【勝手にしやがれ】感想/死に様とは生き様である。

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勝手にしやがれ [DVD]

不穏度

35(100を満点として)

パリは死の匂い

基本情報

公開年:1960年

監督:ジャン=リュック・ゴダール

脚本:ジャン=リュック・ゴダール

原案:フランソワ・トリュフォー

キャスト:ジャン=ポール・ベルモンド(ミシェル・ポワカール/ラズロ・コバクス)ジーン・セバーグ(パトリシア・フランキーニ)ダニエル・ブーランジェ(ヴィタル刑事)

上映時間:90分

あらすじ

マルセイユで警官を殺してパリに逃げて来た自転車泥棒のミシェル。惚れた女であるジャーナリストの卵、パトリシアの部屋に転がり込む。自由で束縛もない関係の二人、束の間の楽しいひとときを過ごす。しかしパトリシアは彼の居場所を警察に密告する…。

感想

自らの手で瞼を下ろすラストシーン

ゴダールが91歳で亡くなったのは2022年9月13日。安楽死によるものだったという衝撃的なニュースが世界を駆け巡ってから1年が経ちました。そのニュースを聞いた時真っ先に思い浮かべたのが「勝手にしやがれ」のラストシーンです。いきなりラストのネタバラシで恐縮ですが、恋人のパトリシア(ジーン・セバーグ)に密告され、路上で警官に撃たれたお尋ね者のミシェル(ジャン=ポール・ベルモンド)。身を捩りながら走って逃げ(このシーン、「走れるだけ走れ」とゴダールに命じられたのだとか)、最期「最低だ」と言い残し自らの手で瞼を下ろします。なかなかできるもんじゃあありませんよ、死ぬ時に自分で瞼を下ろすなんて。でもこの死に様を描いたゴダール自身が60年後にそれをして亡くなったわけです。自分の生き方を自分で決めてきた人が死に方を選びたいと思うのは当然で、そんな思考を持つ世代が亡くなる時代に突入したんだなあ、と思いましたよ。

さて、話を映画に戻すと、「最低だ」のセリフの後、追いかけてきたパトリシアは警官に「今なんて言ったの?」と聞きます。警官は「(密告をした)君は最低だ、って言ったんだ」。するとパトリシアはカメラを正面から見据えて「『最低』ってなんのこと?」と言い、彼女の顔のアップで映画は終わります。いやあ〜惚れた女に断末魔の言葉を「イミフ〜」と言われちゃうこの虚しさよ。全編を通じて漂うこの虚無感が同作を忘れがたいものにしています。それと観た方は分かると思いますが「最低だ」はパトリシアに対しての言葉ではありません。もうね、何もかもが最低だったんですよ。分かります。

ジャンプカットの衝撃

今さら言うまでもありませんがヌーヴェル・ヴァーグの傑作と言われる同作、初めて観た時にジャンプカットのかっこよさに痺れて、そのドライブシーンばかりを何度も巻き戻して(VHSの時代だ!)観たものです。ジャンプカットとは、カットを割るのだけど次のカットもまったく同じ絵面で、つまり時間だけがジャンプしている、というやつ。今ではYouTuberがカメラに向かってしゃべる動画なんかでもよく使われていますよね。再生時間を少しでも短くするため、普通にしゃべっていれば出る「間」とか「えっと」みたいな時間やセリフをブツブツと切っているのですが、テンポよく淀みなくしゃべれる頭の回転の速い人に見える効果があります。

「勝手にしやがれ」のジャンプカットも、元のフィルムが長すぎたので少しでも短くするのが目的だったとか。セリフの息継ぎのタイミングでプツップツッと切れる時間。言葉のリズムと映像のリズムが重なる高揚感が実に音楽的です。ちなみに原題の「À bout de souffle」は英語で「ブレスレス」。訳すと「息を切らす」。この原題を知るとやっぱりこの息継ぎタイミングのジャンプカットは同作を象徴するシーンに思えます。

意外と濃い?!ジーン・セバーグのメイク

お洒落映画としても語られる同作ですが、パトリシア=ジーン・セバーグの衣装は今見てもとても可愛い。ショートカットの女子学生なんで、なんとなくナチュラルメイクのイメージがありますが、さにあらずアイラインきっちり引いています。目尻でしっかり太くなるあれはアイラインのお手本だと思ってるんですけど、今の感覚とは違うのかな?メイクに詳しい方の感想、ぜひ聞きたいなあ。

残念ながら20234/9/2時点ではアマプラでは観られないようです。いつか観られるようになるかもなんで貼っときます〜。

勝手にしやがれ(字幕版)

勝手にしやがれ(字幕版)

  • ジャン=ポール・ベルモンド
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冒頭、ゴダールの安楽死について書きましたが、「安楽死のある日本」を描いた衝撃作「PLAN75」。こちらもおすすめです。

kyoroko.com

ヌーヴェル・ヴァーグに大きな影響を与えた中平康監督の傑作「狂った果実」レビューはこちら。「勝手にしやがれ」と同じくらい大きな衝撃を受けました。

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