不穏度
90(100を満点として)
基本情報
公開年:2024年
監督&脚本:酒井善三
キャスト:清水尚弥(神保) 木村文(及川) にしだまちこ(シバタ)
上映時間:70分
あらすじ
<以下フライヤーの紹介文から引用>
うだつの上がらない映像制作業者・神保のもとに、ある日、大学時代の先輩・及川から連絡が来る。
憧れの先輩との共同業務に気分が沸き立つ神保だったが、その仕事は怪しいディープフェイク映像制作の下請けだった。
やがて迫り来る自身の仕事の影響と責任…
神保は徐々にリアルとフェイクの境目に堕ちていくのだった…。
評価
昨日レビューを書いた「カウンセラー」と合わせて観てきたのですが、こちらも不穏感バリバリでむちゃくちゃ面白かった!監督は同じ酒井善三氏。フェイク動画制作に関わってしまった若者が、やがて何が現実で何がフェイクか分からなくなっていく。人が狂人に変わっていく様を描いた、と言えば簡単なんですが、捏造情報が拡散していく様子があまりにタイムリーということもあり、映画館の座席に身を沈めているこちらまで取り込まれていくような不思議な感覚になりました。このストーリーが、5年後、10年後にどう受け止められるのかわかりませんが、今観られて良かったなと思いましたよ。
では以下、ネタバレなしの感想です〜。
感想
主人公の神保役は清水尚弥さん。「若武者」でも、一見穏やかながら一番闇深そうな(とんでもない性癖を隠していそう…)な役を演じられていた「ミスター不穏顔」です。
この作品非常に構成が面白く、冒頭は神保がカメラに向かって喋る1ショットから始まります。続いて居酒屋で同級生らしき人と話をしている神保。少ない会話で神保が「こじらせている」ことがわかります。映像制作の道に進んだものの、いつまでも下っ端オペレーターで人生うまくいっていないのです。そんな時かかってくる一本の電話。神保が密かに想いを寄せていた先輩からです。(この作品は「BLもの」して宣伝されています)。
ここから怪しいフェイク動画制作商売に巻き込まれていく。先輩の及川は山奥の倉庫みたいな場所に住みながら動画制作作業をしている。住み込みでその手伝いをして欲しい、と言われるのです。ギャラも高いのですが、それ以上に「人に認められたい」欲がある神保は断れません、
「カウンセラー」の時は「カウンセリングルームの狭さ」こそが不穏さの元凶、と書きましたが、こちらでは逆にだたっ広いこの自宅兼事務所が不穏を煽ります。必要なもの以外は置いていません。生活部屋と、もう一部屋は広いスタジオ兼編集室のような場所。編集室と言ってもPCがポツンと置かれているだけです。手前にモニターと椅子。座って作業をする時、背中には撮影用のスクリーンバックしかない妙に広い空間が広がっている。背中スースーするこの嫌な感じ。ピントが合わない部屋の奥って、何かいそうな気がするしさあ…。いないはずの誰かに肩を叩かれそうな気がするしさあ…。でも夜中に作業する神保が気配を感じて振り返る…とかいうシーンがないのがとても良いと思いましたよ。余計なアクションを入れず空間の使い方だけで不穏を感じさせている。
話は変わりますけど、6畳一間の部屋の真ん中に冷蔵庫を置きそれ以外何も持っていない、という人の話を聞いたことがあります。その人がいかに変人かを紹介するために友人が教えてくれたエピソードなんですが、畳の部屋の真ん中に冷蔵庫がある古いアパートを想像してなんとも不安になってしまいました。妙な空間設計をする人って、気味の悪いものです…。
閑話休題。
さて、だいぶ端折りますけど、色々あって最初の神保の1ショットがどこで誰に話しているのかが分かるのは最後のほう。そこから「オイオイオイ、どこに行くんだよ?!」と驚くもう一展開があり、とんでもない方向で話は終わります。
なんつーか、最後のほうを観ると「10倍の予算があってもこの監督はすごい面白い作品を作るんじゃないか?」みたいな期待を抱いてしまう。
同作にはテレビ東京で「このテープもってないですか?」などを手掛けたプロデューサーの大森時生氏が関わっています。同じような期待を抱いた人がいるのでしょう。次回作も楽しみです!
上映館が少ないのが残念ですが、予告編貼っておきます〜。
不穏度100!「カウンセラー」レビューはこちら。
清水尚弥さん出演「若武者」レビューも貼っておきます。良い作品です!