映画ごときで人生は変わらない

映画大好き中年主婦KYOROKOの感想と考察が入り混じるレビュー。うっすらネタバレあり。週1〜2回更新中!

【由宇子の天秤】ネタバレ感想と考察/ねえ、まさか自分が正しいと思ってる?!

基本情報

公開:2020年

監督:春本雄二郎

脚本:春本雄二郎

キャスト:瀧内公美(木下由宇子)光石研(木下政志)河合優実(小畑萌(めい))梅田誠弘(小畑哲也) 

上映時間:152分

あらすじ

<以下、公式サイトより引用>

3年前に起きた女子高生いじめ自殺事件を追うドキュメンタリーディレクターの由宇子は、テレビ局の方針と対立を繰返しながらも事件の真相に迫りつつあった。そんな時、学習塾を経営する父から思いもよらぬ〝衝撃の事実〞を聞かされる。大切なものを守りたい、しかし それは同時に自分の「正義」を揺るがすことになるー。果たして「〝正しさ〞とは何なのか?」。常に真実を明らかにしたいという信念に突き動かされてきた由宇子は、究極の選択を迫られる…ドキュメンタリーディレクターとしての自分と、一人の人間としての自分。その狭間 で激しく揺れ動き、迷い苦しみながらもドキュメンタリーを世に送り出すべく突き進む由宇子。彼女を最後に待ち受けていたものとはー?

感想

「エルピス」を超える面白さ!

エグい…。昨晩アマプラで観たのですが衝撃のあまり後片付けをするのを忘れ、シンクに洗い物を山と積んだまま布団に潜り込んでしまいました。(夫が深夜にやってくれてました。すまんね…)154分の長尺ですがミステリー仕立てになっており、思わぬ方向に話が進んでいくのでずっと緊張しっぱなし。面白くてそして疲れました…。

話は変わりますが、2021年、カンテレ(フジテレビ)で放映され、今は配信で観られる「エルピス」というドラマをご存知でしょうか?ストーリーはこんなん。

<以下公式サイトより引用>

スキャンダルによってエースの座から転落したアナウンサー・浅川恵那(長澤まさみ)と彼女に共鳴した仲間たちが、犯人とされた男の死刑が確定した、10代の女性が連続して殺害された事件の冤罪疑惑を追う中で、一度は失った“自分の価値”を取り戻していく姿を描いていく。

この「エルピス」と「由宇子の天秤」、主人公は同じテレビの報道屋。全く同じシチュエーションが出てきます。それは「『マスコミ・報道が事件に関わる人を追い詰めた』という自己批判番組を作ろうとすると、お偉いさんに叱られる」という部分です。この辺りは良いとして、「エルピス」毎週大変面白く観たのですが、もう一つ物足りないなと思いまして。それは、長澤まさみらの主人公たちは「この事件は冤罪だ」を信じ、実際その通りでした、で終わるところです。途中で「こいつら『正義』に酔ってんな」と感じたワタシは「実はやっぱりその人が真犯人でした」となる絶望を期待してたんですが。

もし同じように感じていた方がいればこの作品おすすめです。自分のやることが正義だと疑わない由宇子ですが、客観的に観ている観客にはちょいちょい「怪しいぞ?」と見える場面があるのですよね。そしてやっぱりな…なことになるんです。

由宇子のクズっぷりがむしろ気持ちいい

由宇子は(おそらく)フリーランスのディレクターです。父親が経営する学習塾の手伝いをしながらディレクターの仕事もしています。劇中「あたしみたいな面倒な奴に(この仕事を)頼むんだから」という台詞がありますが「面倒臭いけど良い作品を撮るディレクター」という自負があるようです。ワタシ、この人かなりなクズだと思います。身内の不始末を隠蔽しようとするからクズだと言っているのではありません。作品のためなら何をしてもいいと思っているからクズなのです。「(取材対象者の家の)外観は撮らないで下さい」と言われたそばから撮る。クズです。相手の許可なくスマホカメラを向ける。クズです。取材対象者の家に上がり込み子供の懐に入りこむ。クズです。遺族にいかにも寄り添っている風の優しい声掛けをするんですよね、自分の作品のためなのに。気持ちがいいほどのドクズっぷりですし、由宇子を演じる瀧内公美さんの厳しい眼と猫撫で声、素晴らしいです。

疑問と考察

このような作品でネタバレするのは本当に野暮で申し訳ないのですが…いくつか感じた疑問とワタシなりの考えを。(ネタバレ注意です!)

由宇子が作ったドキュメンタリーはどんなものだったのか?

そもそも由宇子が追っている3年前の事件の経緯自体、結構複雑でして。2人の自殺者が出ているのですが、誰が被害者で誰か加害者かよくわからないまま、事件をめぐる報道の偏り、ネット上での誹謗中傷問題なども被さってきます。正直、由宇子が回したVTRを全部つなぐと、何の話をしてるのかよく分からないものになるんじゃないか?と。一体どんな作品を納品したのか謎でして、偉いさんの言う「いつもみたいに学校を悪者にしときゃあ、分かりやすくていい」という言葉も一理あるんじゃないかと思うほど。

めいの赤ちゃんの本当の父親は?

学習塾を経営してる由宇子の父親(木下先生=光石研)。めいはその生徒の一人。貧しい父子家庭の子です。妊娠しためいは「お腹の赤ちゃんの父親は木下先生だ」と由宇子に言います。父親も「自分が妊娠させた」と告白します。これ本当でしょうか?その後2人の人物が「めいは嘘つきだ」と言い、さらに「ウリをやっている」とも言います。根拠のない勝手な解釈ですけど、木下先生はめいとヤってないと思います。生徒思いの木下先生。めいがウリをしていることや、同級生の生徒とも関係があることを知っていて、自分が悪役になろうとしていたのでは?と。誰の赤ちゃんなのかめい自身にもわからないでしょう。

由宇子がカメラを回した訳

由宇子も同じことを考えたのではないでしょうか?「めいを妊娠させたのは自分の父親とは限らないぞ」と。いろいろあってクライマックス。重体となっためいを見舞い、病院から出て歩く由宇子の横顔をカメラが追います。その横顔に髪が覆い被さり、表情は見えない。それでも追うカメラ。由宇子が何を考えていたのか?表情すら映っていないのですから観客は想像するしかないのですが、ワタシは「しめしめ、次の作品のネタができたぞ」とほくそ笑んでいたのだと思います。テーマは「誰が女子高生を追い詰めたのか?」貧困、買春、そして自分を犠牲にしてまで生徒を守ろうとする大人(木下先生)。色々描けそうですね。自分が「加害者の家族」にならなくてすみそうだぞ、と確信したとたんコレです。そして殺されかけた自分自身にスマホカメラを回すのです。これ、キレやすいめいの父親に「妊娠させたのウチの父です」と突如告白して、案の定キレためいの父親に首を絞められるんですが、由宇子はこの時点で「妊娠させたのはウチの父とは言えない」と本当は思ってるんじゃないかしら…。いや、自分の父親が女子高生を妊娠させた可能性もまだ残っています。でも真実はどうでもいいんです。自分が「そうではない」ドキュメンタリーを作れば、それが真実になるのですから。やっぱこの人、クズですな。(ワタシの個人的な解釈です!)

いや〜いいもの観させてもらいました〜!最近は「ドキュメンタリーは真実だ」と考える方も少ないかと思いますが、まだそう考えている方がいれば、ぜひこの作品でそんな気持ちを粉々に吹っ飛ばして下さい!

人生変わった度

★★★★★

真実は一つ!…なわけないっす。

※なんとWikipediaにラストまでの細かいあらすじ全部載ってます。(2023/5/10現在)

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由宇子の天秤

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