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【CURE(キュア)】感想(ネタバレあり!)と解釈/人怖(ヒトコワ)映画の大傑作!

 

不穏度

100(100を満点として)

連続猟奇殺人事件。響く低音、風、廃墟。灰色のルック。不穏しかありません。まさに人生を変える一本。

基本情報

公開年:1997年

監督&脚本:黒沢清

キャスト:高部賢一(役所広司) 間宮邦彦(萩原聖人) 佐久間真(うじきつよし)

上映時間:111分

あらすじ

<以下、Amazonプライムビデオの作品紹介文より引用>

「憎悪は催眠で覚醒する。」 一人の娼婦が惨殺された。駆けつけた刑事の高部は、犯人も動機も明確な個々の殺人事件で、胸をX字に切り裂くという手口だけが共通している事実を訝しがる。友人の心理学者の精神分析も手掛かりには繋がらない。その頃、東京近郊の海岸を彷徨っていた記憶傷害を持つ男が、ある小学校教師に助けられた。教師は男の不思議な話術に引きずり込まれ、魔がさしたように妻をX字に切り裂き、殺してしまう…

評価

ワタクシのオールタイムベスト5の一本「CURE(キュア)」。黒沢清作品の最高傑作だと思ってます。もちろん一般的にも評価は高いです。これ何度も言ってますけど好きすぎる作品って案外感想が書けないもんで、そのうち…と思っているうちにずいぶん時間が経ってしまいました。しかし!黒沢清作品「蛇の道」も2024年公開されたっちゅうことでもう一度観てやっと筆を取った次第。

初めて見たのは、TSUTAYAでレンタルが始まってすぐの頃だったと思います。面白かった…というより怖かったのほうが強い。最近の言葉で言うと「人怖(ヒトコワ)」ジャンルとでも言いましょうか。役所広司と萩原聖人の演技対決、息継ぎのタイミングが図れず苦しくなる長回し、ベース音のように流れ続ける重低音、異様な存在感を示す木造の廃墟…などなど何もかもに圧倒された2時間でした。このあと、1週間くらいぼうっとしていたように思います。

さて、今回久しぶりに観て(5回目くらいか?)初めて気がついたことなども含め、感想です〜(ネタバレしてます!要注意!)

感想

息詰まる長回し

カットを割るタイミングって呼吸のタイミングだと思うんですよね。パパパッと1,2秒単位でカット割をしている映像は忙しなく過呼吸になる。逆に1カットが長いヨガの呼吸のような映像はゆったりできますが、長すぎると息苦しくなり逆に生命の危機を覚える=恐怖に繋がるのでは、と思うんですよ(いや、感覚的な話ですよ?)。

「CURE」はこの息詰まるような長回しを多用しているのが特徴。トークショーで監督自身が語ったところによれば「一つのカットの中で同じ人間が善から悪になるといった変化、そのあいまいさを撮りたかった」とのこと。考えてみれば1人称で生きている我々の人生は1カットで出来ています。いい人がずっといい人ではありませんよね。圧巻の「その人の変化が見える」長回しシーンがいくつかありますが、ワタシは駐在所員のでんでんが同僚を銃で撃つシーンが好きでして。(この後の取調室でのでんでんさんも凄いです!)おそらく毎朝のルーティーンであろう、駐在所のゴミ出しをしてからふと「そういえば」という感じに腰の拳銃を抜いて同僚を後ろから撃つ。お巡りさんが人殺しをするのですから客観的に見れば「善から悪に変わる」のですが、本人の中では何も変化がなさそうに見える。日常の延長戦上にある狂気。実にリアリティがあります。

響く低音

萩原聖人演じる記憶喪失の医学生、間宮。催眠療法の研究をしており、会う人会う人に「憎んでいる人を殺して喉元をXに切り裂く」という催眠をかけています。

その催眠術の掛け方は「ライターの火や、点滅する光を見せる」「水の落ちる『ポタッポタッ』のような一定のリズムの音を聴かせる」といったもの。その時に潜在意識の中に「憎いアイツをXに切り裂け」というメッセージが仕込まれるのですが、かけられた側は気づかない。しかし後に同じような光の点滅や音を聴いた時にそのメッセージが発動してしまう、という仕組みです。

んでですね、問題は「音」のほう。

この作品「音」がものすごく怖いです。まず高部刑事(役所広司)の家の中の音。奥さんは精神的な問題を抱え病院に通っています。その奥さんはいつもカラの洗濯機を回している。帰宅した高部がする最初の仕事は洗濯機を止めることです。その洗濯機の回る音が「ゴオ…ゴオ…」という低音。

季節は冬で、風の強い日が多い。ヒューウ、ゴオオオ…というこれも低い音。

高部と間宮が対峙する長回しの病室のシーンもコンクリと鉄筋が響かせる薄気味悪い謎の音がずっと。

それから、実は今回初めて気づいたんですが、中盤あたりに出てくる捜査会議のシーン。高部が間宮を呼んで前に座らせて、部長クラスの人間に間宮の症状を説明する。大杉漣がエライ人役で間宮に「あんた誰だ?」と言われます。このシーンにですね、トントントントントンという雨だれのような音が入っているんですよ。雨は降っていないし、雨漏りカットもありません。ヤダ、怖っ!もしかして観客を催眠にかけようとしてない?!この音の意味はよくわかりませんが、これから観る方はぜひ音量を上げてチェックしてみて下さい。

結局何が怖いのか?

もう本当にあちこちが怖い映画なんですけど、何が一番怖いって、その人が最も憎んでいる相手ってのが最も身近な相手って所なんですよ。始めに出てくる小学校教師の場合は妻、高部にとっても妻、巡査の場合は同僚、買春男には【売春婦】、女医には【男】(異性は人類の半分を占める身近な存在です)。

しかも1、2言のセリフだけで「あ、この人はアイツが憎いんだな」と分かるんですよ。それって自分にも心当たりがあるからですよね?!これに気づいた時にゾッとしましたよ。

それからタイトルの「CURE(キュア)」。「ケアする」という「治す」という意味です。「俺の中にあったものが今は全部外に出ている。だから自分は空っぽだ」という間宮。魂の解放。魂の中には善もあればもちろん悪もある。その悪は混じり気のない純粋な悪です。さて、間宮は会った人たちを一体何から治したんでしょうか?そこには見てはいけない真実があるような気がします…。

ラストシーン秘話と解釈

さて。有名なラストシーン。間宮を始末した後、ファミレスで一人ご飯を食べている高部。前回来た時はほとんど残してたのに今日は完食。体調良さそうです。そこへかかってくる一本の電話(高部の携帯)。「はい、分かった。ショカツに車回しといて」とだけ言って切ります。この電話、高部の妻が入院中の病院で殺されたという知らせなんじゃないかと思うんですけど、どうでしょう?!

理由は2つ。1つはその前に佐久間(うじきつよし演じる高部の相棒的存在の精神科医)が亡くなった知らせを電話で受けた時も同じような感情のない対応だったから。2つ目はファミレスシーンの少し前にXに喉元を切られた妻のショットが一瞬入っているからです。間宮の後継者となった高部はすでに覚醒していて病院内の誰かに妻を殺させたのではないでしょうか?

さてファミレスシーンに話を戻すと、タバコを吸う高部と1、2言やりとりをした店員が上司らしき人に注意される。その店員は画面の奥へ行き、包丁を握るとスタスタと歩いていく…この場面で映画はスパッと終わります。

うわあ〜高部さん、間宮が「あんた凄いね」というだけあるじゃん!

このシーンの前にも一回、高部はこのファミレスを訪れ、同じ店員が接客しています。その時催眠をかけたのでしょう。タバコに火を付けるだけで覚醒させたのです。

実はこのシーン、もともとはその後も続き、包丁を持った店員が上司を滅多刺しにするところまで撮ったそうな。カットして大正解ですよね。

いや〜、無音のエンドロールを眺めながら「エライもん観ちまった…」と呆然としますよ!天才的無自覚催眠療法士となった高部はこれからも人を「ケア」し続けるでしょう。ケアするということが本当はどういうことなのか、父の介護をする今、考えてしまいます。いや、考えないようにします、怖いから。えーん…。その代わりこれからも何度でもこの映画を観ようと思います…。

「CURE」はアマゾンプライムビデオで観られます。

※レンタル料がかかる可能性があります。クリックすると料金が出てくるのでご確認ください。

CURE

CURE

  • 役所広司
Amazon

アマゾンプライムは30日間無料体験できます。ここから申し込みに飛べます〜。

もはや買ったほうがいい気がしてきた…。4K版ブルーレイ出てました!

黒沢清作品レビュー貼っておきます。

同じ役所広司主演作品。高部刑事のその後の姿ではないか?と勝手に解釈している「カリスマ」。わけわからんけどCURE好きにはたまらない雰囲気ある作品です!

kyoroko.com

リメイク版も公開の「蛇の道」。胸糞の悪さは「CURE」と双璧。脚本が高橋洋氏なのでストーリーはちゃんとあります。観やすいです。

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「蛇の道」の続編です。意味わからん。でもそこが良いッ!!

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1985年の初期作品。こちらも意味不明で良いです。洞口依子が可愛い。そしてエロい。

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「Chime(チャイム)」。監督いわく「三大『怖いもの』を全部ぶち込んだ」45分の作品。配信はしていません。中に書きましたが特殊な販売方法をしています。中途半端な感想文になってるのでそのうち書き直す予定。怖いわ面白いわで最高です!

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