映画ごときで人生は変わらない

映画大好き中年主婦KYOROKOの感想と考察が入り混じるレビュー。うっすらネタバレあり。週1〜2回更新中!

【狂った果実】ネタバレあり感想/時代を超えるお洒落とは?

 

基本情報

公開年:1956年

監督:中平康(他作品に「月曜日のユカ」※下にリンク貼りました「猟人日記」など)

キャスト:石原裕次郎(滝島夏久) 津川雅彦(滝島春次) 恵梨(北原三枝)

上映時間:87分

あらすじ

<以下日活「狂った果実」公式サイトより引用>

太陽族の滝島夏久はまだ純真な弟・春次の初恋の女性・恵梨を奪う。やがて心の中にあった兄弟への愛情の均衡も破れ、恵梨は夏久の強靭な肉体に強く惹かれていった。恵梨と夏久の全ての出来事を知った春次は、憑かれたようにモーターボートでヨットの二人を追った……。

ものごころついた頃にはもう石原裕次郎は太陽に吠えろ!のボスでブラインドを覗くだけの丸顔のおじさんだったし石原慎太郎はなんだかいつも怒っている過激思想の国会議員だった。アラフィフのワタシがこの調子なんだから、そこのお若い方は1956年の作品なんぞ「ふっる!!」としか思わないでしょう。

しかしですよ。

最近また見直したのですが、ストーリーもぜんぜん古くないし、なんせカット割がかっこいい。中平康のこのスタイルをフランソワ・トリフォーが絶賛し、ヌーヴェルヴァーグの発祥となったんですよね。ヌーヴェルヴァーグの先駆けが日本なんて、「意外な日本発祥モノ」のオセロやピクトグラムと並び称していいくらいなもんですよ!!…などと吠えたついでに見どころご紹介します。

見どころ4つ

①裕次郎がカッコいい。

アラフィフ世代にとってさえ裕次郎は過去の人。最盛期がどんなもんだったかというのをこの作品で初めて知り「スターってこういうもんだね!」と感服いたしました。主役は裕次郎扮する「夏久」。その弟が津川雅彦。さらに友人役に岡田真澄がいます。津川雅彦も良い男だし、岡田真澄の美青年ぶりはガチ中のガチ。

ちなみに岡田真澄といえば、ルキノ・ヴィスコンティ監督の「山猫」に抜擢されるも、撮影までの期間監督と一緒に住まなくてはならない(ヴィスコンティ監督はゲイ)ことを知って降板、代役がアラン・ドロンになった…というエピソードは有名ですね。(ヴィスコンティ、今生きていたら大変なことになってそう…)

まあ、美男子好きのヴィスコンティが目を付けるくらい麗しいのが岡田真澄だったわけで、では裕次郎はそれ以上の美男子かといえばそうじゃない。実際、大学時代に日活、大映、東宝のオーディションを受けてすべて不合格だったそうな。それでもスターと言わざるを得ない華やかなオーラを纏っています。放蕩生活の中に滲み出る育ちの良さとか根拠なき自信と少しの不安を感じさせる眼差しとか。ワタシのように「あのおじさんがなぜそんなに人気なの?」と疑問に思ったことがある方、ぜひご覧あれ。

②説明的でないからおしゃれに見える?!

同作は1958にパリで公開されるやいなや、フランソワ・トリュフォーやジャン = リュック・ゴダールが絶賛。中でもトリュフォーの言葉が面白い。「すべてのショットが等価値で、どのショットもその次にくるショットを導くためのものではないため、それらのショットは完全で豊かなものになっている」。むむむ。なんとなくだけど「説明のためのショット」をわざわざ入れない、ということでしょうか。これ、のちのトリュフォーやゴダールの作品がそうですよね。2次元のデザインでもそうですが、万人にわかりやすく説明的にすればするほどもっさりして「オシャレ」から遠くなる。まさにその正反対のことをしているわけです。

③古くならない「テンポの速さ」

そしてもう一つ、よく言われる中平康監督作品の魅力は「スピーディーさ」。これ、実際のセリフまわしの速さからも生まれているそうで、劇中でも役者は皆早口どころか相手にセリフにかぶる勢いでしゃべっています。津川雅彦も「イントネーションも感情もなくなるように」「とにかく台詞を早く言わされた」と回想していたとか。

④ラストシーン(ちょっとネタバレ)

とにかく最後のヨットのシークエンスがすごい。ネタバレしつつストーリーをざっと紹介すると、遊び人の兄、夏久(裕次郎)はウブな弟の春次(津川雅彦)の初恋の女性、恵梨(北原三枝)が米兵の妻だと知ります。夏久も魅力的な恵梨に惹かれ「人妻ってこと弟には黙っててやるから俺とも寝ろ」と迫り、二人は男女の仲に…。夏久と恵梨がヨットで遠出した日、春次は二人が付き合っていることを知ってしまい、ボートで海に出て二人を探します。一晩中ボートを走らせ、執念で二人のヨットを見つける春次。無言のままヨットの周りをボートでぐるぐると回ります。

この空撮がすばらしい。

ヨットの周りを丸く飛沫をあげて回るボート。この緊張感。んで、どうなるかは…さすがに書けない!ぜひお確かめください!

裕次郎の魅力、説明的でない編集、テンポの速さ、伝説的なラストシーン。現代でも古くならない恰好良さを見せてくれる「狂った果実」。兄弟が一人の女性を奪い合うストーリーもまったく古くありません。

また、②と③に関してはこちらの論文を参照させていただきました。興味ある方はぜひご一読を。面白いです。

https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/70562/jjsd72_005.pdf

人生変わった度

★★★

「時代を超えるセンスの良さ」を知る一本

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間違いなくヌーベルバーグに影響を与えたであろう中平康作品をもう一本選ぶなら「月曜日のユカ」。キュートすぎる加賀まりこに悶えよ!!

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