基本情報
公開:2022年
監督:ポール・トーマス・アンダーソン(他監督作品:ブギーナイツ マグノリア)
脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
キャスト:アラナ・ハイム(アラナ・ケイン)クーパー・ホフマン(ゲイリー・ヴァレンタイン)ショーン・ペン(ジャック・ホールデン)トム・ウェイツ(レックス・ブラウ)
上映時間:133分
あらすじ
<以下、公式サイトより引用>
1970年代、ハリウッド近郊、サンフェルナンド・バレー。
高校生のゲイリー・ヴァレンタイン(クーパー・ホフマン)は子役として活躍していた。アラナ・ケイン(アラナ・ハイム)は将来が見えぬまま、カメラマンアシスタントをしていた。ゲイリーは、高校の写真撮影のためにカメラマンアシスタントとしてやってきたアラナに一目惚れする。「君と出会うのは運命なんだよ」強引なゲイリーの誘いが功を奏し、食事をするふたり。「僕はショーマン。天職だ」将来になんの迷いもなく、自信満々のゲイリー。将来の夢は?何が好き?……ゲイリーの言葉にアラナは「分からない」と力なく答える。
それでも、ふたりの距離は徐々に近づいていく。
ゲイリーに勧められるままに女優のオーディションを受けたアラナはジャック・ホールデン(ショーン・ペン)というベテラン俳優と知り合い、映画監督のレックス・ブラウ(トム・ウェイツ)とテーブルを囲む。また、カリフォルニア市長選に出馬しているジョエル・ワックス(ベニー・サフディ)の選挙活動のボランティアを始める。
ゲイリーはウォーターベッド販売を手掛けるようになり、店に来た女の子に声を掛ける。ある日、映画プロデューサーのジョン・ピーターズ(ブラッドリー・クーパー)の家へベッドを届けるが、面倒に巻き込まれる。それぞれの道を歩み始めるかのように見えたふたり。出会い、歩み寄り、このまま、すれ違っていくのだろうか――。
評価
監督は「マグノリア」や「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」で人気も実力も申し分のないポール・トーマス・アンダーソン。彼の自伝ではないのにそう見える不思議な作品です。2021年度のアカデミー賞作品賞ノミネート作品ながらも日本では小さな映画館で短期間上映して終わってしまった気がしますが、ワタシはこの作品、映画館で観ることができてとても良かったと思いました。説明するのは難しいけど全体的に懐かしく「美しくて少し悲しいものに触れたなあ」という気持ちになる一作。鑑賞してからちょうど1年ほど経つと思いますが、ノスタルジックでパステルがかった色合いの美しさを時々思い出します。色調整まで監督自身が行ったそうですが、映画全体を彩るこの色合いも何がどう良いのかよく分からないんですよ。けどとにかくいい。説明になっていませんがそんな評価です。
感想と解説
青春の輝きと戸惑いを体現している主演の2人
特に素晴らしいのが今作が映画初出演という主役の2人。
特徴的な顔立ちのヒロイン、アラナは「HAIM(ハイム)」という三姉妹バンドの末っ子。ワタシは先に映画を見てからこのバンドを知ったのですが、音楽もノスタルジックで良いです。あと単体で見ると「特徴のある顔だし背も高いしすごいインパクトあるな」と思うのですが、三姉妹一緒に見るとお姉様方のインパクトがさらに大きすぎて、可愛らしく見えます。
↓代表曲「Forever」のLIVE版です。左にいるのがアラナ。
そして10歳年上のアラナと恋に落ちる15歳の少年ゲイリーはクーパー・ホフマン。あのフィリップ・シーモア・ホフマンの息子です。2003年生まれで撮影当時の2020年17歳。10代と思えぬ見事な体躯とふてぶてしいまでの存在感!特に顔も体つきもすごく素人っぽいのが良い。「大勢の人に見られて磨かれる」前の外見をしてるんです。彼が俳優として大成したらこの外見はもう見られないでしょう。貴重なもん見たな、という印象です。
10代のワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
瑞々しいという言葉がぴったりのこの2人の恋模様を中心に描かれますが、くっついたり離れたりの間にアラナが女優を目指してオーディションを受けるとそこに人気俳優のホールデン(ウィリアム・ホールデンがモデル)がいたり、石油ショックのせいで大変な目にあったり、たまたま訪れたのがバーバラ・ストライサンドの彼氏の家だったり…など70年代当時のロサンゼルスならありそうな出来事が起こります。10代〜20代から見た「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」になってるんですね(しかし流行ってるよねこの系統)
自伝っぽく見える理由
また、子役上がりのゲイリーは15歳なのですがウォーターベット販売のビジネスに乗り出したりピンボールバーを作ったりと「いやいやいや15歳には無理っしょ」みたいなことをするんです。ところがこれほぼ実話で「羊たちの沈黙」や「マンマ・ミーア!」などのヒット作を手がけるゲイリー・ゴーツマンというプロデューサーの体験なのだとか。監督の自伝ではなかったけれど監督が尊敬する知人の実話だったというわけ。
さて、ゲイリーから見ると70年代のロスって夢と自由でいっぱいなんだなあ〜って感じがします。しかし彼より10歳上の“年増”で、夢を聞かれても「…分からない」と答える25歳のアラナには閉塞感しかない街で、その対比も面白い。恋愛に逃げ込んでるわけですが、その恋愛すら「彼氏は10歳年下」なんだから結婚も見えず、先行き不安しかない。
この作品、ワタシのようなおばちゃんは「いいわねえ〜青春だわあ〜」なんて呑気に観られますが、何をしたいか分からず焦っている若者(これも青春にありがちです)にはちょっとイタイ映画かもしれません。
タイトルのリコリス・ピザとは?
最後にタイトルについて。リコリスとは不味くて有名な黒いグミみたいなお菓子。このぐるぐるをLPレコードに見立た「リコリス・ピザ」という名前のレコードショップが当時のカルフォルニアにあったのだそうです。 む?LPレコードが分からない?それはご自分でググって下さい〜!