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【AKIRA】の本当のすごさとは?!88年の傑作アニメに見るこの国のスクラップ&ビルド


AKIRA 4Kリマスターセット (4K ULTRA HD Blu-ray & Blu-ray Disc) (特装限定版)

不穏度

50(100を満点として)

1988年に、2019年を想定して描かれたディストピア。素晴らしい音楽もまた不穏

基本情報

公開:1988年

監督:大友克洋(他監督作品:スチームボーイ 蟲師)

脚本:大友克洋 橋本以蔵

キャスト:岩田光央(金田)   佐々木望(鉄雄)小山茉美(ケイ)石田太郎(敷島大佐)

上映時間:124分

あらすじ

<以下、DVD紹介文より引用>

1988年7月、関東地区に新型爆弾が使用され、第三次世界大戦が勃発した。
31年後― 2019年東京湾上に構築されたメガロポリス、ネオ東京は翌年にオリンピック開催を控え、かつての繁栄を取り戻しつつあった。 健康優良不良少年グループのリーダー・金田は、荒廃したこの都市でバイクを駆り、暴走と抗争を繰り返していた。ある夜、仲間の鉄雄は暴走中、 奇怪な実験体の少年と遭遇し、転倒負傷。呆然とする金田たちの前で、彼らは軍の研究所へと連れ去られてしまう。
鉄雄救出のために研究所へ潜入を試みる金田。だが、彼はそこで過度の人体実験により新たな「力」に覚醒した狂気の鉄雄を見る。
一方、研究所内の特殊ベビールームでは、実験体の少女が「最高機密=アキラ」の目覚めを予言。鉄雄は自らの力の謎に近づくべく、
地下深く眠る「アキラ」への接近を開始した―

夏になると触れたくなる作品があります。一本は「太陽が眩しかったから」でおなじみカミュの「異邦人」。

そしてもう一本が映画「AKIRA」です。6年ほど前に久しぶりに見返して「凄い映画だったんだあ〜」と改めて衝撃を受けて以来、なんだか夏に観たくなる。その理由は1988年の公開時が夏だったからと、後述しますがもう一つあります。

同作の凄さについては今更ワタシ如きが語ることでもないので、88年公開当時に観て、かつ今も観続けている「古の映画ファン勢」としての見方を語ってみようかなと。

AKIRAと戦争

前半、ガツンと来るのが敷島大佐のこのセリフ。「建設の熱は冷め復興の喜びは忘れられ、今や欲望に身を任せた馬鹿どもの掃き溜めだ。」映画の舞台は2019年。1988年の「新型爆弾」(AKIRA)で第三次世界大戦が起き、そこから31年後という設定です。上のセリフは戦後31年で復興を果たしたネオ東京の煌びやかなビル街を見おろしながら大佐がつぶやくもの。

漫画「AKIRA」の連載が始まったのは1982年。その原型は1979年に連載の中編「Fire-ball」だと言われています。ワタシがまだうら若き乙女だった1980年代は上野公園や新宿駅に傷痍軍人の姿を見かけました。今思えば本物だったのかどうか怪しいですが…。「赤線」「青線」という言葉もあったし、暗い路地には「戦後」の匂いがあり、見てはいけないような恐ろしさを感じたものです。

そんな中バブル経済が始まります。時は1986年。急に大人たちは肩パッドを入れ始め、外タレの公演も増えました。80年代は戦後と未来がせめぎ合う混沌の時代だったのです。そう、大佐のセリフは公開当時の日本そのものを言い表したもの。

さらに劇中のセリフ「私たちにはまだ早い力」は核を連想させます。唯一の被爆国である日本ですが原発の導入は意外と早く(というかアメリカから押し付けられ?)初めての原子力発電稼働は1963年。

「夏にAKIRAが見たくなる」もう一つの理由はこの作品が『あの戦争を忘れるなよ』と言っているからなのです。

預言書としてのAKIRA

2020年(実際の開催は21年)の東京五輪の際「東京五輪を1年後に控えた2019年」というAKIRAの設定が「未来を予言した!」と話題になりましたね。ほんと思うんですけど天才的クリエイターというのは時間の尺度が違う。凡人が5年後を想像する時に彼らは30年先を見ている感じ。だから時に預言者と言われたりします。

さて、その天才大友克洋が88年に予言したのは東京五輪だけではありません。政界に食い込む怪しげな新興宗教の跋扈は統一教会のこと、結局制御できなかったAKIRAの「力」は「想定外の震災」で崩れた原発…などなど。

さあ、では最後の「もう始まっているからね」というセリフはどういうことでしょう?ストーリーから追えばAKIRAとその仲間たちのような超能力者が人類の進化系として「もう生まれている」ということになります。ガンダムでいうところのニュータイプ。宙を舞う瓦礫が遺伝子のようならせんを描いていることでも明確ですね。

では同作をこの国の預言として考えるとどうでしょう?「日本も次のフェーズに入らなくてはならないのでは?」という作者のメッセージのように思います。突然付いた大きな力を、育ちと内面の貧しさ故に制御できず宇宙の藻屑となる哀れな鉄雄の姿は、バブル経済崩壊後の日本の姿と重なります。そしてその後訪れたのは「失われた30年」。

バブルが終わったあの時、何かをスクラップにしてでも本当の戦後を立て直さなくてはいけなかったんでしょうね…。「もう始まっている」のに始められなかった日本。作者はきっとこの未来をも見通していたのだと思います。

…などと氷河期世代のワタシはため息をつくのでした…。

ともかく、その後の様々な作品に影響を与えるだけのことはある素晴らしい一本です。未見の方はこの夏ぜひ!本当に凄い作品です。

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AKIRA

AKIRA

  • 岩田光央
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コミックは後半だいぶ話が違います!面白いです!大友氏ならではのびっちり書き込んだ絵柄をじっくりご覧あれ! 

AKIRAが気に入ったならこちらもお好きなはず!大友克洋氏の大傑作「童夢」。団地で繰り広げられる子供達のサイキックバトル!1980年にこれ書いてるのヤバくないっすか?!

その「童夢」を「インスパイアした」作品「イノセンツ」レビューはこちら。クライマックスシーンは「童夢」のラストそのまんまです!

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