映画ごときで人生は変わらない

映画大好き中年主婦KYOROKOの感想と考察が入り混じるレビュー。うっすらネタバレあり。週1〜2回更新中!

【白鍵と黒鍵の間に】感想と考察(ネタバレほぼなし)/夜の銀座は時空が歪む?!青春ジャズ映画の良作!

 

基本情報

公開年:2023年

監督:冨永昌敬(他作品:南瓜とマヨネーズ)

脚本:冨永昌敬 高橋知由

キャスト:池松壮亮(南/博)仲里依紗(千香子)森田剛(あいつ)クリスタル・ケイ(リサ) 高橋和也(三木)

上映時間:94分

あらすじ

<以下公式サイトより引用>

昭和63年の年の瀬。夜の街・銀座では、ジャズピアニスト志望の博(池松壮亮)が場末のキャバレーでピアノを弾いていた。博はふらりと現れた謎の男(森田剛)にリクエストされて、“あの曲”こと「ゴッドファーザー 愛のテーマ」を演奏するが、その曲が大きな災いを招くとは知る由もなかった。“あの曲”をリクエストしていいのは銀座界隈を牛耳る熊野会長(松尾貴史)だけ、演奏を許されているのも会長お気に入りの敏腕ピアニスト、南(池松壮亮、二役)だけだった。夢を追う博と夢を見失った南。二人の運命はもつれ合い、先輩ピアニストの千香子(仲里依紗)、銀座のクラブバンドを仕切るバンマス・三木(高橋和也)、アメリカ人のジャズ・シンガー、リサ(クリスタル・ケイ)、サックス奏者のK助(松丸契)らを巻き込みながら、予測不可能な“一夜”を迎えることに・・・。

面白かったです!良作だと思います。鑑賞の理由は予告編がフィルム•ノワールっぽい好きな雰囲気だったのと、脚本に「ハッピーアワー」にも名前を連ねる高橋知由さんが入っていたため。ミステリーかと思っていたけどそうではなくファンタジー。誰もが知る青春と人生の痛みがバブル時代の銀座に濃縮されていました。では以下、公開始まったばかりなのでネタバレはほぼなしのざっくり感想です〜。

感想と考察

大胆な脚色が暗示するものとは?!

原作はジャズピアニスト南博さんのエッセイ。東京音大を卒業しバークリーに行くまでの間の「銀座武者修行時代」を描いた同名の一冊だそう。とても面白いとの話なので映画観賞後、その足で本屋さんに直行しましたが残念ながら在庫なし。原作本、パンフレットと一緒に映画館で売ってればいいのに〜っていつも思います。

(2023/12/29追記:Kindleで出ていた!文庫本もAmazonにあります!)

さて、映画はこの原作を大胆に脚色。主人公の池松壮亮がピアニストの南と博を1人2役。いや違うな、同じ人(南博)の役なんだけど「南博が銀座に来たばかりのある夜」と「それから3年後の銀座最後の夜の南博」が時空を超えて一つに繋がっている。「期待に胸を膨らませる初々しい青年」と「夜の街で過ごすうちに汚れちまった青年」を演じ分けているのです。

「汚れちまった南」は何度も自問自答します。「俺はいったい何をやってるんだ?」ジャズの真髄に触れようと夜の街に飛び出したものの、店の客は誰も演奏なんか聞いていない(キャバレーなんで当たり前!)し、ジャズじゃなくて歌謡曲弾けって言われるし、ここでの何より重要な仕事は「ヤクザのボスのご機嫌を取ること」っていう音楽とはまったく関係のないものだし。先輩のバンドマンたちだっておそらく大きな志を持ってこの街に来たのだろうけど、今では見る影もないほどしょぼくれている。夢を持ってどこかに飛び込んだことがある人なら既視感でアイタタタタ〜ってなりそうな風景です。

それでもこの作品が、ありがちな「青春の挫折とそこからの再出発モノ」で終わらないのはやはり捻った脚本にあります。3年前(銀座に来たばかりの頃)→現在→3年前→現在とカットバックで変わるのではなく地続きで時間が戻ったり進んだり交わったり。正直、どっちの時代なんだか良くわからない場面も。いったいなぜこんな不思議な時空操作をしているのか、最後のほうのセリフで納得したのですよ。以下、ワタクシなりの考察。

「俺はいったい何をやってるんだ?」南の問いは「ここから抜け出せさえすればもっと良いところに行けるはず」という意味でもあります。しかし終盤、ある人が言うのです。「人生ずっとそんなだよ」(うろ覚えです!)そう、たぶんそれが南の選んだ人生なんです。夢や志は高ければ高いほど人を満足させることはありません。「俺はこんなところで何をやってるんだ?もっと高みに行かなくては!」とずっとあがき続けるのです。

ループする南の過去と現在、そして未来。大胆な時間軸の操作は、彼の人生がずっとこの焦燥感に囚われ続けることを暗示しているように思います。ジャズという正解のないモノに魅せられた人生は幸か不幸か?あのファンタジックなシーン泣きましたよ、ええ。

「ノンシャラン」の意味とは?

南が尊敬する先生から教わって以来呪文のように唱える「ノンシャラン」という言葉。調べてみたらフランス語で「無頓着でのんきなさま。なげやりなさま。」だとか、なるほど〜。「ノンシャラン」って言葉を意識しているようではまだまだな感じです。南演じる池松壮亮の「硬い感じ」が本物のジャズピアニストになる前の青年に良く似合っています。ちなみに撮影にあたりジャズピアノを猛特訓し、「ゴッドファーザーのテーマ」は実際に池松氏が演奏したものだとか。すごいね!

同作、当然ですが音楽がとても良いのでリッチな気分になれます。それと役者も皆良い!特にバンマスの三木を演じた高橋和也。歯を少し汚してるよね。「夜の仕事が長い感」が出ててすごく良かったです。

人生変わった度

★★★

「ノンシャラン」が似合う人を今から目指すかあ〜

アマプラで観られます!

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