映画ごときで人生は変わらない

映画大好き中年主婦KYOROKOの感想と考察が入り混じるレビュー。うっすらネタバレあり。週1〜2回更新中!

【落下の解剖学】感想と評価/あなたの家の戸棚にもあるドクロの話

基本情報

公開年:2023年

監督:ジュスティーヌ・トリエ

脚本:ジュスティーヌ・トリエ  アルチュール・アラリ

キャスト:ザンドラ・ヒュラー(サンドラ)スワン・アルロー(ヴァンサン・レンツィ弁護士)ミロ・マシャド・グラネール(ダニエル)

上映時間:152分

あらすじ

<以下公式サイトより引用>

人里離れた雪山の山荘で、男が転落死した。はじめは事故と思われたが、次第にベストセラー作家である妻サンドラに殺人容疑が向けられる。

現場に居合わせたのは、視覚障がいのある11歳の息子だけ。証人や検事により、夫婦の秘密や嘘が暴露され、登場人物の数だけ<真実>が現れるが──。

「Skeleton in the closet(スケルトン イン ザ クローゼット)」という欧米の諺をご存知でしょうか?「どの家の戸棚(物置)の中にも骸骨がある」。これは「どの家(家庭)にも人には言えない秘密がある」という意味だそうです。この言葉、何かの本に出てきたのか英語教師から聞いたのか忘れてしまいましたが、初めて聞いた時イギリスの古いお屋敷の奥まった部屋のさらに奥の光の当たらない古い戸棚の中に、ほこりを被ったドクロがポツンと置かれている所を想像してゾッとしてしまいました。

同作品を観て思い出した諺です。言うなれば「とある家の髑髏がひっぱり出されて衆人の目にさらされ、そして新たな髑髏が奥の戸棚にしまわれる」という映画。

犯人探しサスペンスかと思いきや家族を巡る法廷スリラー。さすがカンヌパルムドール受賞作、とても面白く最後まで飽きさせない…と言いたいところですが、ちょっと眠くなったのも事実なんで、良かったところと眠くなったところ、感想書いてみます〜。(2024/2/26現在)公開中なんで、もちろんネタバレなし!

感想

親しい人間関係を解剖してみると?

タイトルの「落下の解剖学」。あらすじにあるように落下したのは夫です。残されたのは妻と視覚障害者である11歳の息子。解剖されるのは遺体ではなく、主に夫と妻の間の人間関係です。事故か?自殺か?殺人か?…これを紐解くために妻と生前の夫との「関係」が法廷で暴かれていきます。もちろん片方は亡くなっているので妻の一方的な言い分が主になる。「あの時、夫は『〇〇』と言った。」これは事実です(客観的証拠がないとしても)。「でもその時私は『××のことを言っているんだな、と思いました』」。これは推測。どうしてこう推測するかといえば、付き合いが長く夫の性格をよく知っているから。そしてもう一つ、妻自身の思考の癖があります。人が2人いると双方の性格がこんがらがってくるからややこしく「単純な事実」が何なのかわからなくなっていきます。さらに問題の家庭には子供もいる。

これまでも多くの映画監督が、「目に見えない『人間関係』というものを映像化する」ことにチャレンジしてきました。この作品もまた、一つの落下事件と裁判を通じて人間関係の映像化に挑んだ、シンプルかつ古典的な映画だと思いましたよ。

ちなみに本作、脚本は監督でもあるジュスティーヌ・トリエ の他、「アルチュール・アラリ」氏の名も並んでいます。アルチュール氏、実は映画監督でジュスティーヌ監督のパートナーでもあるのだとか。映画を観た方なら「えっ…同業なの…?しかも女性の方が先に売れて…?だ、大丈夫…?」と思ってしまいますよね。ジュスティーヌ監督は「このお話はフィクションですよ!」と笑っていますが、ちょっとゾワっとするこの事実がまた面白いです。(下はジュスティーヌ監督のインタビューです)

www.vogue.co.jp

さて裁判の中で露わになるいびつな夫婦関係ですが、キモはこの裁判を通して家族(残された妻と息子)が恐らく「新しい秘密」を抱える終盤です。ホコリまみれの戸棚の奥の髑髏は白日の元にさらされましたが、母と子はそっと新たな髑髏を人目に触れぬところにしまった…そんな気がします。(分かりにくくてすんません!ネタバレしないように書いてます!)

眠くなった理由とは…?

すみません、単に劇場が暖かすぎたせいかも知れませんが、中盤眠気を抑えるのが大変でして…。うーんなんだろう、法廷劇のわりに緊張感がなくてですね…フランスの裁判ってあんな感じよと言われればそれまでなんですが、なんか裁判がラフというか雑然としてるんですよ。そこが眠気を誘われた理由かと。

それと、ポスターの図案素晴らしいじゃないですか?雪の上の鮮血と恐らく落下した本人であろう青い服の男性を真上から捉えたショット。あの画を超える「画」が本編中になかったように思います。「画力(えじから)」をあまり感じられなかったのも残念。

とはいえ、主演のザンドラ・ヒュラー(本当にドイツ人なんですね!)は素晴らしく、それと弁護士役のスワン・アルローという方、グレーの髪をかきあげるお姿がむちゃくちゃ素敵!こんな人がずっと側にいるなんて、いつ間違いが起きないかヒヤヒヤしてましたわ。ま、おフランスなんで、容疑者である未亡人と弁護士の恋を「間違い」とは言わないのかも知れませんが…。

また、息子である11歳の子を子供ではなく証言者である「一人の人間」として扱っており、「ひえ〜!フランス厳しいなあ〜」と感じてしまいました。良い事なのかどうなのか…?

…以上、雑多な感想文になってしまいましたが、カンヌ映画祭の今を知るためにもぜひ劇場に足を運んでソンはないと思います!

人生変わった度

★★★

ろ、録音には気をつけよう…

公式サイト貼っておきますね〜。

gaga.ne.jp