映画ごときで人生は変わらない

映画大好き中年主婦KYOROKOの感想と考察が入り混じるレビュー。うっすらネタバレあり。週1〜2回更新中!

【ありふれた教室】評価と感想(ネタバレほぼなし!)/先生は間違っていたんでしょうか?

基本情報

公開年:2024年

監督:イルケル・チャタク

脚本:ヨハネス・ドゥンカー イルケル・チャタク

キャスト: レオニー・ベネシュ(カーラ・ノヴァク先生)レオナルト・シュテットニッシュ(オスカー)エーファ・レーバウ(クーン)

上映時間:99分

あらすじ

<以下公式サイトより引用>

仕事熱心で正義感の強い若手教師のカーラは新たに赴任した中学校で1年生のクラスを受け持ち、同僚や生徒の信頼を獲得しつつあった。そんなある日、校内で相次ぐ盗難事件の犯人として教え子が疑われる。校長らの強引な調査に反発したカーラは独自の犯人探しを開始。するとカーラが職員室に仕掛けた隠し撮りの動画にはる人物が盗みを働く瞬間が記録されていた。やがて盗難事件をめぐるカーラや学校側の対応は噂となって広まり、保護者の猛烈な批判、生徒の反乱、同僚教師との対立を招いてしまう。カーラは後戻りできない孤立無援の窮地に陥っていくのだった‥‥。

評価

面白かった!ジャンルとしてはスリラーに入るようですが、無理に怖がらせるようなカットはなく、映されるのはあくまで「学校の日常」。しかし観客は主人公のカーラ先生に同化するようにできており、「胃を抉るようなトラブルだらけの終わらない仕事」を一緒に体験させられてもうヘトヘト。99分という短さが救いです。

さて、ではなぜスクリーンの前に座る私たちがカーラ先生と同化してしまうのか?どこが面白かったのか?以下感想です〜。公開されたばかり(2024/5/17〜)なのでネタバレ無しですが、公式の「あらすじ」にないこともちょこちょこ出てきますのでご注意を!

感想

「出勤・退勤の描写がない」ことの効果

オープニングがどんなシーンか忘れてしまいましたがスルッと「学校」の中から始まったように思います。公式サイトのストーリーの説明だとカーラ先生は「中学1年の担任」。

調べてみたらドイツでは6歳〜9歳までが初等教育、10歳〜15歳が中等教育をするとされています。つまりドイツの中1は日本だと小5ってことなんですね。

映画が始まった時からすでに「窃盗が相次いでいる」状態。ここから移民の子へ疑いが向き→保護者に抗議され→教職員を疑うカーラ→隠しカメラを仕掛ける…と、どんどんお話が進みます。これが何日間の出来事かは示されません。出勤と退勤の様子が出てこないので、1日の間に起きた出来事なのか、あるいは日にちを置いてのことなのか分からないのです。

さらに映画はカーラの一人称視点です。画面に映るのはカーラの顔、カーラの背中越しの風景、カーラが視線を向けたもののみ。引きの画はありません。そしてカメラが学校の外に出るのは1度だけ。

そうなんです。おそらく家に帰ってホッとする時間もあるであろうカーラ以上に観客は「学校という地獄」に閉じ込められるようにできているんです。怖い。ビビらせるようなカットも幽霊も出てこないけれど怖い。学校はもちろん、ブラック企業に勤めた経験のある方なんかも心臓に良くないかと。

カーラ先生は間違っているか?

同作には「先生(わたし)、おかしい?」というキャッチコピーが付いていました。ワタシに言わせてもらえば「おかしくないけど間違ってます」です。いや、分かりますよ?二言目には「子供達のため」って言うんでしょ?でもね、その子供達ってのが生意気でして。先生に命じられると「それは任意ですか?強制ですか?」と来る。途中学校新聞の記者(生徒)が絡むんですけど「広報誌ではないんで。ジャーナリズムなんで。」とか言う。フランス映画「落下の解剖学」を観た時にも感じましたが、欧州では「こども」が日本の感覚で言う「こども」ではなく「身体が小さいだけの一人の人間」なんですよね。権利も義務も大人と同じであるべき、と考えているように見えます。こういう世界で「学校側」の立ち位置はあまりに複雑で難しい。だって「一人の人間」を「教育」するなんて矛盾しています。考えるだけでゾッとします。

そんな学校でカーラ先生は、何が生徒たちにとって最適かを真面目に考えている良い先生です。でもだからダメなんすよ!いいから長いものに巻かれとけって!「校長先生にお任せします」って言っとけって!…って観ている最中何度思ったことか。大問題に発展したら結局学校(校長)の責任になっちゃうんだからさあ。…ってこういうコトなかれ主義を老害て言うん?老害で結構だよ!青いんだよカーラ先生は!ゲロ吐くまで追い詰められて心身壊してからじゃ遅いんやで?!

…まあ、一番の間違いはカーラ先生の失態ではなく、初めの窃盗事件を警察沙汰にしなかった学校当局の間違いなんですよね。学校に限らず会社内や何某かの組織内でも小さな事件、事故、ハラスメントなどありますが、組織内で起きたから内々で収めるなんてのは本来おかしいわけで。

なんて自分の身に置き換えて色々なことを考えてしまいますが、一つ弱点があるとすればあまりにもひっかかりなくスッとカーラに同化できてしまい、映画らしい印象的なカットがほぼなかったことです。そこがまた「私たちの日常感」があってよくよく考えると怖いところなんですが。

ルービックキューブが象徴するもの

ちょいネタバレになりますが、小道具としてルービックキューブが登場します。カーラは数学の先生。そして事件の中心となる男子生徒オスカーは頭が良く数学の成績も良い。カーラはオスカーにルービックキューブを渡す。難しいと言うオスカーに「アルゴリズムさえ見つかれば簡単よ」と言って。オスカーはその後見事ルービックキューブを揃えることができます。この他にも数学の授業の様子が出てくるのですが、これはカーラが「『正解はある』という思考」で生きていることの象徴です。カーラもオスカーもルービックキューブの正解を導くことは出来る。一見分かり合えそうな「似たもの同志」です。でも2人の間の問題は何一つ解決しないのです。カーラ先生、社会科の先生の話も聞くべきやったなあ…。

人生変わった度

★★

ドイツの中学校、修学旅行はイギリスに行くんだ!へえ〜

公式サイト貼っておきます〜

ちな、7年ぶりくらいに新宿武蔵野館に足を運んだのですが、広くおしゃれになっていた!上の写真は武蔵野館内にあった撮影スポットで撮りました!

arifureta-kyositsu.com

「落下の解剖学」レビューはこちら。子供が証人として法廷に立ち、責め立てられます。容赦ないわあ、欧米。

kyoroko.com

「由宇子の天秤」に似ているという評がどこかにありました。こちらも緊張感があってとても面白いです!カーラが本気の正義感で動いているのに対し、カメラを抱えた由宇子は故意(の正義感)でやってると思います!レビュー置いておきます。

kyoroko.com