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不穏映画が大好物のアラフィフ女 感想と考察が入り混じる映画レビュー。不穏度を数値化しています

【聖地には蜘蛛が巣を張る】感想と考察(ネタバレあり)/圧倒的な2時間!あのシーンは妄想だった?!

 

聖地には蜘蛛が巣を張る [DVD]

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  • メフディ・バジェスタニ
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不穏度

40(100を満点として)

一番怖いのは最後の妹ちゃんの笑顔だったりするのよね

基本情報

公開年:2022年

監督:アリ・アッバシ

脚本:アリ・アッバシ アフシン・カムラン・バーラミ

キャスト:メフディ・バジェスタニ(サイード)ザーラ・アミール・エブラヒミ(ラヒミ)アーラシュ・アシュティアニ(シャリフィ)フォルザン・ジャムシードネジャド(ファティマ)

上映時間:117分

あらすじ

<公式サイトより引用>

聖地マシュハドで起きた娼婦連続殺人事件。「街を浄化する」という犯行声明のもと殺人を繰り返す“スパイダー・キラー”に街は震撼していた。だが一部の市民は犯人を英雄視していく。事件を覆い隠そうとする不穏な圧力のもと、女性ジャーナリストのラヒミは危険を顧みずに果敢に事件を追う。ある夜、彼女は、家族と暮らす平凡な一人の男の心の深淵に潜んでいた狂気を目撃し、戦慄する——。

評価

凄かった!!ここのところ腰を据えて配信を観る時間が取れず、何度も中断させられながらPC画面で観たのですが、それでも圧倒された2時間でした。

連続猟奇殺人事件というドラマチックな題材に隠した監督のメッセージがどストレートに伝わってくる。それはこの殺人犯を生み出した社会への疑問です。

かといって説教なのではありません。エンタメ作品として実に面白いし衝撃的!いやホント明日からみんなにお薦めして回りたいくらいです。

では以下、ネタバレありの感想と、気になるラスト部分の考察です〜。

感想

同作「聖地には蜘蛛が巣を張る」は、生誕〜大学までイランで育ち、現在は北欧で暮らすアリ・アッバシ監督の作品。

先に「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」を観たのですが、こちらもとても面白かった!(下にレビュー貼っておきますね)イラン出身の監督ですんで、トランプを否定的に描くと思うじゃん?ところがこの映画の中でトランプは清濁の入り混じった複雑で面白い、実に愛すべき人物に見えたんです。アリ監督、器デカいなあ〜!と感心し、もう一本観てみようと選んだのがこの作品というわけ。

さて、「聖地には蜘蛛が巣を張る」という印象的なタイトルのこの作品は実話を元にしています。2000年にイランで起きた連続娼婦殺人事件。犯人は「スパイダー・キラー」と呼ばれていました。

映画はミステリー形式ではなく、犯人の姿は冒頭から出てきます。犯人サイードの「家族と和やかに過ごしながら殺人を犯す日々」と、それを追う女性ジャーナリスト・ラヒミの姿がカットバックで描かれていく。

サイードは16人もの娼婦を手にかけるのですが、凄まじいのは娼婦を買い部屋に連れてきた後の、首を絞めて殺すまでの長い時間をしっかり映しているところです。息が止まる瞬間まで顔のアップで見せている。この次点で、犯人を追い詰める側ではなく被害者である彼女たちを描きたいのだと分かります。

問題はサイードの動機です。彼は「聖地であるマシュハドから汚れた女を排除する」ために殺人を犯しています。兵士として戦争(彼らにとっては聖戦)に行った経験があるのですが、そこで死ねなかった、つまり神に選ばれなかったことは彼の汚点なのです。だから神の教えに従い、神に愛されるべく夜な夜な「浄化」を行っている。

一方のジャーナリスト、ラヒミはこの事件に強い憤りを抱いています。冒頭、彼女がホテルの宿泊を拒否されそうになる場面が印象的。予約したのに「独身女が一人でホテル住まいはおかしい」って言われるんですよ?!もちろんセクハラも当たり前にされています。演じる女優さんはフランスで活動されていますが、もともとイランで活躍していた方。しかし元婚約者からプライベートなセックステープを暴露され、自国にいられなくなったのだとか。途中、ラヒミの境遇にも似たものがあることが語られます。

被害者である娼婦たち、そしてラヒミ。どちらも女性です。イスラム社会の中では被差別側の性。彼女たちの苦しみを描く…と思いきや、この映画のすごいところは犯人である男性側の苦しみをも表現しているところでしょう。

段々と雑に仕事(殺人)をするようになったサイードは囮のラヒミに逃げられ、逮捕されます。んで最後絞首刑となるのですが、ここでも彼の息絶えるまでの顔をしっかりと映しているんですよ。これは何を意味しているのでしょう?!

兵士として戦争に出向き、おそらく大きなトラウマを背負ったであろうサイードですが、辛かったと言うのは許されないのです。男ですから。

家族との暮らしぶりも描かれるのですが、昼間は過酷な肉体労働、休日は家族サービスとそれはそれで大変そうです。でも泣き言は許されないのです。男ですから。

結局サイードも厳しい男尊女卑社会の歯車の一つに過ぎなかったと思うと哀れだし、死にゆく顔を見せることでそれを考えさせてくれるアリ監督、やっぱり器デカいなあ〜!と再び思ったのでした。

考察

観た人は誰でも思ったと思います。「あれ?死刑にならないんじゃなかったの?」と。

死刑判決を受けるサイードですが、刑務所に義父とその友人という人がやってきます。「外への扉を開けておいてあげるから、死刑台に行くと見せかけて逃げなさい」。

連続娼婦殺人犯として逮捕されたサイードですが、国民から支持を得て人気になります。街の浄化は実は多くの人が望んでいたことだったからです。ちなみに恐ろしいことに実際のスパイダー・キラーも同じ理由で人気だったそうです。

義父の言葉はそんな人気に後押しされたもの。

うえ〜、この人殺しが生き延びるのかよ!!と観客が思ったのも束の間、あっさり死刑は実行されてしまう。「話が違うぞ!」と直前まで叫ぶサイードでしたが…。

このシークエンス、どう解釈したらいいのか悩みますよね。

ワタシは大ヒット作品「ジョーカー」へのオマージュなのでは?と思いました。つまり義父の「逃してあげるよ」のシーンは妄想ってことです。

サイードはイスラム社会のジョーカーです。自覚なく悪事を働き、民衆のヒーローになる。その映画「ジョーカー」は全てが妄想だったのでは?!というラストでした。

ジョーカーと異なるのはサイードのいるイランは現実で、実際に起きた事件であるということ。刑務所に義父が来る前、サイードは敬虔に祈っていました。その祈りが見せた幻覚というのは考え過ぎでしょうか…?!逃げたその後の作戦が一切語られないのも違和感ありますし。

だとするとアリ監督はかなり強烈なメッセージを込めていると言えそうです。欧米社会では「ジョーカー」はフィクションだけど、イスラム社会では現実なんだよ、と言いたいのでは?!

それでもお硬い社会派にせず、エンタメに寄せているのが素晴らしいバランス感覚だなあ、と。

んで、本当に怖いのはサイードが死刑になったこのあと。予感はしていましたが、最後の最後にイヤ〜な気分にさせられますので、お好きな方はぜひどうぞ!

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聖地には蜘蛛が巣を張る(字幕版)

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「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」。こちらもめちゃくちゃ面白かったです。「アプレンティス」とは「弟子」という意味。トランプには師匠がいて、その教えを忠実に守ってきたのですよ。その師弟関係になんかグッときちゃうんだよなあ。

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もう一本、イラン人監督の作品「熊は、いない」。こちらは社会派。監督ジャファル・パナヒ氏はイラン当局から出国禁止を喰らいながらもあの手この手で映画を撮り続けています。フィクションとノンフィクションが入り混じる面白い作りになっています!

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