映画ごときで人生は変わらない

映画大好き中年主婦KYOROKOの感想と考察が入り混じるレビュー。うっすらネタバレあり。週1〜2回更新中!

【宮松と山下】感想(ちょいネタバレあり!)と考察/「この世は舞台。…」シェイクスピアのあの名言を映像化!?

 

基本情報

公開年:2022年

監督&脚本:5月(関友太郎 平瀬謙太朗 佐藤雅彦)

キャスト:香川照之(宮松)津田寛治(健一郎)尾美としのり(谷)中越典子(藍)

上映時間:85分

あらすじ

<以下公式サイトより引用>

宮松は端役専門のエキストラ俳優。ロープウェイの仕事も掛け持ちしている。

時代劇で大勢のエキストラとともに、砂埃をあげながら駆けていく宮松。

ヤクザのひとりとして銃を構える宮松。

ビアガーデンでサラリーマンの同僚と酒を酌み交わす宮松。

来る日も来る日も、斬られ、撃たれ、射られ、時に笑い、そして画面の端に消えていく。

そんな宮松には過去の記憶がなかった。

ある日、谷という男が宮松を訪ねてきた。宮松はかつてタクシー運転手をしていたらしい。藍という12歳ほど年下の妹がいるという。藍とその夫・健一郎との共同生活が始まる。自分の家と思えない家にある、かつて宮松の手に触れたはずのもの。宮松の脳裏をなにかがよぎっていく・・・。

本日(2024/3/1)からアマプラ特典での配信がスタートした「宮松と山下」。劇場公開当時、主演の香川照之に銀座ホステスへの暴行事件というスキャンダルが持ち上がっていたせいか、「次の休みに観に行こう!」と思ってたらあっという間に公開終了となり観られなかった一本です。やった〜アマプラに入った!!と、早速今日観ましたら評判通りの面白さ!途中「おわっ?!」と声が出そうになるびっくり展開もありつつの、85分という短さもちょうど良い!

では感想行ってみましょう〜。ちょっとネタバレありなんでご注意!

感想

「この世は舞台。人は皆役者である。」とはシェイクスピアの台詞ですが、長い年数生きてると本当にそうだなあ、と思いますわよ。職場の顔、家庭の顔、一人で好きな事に没頭する時の顔…と、不器用ながらいろんな顔を使い分けてるよなあ…って自分で思いますもん。

「宮松と山下」はまさにそれを「映画化」した、実に「映画で表現した意味」がある作品です。いやいや映画なんだから当たり前でしょ、とお思いでしょうが映画の中には「…それ小説のほうが良くね?」とか「(流し見できる)テレビドラマだったらアリだと思うんだけど…」という作品があるのも事実。

映画らしい映画である同作の監督&脚本の3人ユニット「5月」はあのピタゴラスイッチや「ポリンキー」などのCMでお馴染みのCMプランナー佐藤雅彦氏と、彼が教鞭をとっている東京芸大大学院映像研究科の教え子。(佐藤氏は東京芸大大学院映像研究科教授。ここの学科は黒沢清教授と教え子である「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督の師弟コンビも有名ですよね。)「映画とは何か」を追求した結果生まれた作品なんだなと思います。

さて、香川照之演じる「宮松」はエキストラ俳優。京都在住ということで時代劇が多いようです。1日に何度も切られて死にますが、その日常はスタジオ入り→メイク→現場入り→切られて死んで→お疲れ様でした!→一杯飲んでアパートに帰る…と単調なもの。エキストラだけでは食べていけないためロープウェイの整備(?)の仕事もしている。

そんな彼には過去がありません。12年前に頭をぶつけたショックで記憶喪失になったのです。そこに現れる宮松の過去を知る男。宮松の本名は「山下」で、タクシーの運転手をしていたと。そして当時共に暮らしていた12歳年下の妹と、おそらくその後結婚したその夫に会う事になります。ちょっとネタバレになるのですが彼らと過ごすうちに宮松は過去を思い出します。「以前はホープを吸っていた」と妹から聞いたんでホープを買って吸ってみる。その時に思い出すんですよ。タバコは銘柄によってフレーバーが違いますから、マドレーヌ効果ってやつでしょうか。まあ、その時の香川照之の顔が凄い。何も語らなくても「あ、もしかして今思い出しちゃった?!」と伝わるんですよねえ。そしてその過去は案の定あまり気持ちの良いものではなかった。ってかいきなり「重っ!」ってなりましたよ。そして過去を知った宮松は未来をどう選択するのか…という話です。

オープニングには、まるで波のようにたゆたって見える瓦屋根。タイトル前にはゆらゆらとゆれるロープウェイのロープ。過去のない男の不安な心理を表しているように見えます。そして彼の仕事である「芝居」の様子が淡々と映されます。役に深く入り込むわけではない「エキストラ」の宮松にとって芝居をしている時間は「日常」です。多くの仕事人と同じようにプライベートと仕事が地続きになっていますが、実はそれはとてもつない「非日常」なんだ…そんなことに気付かされてしまいます。

残された謎(考察)

んでですね…観客は思うわけです。「宮松が妹夫婦と共に過ごして記憶を取り戻すくだり、あれは本当に『宮松の私生活』なのか?」と。だってそのパート、「切られ役・撃たれ役のエキストラ」で働いている日常よりもずっとドラマチックな非日常なんですもの。

中でも気になったのが「とある人が相手のことを密かに思っていること」を表現したシーン。昭和のメロドラマかっ!ってほどありがちな表現がされています。これ、わざとですよね。それとタバコを吸うシーンが多いのも気になる。「現代のシーン」とされていますが、これ本当に「現代」なんでしょうか?少し前の時代に設定されたドラマのワンシーンだとも考えられます。それから先ほど「過去のない不安な男の心理を表しているのでは?」と考えた瓦やロープウェイの風景描写だってよくよく考えたら真逆の「安定感」を表現しているようにすら見えてきました。何この無限ループ…

もちろん映画の中に答えはありません。ただ観終わったあと胸に残るのは「この世は舞台。人は皆役者。」という言葉のみ。そうそう、途中で「おわっ?!」って声出そうになったのは「スティング」もそうでした…って書くとネタバレになっちゃうかもですが、面白いのでぜひどうぞ!

※追記(「宮松と山下」がごっちゃになって「宮下」「松下」と間違って書いていた箇所を訂正しました。人の名前苦手なんですよね…ってこのごっちゃになりがちな名前の命名も製作側の「ねらい」だと思います!ヤられた!!)

人生変わった度

★★★

佐藤雅彦監督は香川照之を「顔の可動域が広い」と称賛。なるほど「可動域」かあ!!

アマプラ会員特典で観られます〜

宮松と山下

宮松と山下

  • 香川照之
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ちなみに「スティング」レビューはこちらです。

kyoroko.com