変われる《夢の仕事》のはずが…。よく読まずにサインした契約書は、過酷な任務で命を落としては何度も生き返る、まさにどん底の“死にゲー”への入り口だった!
現代からひとつの進化もなく労働力が搾取される近未来の社会。だが使い捨てワーカー・ミッキーの前にある日、手違いで自分のコピーが同時に現れ、事態は一変。予想を超えたミッキーの反撃がはじまる!
評価
とても面白かったです!面白い/つまらないに真っ二つに分かれているそうですが、ワタシは「面白かった派」。ポン・ジュノらしいテーマが散りばめられ、ブラックな笑いもそこかしこにあり、まるでスノーピアサー(2013年ポンジュノ作品)だし、キモカワイイ宇宙生物は出てくるし、でもでも愛の物語だったりして、最後までしっかり楽しめました。何年後かにもう一度観てやっぱり面白い!ってなる気がします。とはいえ、低評価をつける人の気持ちも分からんではない。どこらへんが?というのも含め、以下感想です。ネタバレなしです!
感想
宙を舞う手首に感動…!
ミッキー17というタイトルから察せられるとおり、主人公は17体目のミッキーです。肉体が滅びると3Dプリンターでコピーされた身体に、それまで保存していた「記憶」を移植させられるんです。
冒頭のほうに面白いシーンがあります。宇宙船の船外活動をしているミッキー。ケーブルが破損しているというので直しに来たけれど「おかしいな、ケーブルは切れていないよ」。すると無線で「ごめんミッキー。ケーブルの破損ってのは嘘で、宇宙線(放射能)が人体に与える影響を調べるために君を船外に出したんだ。」要は放射能で死んでみてね、ってこと。(日本人にとってはキツい描写ですが、まあそれは置いといて)。
何度でも生まれ変われるミッキーは人体実験の道具にされます。放射能をモロに浴びて朦朧としていると、プロペラのようなものに当たってしまった手首がスパッと切れ、宇宙空間に飛んでいく。船内に切り替わるカメラ。ディナーを楽しむ人々の背後にある窓の外にゆっくりと漂う手首。その存在に気づく者はおらず、談笑が続く。
いやあ〜、素晴らしい!窓の外に広がる宇宙と漂う手首。そして手前には語らう余裕のありそうな人々。この映画がこれから見せようとするものを表現している画です。つまり、この世界には格差があり、ミッキーはかなりの格下で文字通り「使い捨てられる存在」であることを見せている。さらには妙なおかしみもあって、「あ、こういう感じで笑わせてくる映画なんすね」、とこちらに「この作品の見かた」まで教えてくれているんです。親切…!ってか、うおっ!さすがポン・ジュノ監督!!…ってなって、グロい上に笑えるシーンなのに、なんだか感動してしまいました。
考察:ミッキーは多重人格か?
さて、こんな過酷な人体実験をさせられては何度も死に、何度も蘇るミッキー。肉体は変わっても記憶は連続しているので、1から17まで「同じ人間」とも言えますね。そんなミッキーには「1」の時からずっと同じ恋人がいます。ナーシャです。ナーシャによれば「3のミッキーは泣き虫で、5のミッキーは頑固だった」というように、少しずつ性格が異なるらしい。不思議ですよね。記憶は同じ、コピーなので遺伝子も同じなのにそんなことってあるんでしょうか?と、ひっかっていたんですが、解離性同一症(多重人格)について調べて合点がいきました。
一つの肉体の中にいくつかの人格が生まれてしまう解離性同一症。かつては多重人格障害と呼ばれていた病です。原因の一つに「小児期に極度のストレスを受ける」というものがあるそう。ネタバレになるので詳細は控えますが、ミッキーは子供の頃大きなトラウマになるような出来事に出会っています。彼の場合は一つの肉体に一つの精神なので解離性同一症には見えませんが、「微妙な性格の違い」がその傾向を仄めかしています。さらに自分のコピー「ミッキー18」は17と極端に違う。二人はそのトラウマについても話し合うのですが、捉え方が真逆です。そんなわけでミッキーは解離性同一症ではないか?と勝手に考察してみたのですが、どうなんでしょう?!
色々あってたまたまこの仕事に就いたけれど、解離性同一症の彼でなくては後の展開は作れなかった。17と18が同時に出てきた時、2人の意見が対立しないとラストに繋がらないのです。つまりそれは、「この自分」も「あの自分」も全て必要だということ。ミッキーは17体もいるけど「かけがえのない一人」である、ということなのです。
愛が生み出す革命
さらにナーシャはミッキーが死ぬたびに深く悲しみ、生き返るたびにガシッと抱きしめ、全てのミッキーを愛してくれる懐の深い女性です。その上、正義感も強く、肉体的にも強い。その愛がディストピアで革命を誘発する。愛は不毛の地をユートピアにだって変えられるのですよ!!
…と、この作品の素晴らしいメッセージはしかと受け取ったのですが、同時に「面白くない」という人の気持ちもわかります。悪役が平面的すぎるんですよ。悪役としてコメディ部分を背負うマーシャル夫妻自体は面白かったんですが、ただただワルイ奴っていう…。あと宇宙モノSFの割には圧倒的な広い画が少なかったなと思ったり。
など、若干気になる点はありますが、クリーパーは「グエムル」並みのキモカワイさだし、マーシャルの頬をビュンって銃弾がかすめるシーンあるけど、アレ、トランプ暗殺未遂事件の前に撮ってるよね?!預言者か?!なんてのもあるし、見どころいっぱいのSF大作なんで、ぜひ映画館でどうぞ!!
「ミッキー17」はアマプラで観られます〜。
アマゾンプライムは30日間無料体験できます。ここから申し込みに飛べます〜。
「クリーパー」ちゃんが気に入った方はぜひ「グエムル」もどうぞ!うなぎいぬだよ!
ポン・ジュノ作品の中で最も好きな映画「殺人の追憶」レビューも置いておきます。暗くて湿ってて不穏です。
他、レビュー書いていませんが、「ミッキー17」くらい極寒の地球で格差列車が走り続けるSF大作「スノーピアサー」も面白かったです!