映画ごときで人生は変わらない

映画大好き中年主婦KYOROKOの感想と考察が入り混じるレビュー。うっすらネタバレあり。週1〜2回更新中!

【台風クラブ】感想(ネタバレほぼなし)/30年前には見えなかったモノの正体

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台風クラブ (HDリマスター版) [Blu-ray]

基本情報

公開年:1985年

監督:相米慎二

脚本:加藤祐司

キャスト:三上祐一(三上恭一)紅林茂(清水健)工藤夕貴(高見理恵)大西結花(大町美智子)三浦友和(梅宮安)

上映時間:115分

あらすじ

<以下DVDの「ストーリー」より>

夜の市立中学校のプールに5人の女の子がなだれ込んだ。彼女たちは、先に来ていた同級生の男子生徒に気付き、からかった挙句に溺死寸前まで追い込んでしまう。翌日の授業中、担任教師、梅宮の恋人・順子の母親と叔父たちが、結婚の約束を引き延ばしている梅宮へ直談判するため教室へ飛び込んできた。そして、生徒たちの前で、大金を貢がせたと責められる。授業は続けられなくなり、教室中に動揺が生まれる。台風が近付いて来る土曜日の朝。いつものように恭一は理恵の団地の前で待ち合わせるが、理恵は来ない。授業が始まり、美智子は梅宮に昨日の一件の説明を迫る。そして再び起きる教室中の混乱。放課後。台風が迫る激しい風雨の中、校内に残った生徒たちのドラマが始まる。美智子を執抑に追いかける健。家出したらしい理恵のことを考える恭一。演劇部の部室に閉じこもって帰りそびれた泰子、由美、みどり。台風が彼らの頭上を通過する時刻、饗宴は夜更けまで続くのだった。

2023年10月、4Kレストア版が公開された「台風クラブ」。ユーロスペースでは工藤夕貴さんや黒沢清監督のトークイベントが行われました。行きたいなあと思いつつ足を運べなかったもので、結局アマプラで通常版を観たんすよ。おそらく30年ぶりくらいに。下着姿で「もしも、明日が〜」と歌うあの強烈なシーンしか記憶になくて「ちゃんと観たことないかも?」と思っていましたが、今回観ているうちにその時観た時の感想も含めて思い出しました。当然ながら若い頃に観た時とは違う衝撃を抱いております。

では以下感想と、今回テキスト代わりに見た関係者のインタビュー動画から得た豆知識、誰もが気になる「オカリナ2人組」に関する考察なども少々。

30年前と今との感想

なんじゃこれ?から「わかる!」に変わった理由

17歳の時「ライ麦畑でつかまえて」を読んだのですよ。感想は「なんじゃこれ?」でした。主人公のホールデン(16歳)がわがままで子供っぽく思えてまったく共感できず、イライラ。「これが世界的傑作なのか…。理解できない自分はアホなのか?」と不安になったことを覚えています。その話を友人にしたところ「自分もそう思った」、と言うのでホッと安心。そして「これ、30歳のサリンジャーが少年の気持ちを書いたから、それが凄いって言われているらしいよ」と聞かされハタと膝を打ちました。「そうかあ、大人になってから思春期の気持ちを描くのは難しい。その難しいことを『これこそが思春期の気持ちだ!』って大人が勝手に評価しているだけなんだな」と。つまりあくまで大人が再構築して表現した「思春期」に過ぎないのだなと。

前置きが長くなりましたが、10代の終わりに「台風クラブ」を観た印象も「なんじゃこれ?」でした。台風で気持ちが高揚するのは分かる。夜のプールに忍び込みたくなるのも分かる。男の先生から性の匂いがするのは気持ち悪い。数学の授業は退屈だ。死の尊さを考える。全部分かるけど、彼らがやることなすこと「なんじゃこれ?」だったんですわ。

が、しかし。

50代の今見返したら「思春期ってまさしくこれだったな」となりましてね。子供たちは皆少しずつ逸脱している。この世には「普通の人」なんていませんからそれは当然ですが、大人なら「変人だと思われちゃうから人前では控えよう」と思うような逸脱っぷりです。でも子供だから自覚はない。そんでエネルギーだけはある。そういう人間が狭い教室の中に30人とか押し込められているんですよ。正直、客観的に見るとそれだけで結構怖いです。昔観た時「キモいわあ」と思った梅宮先生(三浦友和)の気持ちも今ならよく分かります。先に自分が狂わないとやってられないでしょ、あんな空間。

そんなわけで思春期をとうに過ぎた今(もしくは身近に思春期の人間がいない今)だから、思春期の子が集まった時のムワッとした感じや、学校という場所の恐ろしさが良くわかります。同作はそのえも言われぬ空気感が真空パックのように閉じ込められているんです。そりゃ評価されるわなあと思った次第。

ちなみに「ライ麦畑」は再読していませんが、今読んだらきっと「16歳の自分そのものだ!」とか言って感動すんだろうなあきっと。

描かれなかった生理と母親の不在

「台風クラブ」といえば「もしも明日が」を思い浮かべる人も多いでしょう。そのくらい強烈な雨の校庭シーン。台風の中、白い下着姿で踊り狂う男女の生徒たちを引きで延々と捉えています。

30年前にこのシーンを観た時に思ったことの一つが「女の子4人いるんだから1人くらい生理中で「あたしスカート脱げないの…」って子はおらんかったんかい?というしょうもないものでした。冒頭のプールシーンも然り。仲良しの女の子いっぱいいて全員水着なんや…って思っちゃったし、劇中生徒を演じた子供たちはほぼ素人だったそうですんで実際の撮影時も大丈夫だったんかな?といういらん心配をしてしまいました。そして30年後の再見時もまったく同じことを考えたのです。そんなことを考えるのも相手が女子中学生だから。思春期女子を描くのなら生々しくて良い素材なんじゃないか?と思える生理の話題を描いていないのは、当時の映画界が男社会過ぎて誰も気が付かなかったのか?それともあえて避けたのか?ちょっと気になるところです。

そして当時思ったことのもう一つが「こいつらの親、どこ行った?」です。んで今回改めて観て思ったのは親は「思春期の子供たちには目に入らない存在」だからあえて登場しないんだな、ということと、意図的な「母親の不在」です。一人で延々「ただいま」「お帰りなさい」を繰り返すヤバい少年、あの「お帰りなさい」は母親に成り代わって言ってますよね。少年の家に母親はいないようです。そして理恵(工藤夕貴)の母親への思慕を表現した艶かしいシーンもありました。

思春期の子供にとって邪魔でうざい存在。でもいないと猛烈に不安…。画面には登場しないのに確かに映画の中に存在する「親」、とくに「母親」。不在の存在を感じるとでも言うのでしょうか?いや改めて凄いなこの映画…。

梅宮先生は三浦友和じゃなく〇〇だった?!制作秘話

「台風クラブ」は時代を超えて語り継がれる名作ですから、相米慎二監督亡き後も関係者から様々な「秘話」が語られています。以下、三浦友和氏と助監督だった榎戸耕史氏のインタビュー動画から「へえ〜」と思ったところを抜粋。

梅宮先生は糸井重里だったかも知れない

それまで「清く正しく美しい」役ばかりだった三浦友和氏が演じたぶっ壊れキャラ「梅宮先生」。三浦氏も「キャリアの上で重要な作品」と言っています。と同時に「送られてきた脚本を読んだ時にまったく分からなかったし、とうてい自分じゃないだろうと思って断ろうと思った」とも。

さて、実はこの役柄、当初はコピーライターで当時CMなどにも出演していた糸井重里氏にオファーしたんだとか。糸井版「梅宮先生」。うーん、想像つくようなつかないような…。多忙を理由に断られたそうですが、きっと三浦友和で良かったんだろうな。今でも鮮烈だもの。

飛び降りの真相

ネタバレになっちゃいますが、最後の三上の飛び降り。30年前に観た時は死んでないと思いましたよ。だって水溜りの校庭で「犬神家」になってんですよ?笑うとこですよね?!でも今回観て「ストーリーの流れからしたら死なないとだめだよな」と思い調べてみたら、やはり脚本上は死んだってことになっているそう。

話は飛びますが今ではレジャーになっているバンジージャンプ、元はバヌアツの部族に伝わる「少年から大人になるための」儀式だったそうです。飛び降りることで少年を一度殺し大人に生まれ変わるのです。このシーンの前、三上は「お前も15年後には俺みたいになるんだよ」と言う梅宮先生に対し、「あなたのようにはならない」と啖呵を切ります。大人になることを拒絶し命綱を付けずに飛んだのでしょう。

でも監督はインタビューで「(三上の生死は)どっちでもいい」と言ってるんですよね。まあそりゃそうですわ。観る人の好きでいいと思います。

真っ暗なのは自然光を使っているから

この映画、冒頭のプールのシーンから真っ暗です。夜の学校も真っ暗。なんかホラーじみてて、それもまた思春期っぽくて良い。相米監督はなるべく自然光を使う主義なんで、このような光量になったのだとか。ただ今回の4Kレストアで少しは明るくなったとのこと。随分印象が違ってくるかも知れませんね。

意味がわからない!オカリナ2人組の考察

あまりにも分からな過ぎて書くかどうか迷ったのですが…昔も今もさっぱり意味のわからないシーンがこれ。東京に家出した理恵が台風の商店街で出会う白塗りのオカリナ2人組です。…って今書いててもほんと意味わからんな。これシナリオにはなかったそうです。

以下、分からないなりに考えた勝手な考察になります。

思春期は心霊現象を引き起こすとも言われています。遠く離れた同級生たちが歌っているのと同じ「もしも明日が」を共鳴するように奏でるオカリナ吹き。スプーンを曲げようとしていたオカルト好きな理恵ですから、このオカリナ2人組は彼女の幻視かも知れません。だとしたら何の象徴なのか…?理恵の彷徨う場所の位置関係がいまいちよく分からないのですが、オカリナ2人組は理恵をとうせんぼしているようにも見えます。現に彼らに会った理恵は商店街を引き返す。もしこのまま進んでいたら理恵は東京から無事に帰ってこれなかったかも…なんて考えてしまいます。思春期は大人と子供の境界。境界とは常に魔物が潜む場所でもあります。その恐ろしい場所を乗り越えられる者とそうでない者。月曜日、台風一過の青い空の下、地元に帰ってきた理恵は「乗り越えられた者」なのです。オカリナ2人組は守護霊のようなものだったのかも?と思います。

長くなってしまいましたが、改めて色々考えさせられた作品でした。いやあ、映画って本当に面白いですね〜。

人生変わった度

★★★★

思春期は遠くに過ぎて想うもの

 

「台風クラブ」4Kレストア版についての公式サイト貼っておきます〜。

apeople.world

ワタシはこちらアマプラ配信で観ました。(アマゾンプライム会員特典です)真っ暗でざらっとしていて、これはこれで味がある!

台風クラブ

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