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【aftersun/アフターサン】感想(ちょいネタバレ有り)/どうせ何も映ってやしないのさ

 

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  • ポール・メスカル,フランキー・コリオ,セリア・ロールソン・ホール
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不穏度

75(100を満点として)

明るいバケーションの中に散りばめられる死の予感。ラストカットで見せつけられる絶望。

基本情報

公開年:2022年

監督&脚本:シャーロット・ウェルズ

キャスト:ポール・メスカル(カラム/父親)フランキー・コリオ(ソフィ/カラムの娘)セリア・ロールソン=ホール(31歳のソフィ)

上映時間:101分

あらすじ

<以下、アマプラ紹介文より引用>

思春期真っただ中、11歳のソフィ(フランキー・コリオ)は、離れて暮らす若き父・カラム(ポール・メスカル)とトルコのひなびたリゾート地にやってきた。輝く太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、親密な時間をともにする。20年後、カラムと同じ年齢になったソフィ(セリア・ロールソン・ホール)は、ローファイな映像のなかに大好きだった父の、当時は知らなかった一面を見出してゆく……。

評価

カンヌで上映され、アカデミー賞では父親役のポール・メスカルが主演男優賞にノミネートされるなど話題になった一本ですが、忙しさに紛れて映画館に足を運べず…。その「アフターサン」が早くもアマプラに来たぜ!!…ってことで、早速観てみましたよ。

冒頭から「コレは一癖あるぞ?」(後述します)というシーンにビビっときますが、「あの夏」をコラージュしたミュージックビデオのような繋ぎに「思ってた以上になんも起きねえな!!」ってのが中盤までの感想。しかし終盤、え、なんで?目から水が出てきたんすけど…?と、涙が溢れないよう歯を食いしばる時間帯があったかと思うと、ラストカットのヤバさにぐわっと心臓を持っていかれて、一晩たった今でも考え続けているっていう。

細部まで計算されており、「映画」としての魅力はミチミチに詰まってるんですが、ちょっと枠外のことを考えさせすぎってヤツ?こちとらあんまりアタマ良くないもんで、ついていけないっすわ…ってのも正直なところ。評価するなら80点って感じです。では、以下感想です〜(ネタバレちょいあり!)

感想

事前情報は入れとくべき?!

皆さんにとって「あの夏」ってどの夏ですか?ワタシはやっぱり、子どもの頃友達と連れ立って町営の水上公園の流れるプールで遊んで帰りにかき氷食べて頭キーンってなって笑い合ったのが「あの夏」かなあ…。ベタだけど。ソフィと同じ11歳だったと思います。そう、11歳って「最後の子ども時代」なんですよね。

さて、映画の内容は、現在31歳のソフィが、当時31歳の父親と過ごした「11歳だったあの夏」を、残されたビデオテープと共に回想する、というもの。20年前の画素数の少ない荒いビデオテープの映像、ソフィが当時実際に見た光景、そしてソフィが見なかった(おそらく31歳の今、想像している)光景、という3つの「視点」で物語は進みます。いや進むっていうか、ダラダラとバケーションを楽しむ様子がコラージュされる。説明カットはほとんどなし。事前に「あらすじ」を読んどかないとさっぱり分からないかも知れません。そんで父親は(たぶん)このバケーションの後死ぬんですよ。おそらく自殺。

…ってことまでワタシは事前情報として知っていたんですけど、どこで知ったのかよく覚えていない。さり気なく情報を流布する、A24の宣伝の巧みさです。(A 24はどうも「宣伝ばっかり力を入れてる制作会社」というイメージがあります。偏見です!)ポスターやキャッチコピーもなんか不穏だし。そして父親が自殺することを事前に知っているかどうかでだいぶ見方は変わってくると思います。だって物語の中には直接的な描写は出てきませんから。(希死念慮があるっぽい描写はありますが、気づかない方も多いのでは?)ワタシは理解が深まったので先に知ってて良かったと思いましたが、うーん、、それが正解とも思えないです。…ってここまで読んだ方は知っちゃいましたね、ごめん…。

父の背中

ま、宣伝の話はさておき。

前述した「コレは一癖あるぞ?」と思った冒頭のシーン。トルコのホテルに到着した2人。ソフィはベッドで寝入ってしまいます。画面手前にソフィがくるまっているシーツ。父親は静かにバルコニーに出て窓を閉め、背中を向けてタバコを吸い始めます。姿は見えるけれど、外の音は聞こえない。観客に聞こえるのはソフィの規則正しい寝息だけ。仲の良い父娘だけど、透明なガラスで断絶されている。その様子を一枚の画で表現しています。カラム(父親)の壮絶な孤独。もうここから不穏です。そしてこの背中に始まり、印象的な場面で何度か出てくるカラムの背中。これは現在のソフィの想像でしょう。表情まではおもんぱかれなかったという意味で。ソフィの想像の中に出てくる父の背中は何てことない背中です。筋肉隆々ではなく、やせっぽちでもなく、特徴のない背中。忘れてしまいそうなごく普通の背中。だからこそ、観客は「思い出の中の誰かの背中」を重ねてしんみりしてしまうのです。

どうせ真実は映らない

そしてもう一つ、この映画を印象的なものにしているのが観客は父・カラムを「何かに映った二次的な映像」で見るシーンが多いということです。ビデオカメラに映った父、鏡に映った父、光の消えたブラウン管に映った父。これは何を表しているのでしょう?!

私たちは「真実」を残そうとカメラを回します。でも映ったものって真実なんですかね?ただの電気信号じゃないんですか?そもそも「目で見る」という行為自体が網膜に映った情報を脳で補足して捉えていると言えますから、見ているものだって真実とは言えない。じゃあ、「あの時の父の本当の姿」って何ですかね?って考えると、ソフィの想いの中にしか【真実】はないと言えます。鏡にも写真にも、動画にさえどうせ真実は映らない。それを再生することは奥深く眠っている「想い」をひっぱり出すためのきっかけに過ぎません。「私の心のカメラで映すから」。賢明にも11歳のソフィは分かっていたのですね。

ソフィが11歳だった20年前と異なり今や誰でもどこでも手軽にスマホで動画を撮影できる時代ですが、映像を過信することの虚しさも訴えているように思ったのでした。最後のほう、ポラロイド写真がゆっくりと濃くなっていくのも逆説的でとても印象的です。このアナログカメラこそ「心のカメラ」なのでしょう。父の実体は消えたけれどその魂はソフィの心の中で蘇り、生き続けるのです。

考察が止まらない?!

さて、この作品、「分かりにくさ」のせいかネットは考察で溢れています。皆、面白いしとても勉強になります。中でもワタシが「ぜんぜん気づかなかったよ!」と驚いたのが「カラムはゲイで、それが因子のうつ病だった」という説。辻褄はあっているのでこの解釈、おそらく正解だと思います。これを知ってからだと、ボートの上で父がソフィに「どんなことも何でも話してね」と語りかけるあの美しいカットが、さらにとてつもなく美しく思えます。31歳のソフィには同性のパートナーがいます。赤ちゃんの泣き声も聞こえる。20年前、ああ言ってくれたのに、話したい時にはもういない。大人のソフィがなぜずっとアンニュイな表情をしているかの理由もよく分かります。…うっ…切ない…。

さて「アフターサン」、考えれば考えるほど奥深く「映像作品として何ができるのか?」を追求した一本に思えます。監督のシャーロット・ウェルズは今作が長編1作目だそうですが、「フィルムにはどうせ何も映らない」ことを良く知っている方なのではないでしょうか。次回作も楽しみです。

それにしてもminiDVって言葉、15年ぶりくらいに聞いたな!ノスタルジックで何とも美しいルックの秘密がコダックのページにありました。正直ワタシはちんぷんかんぷんでしたが、気になる方はどうぞ!

www.kodakjapan.com

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ノスタルジックなルックは70年代のロスの青春を描いた「リコリス・ピザ」にも似ています。こちらポール・トーマス・アンダーソン監督。個人的には大好きだったフィリップ・シーモア・ホフマンの息子(似てる〜!!)が出てるので100点です!

kyoroko.com