エクソシスト ディレクターズカット版 & オリジナル劇場版(2枚組) [Blu-ray]
不穏度
80(100を満点として)
ショッキング系と思いきや、じっとりした心理ホラー。じわじわ怖い。
基本情報
公開年:1974年
監督:ウィリアム・フリードキン
脚本:ウィリアム・ピーター・ブラッティ
キャスト:リンダ・ブレア(リーガン・マクニール) エレン・バースティン(クリス・マクニール) ジェイソン・ミラー(デミアン・カラス神父) マックス・フォン・シドー(ランカスター・メリン神父)
上映時間:122分
あらすじ
12歳の少女、リーガンの様子がおかしい。不安を抱いた女優の母親クリスは病院にリーガンを連れていき様々な検査を受けさせるが原因は不明。藁にもすがる気持ちで精神科医でもあるデミアン・カラス神父に悪魔祓いを依頼する。そのデミアン神父もまた苦しい胸のうちを抱えていた…。
再び注目!ホラー映画の金字塔
ラッセル・クロウ神父がランブレッタ(イタリアの原付)で疾走する話題の作品「ヴァチカンのエクソシスト」が早くも配信になっています。レンタル料1500円と高額ですが…(追記:2024/5/7現在、アマプラ会員特典で観られます!)
そして今ならコンプライアンス違反で一発退場のハラスメント野郎ウィリアム・フリードキン監督が先日亡くなったこともあり、再び注目が集まっている元祖「エクソシスト」(1974年日本公開)。遠い昔観たんですけどなにしろ女の子の首が180度ギギギと回るわ、緑色のゲボをドバッと吐くわ…等々のショッキングシーンがインパクト強すぎてそこしか覚えておらず、どんな話だったっけ…?となりまして。ホラー作品ながらもアカデミー作品賞にノミネートされた古典的名作ですからもう一度観てもいいかな、とアマプラを探したらありました。
いや〜驚きました!こんな話だったっけ?!さすがに50年前の作品なのでショッキングなシーンは今見るとさほど怖くない。でも昔観た時は気づかなかったサイコな恐ろしさが満載でした。かつ、想像以上に鬱な気分になりましたわい…。では詳しいあらすじ(ネタバレ注意!)交えつつ、一体どこが怖かったのか?の感想です。
あらすじと感想
意外に長い前振り
オープニングはイラン。遺跡で神父さまが発掘作業をしています。すると悪魔の石像らしきものを見つける。この神父はのちに悪魔祓いをするメリン。どうも意味がよく分からないシークエンスですがけっこう長くて10分程度あります。
所変わってアメリカはジョージタウン。女優らしき人が映画の撮影をしています。この女性はのちに悪魔に取り憑かれる少女リーガンの母親クリス。この家庭の生活ぶりが描かれます。忙しい母親に変わり使用人が3人いる金持ち。シングルマザーです。
そしてクリスの近所の教会に勤める精神科医兼神父のデミアン。デミアンにはNYに残してきた脚の悪い母親がおり、母のことは心配だし、自身の仕事にも悩んでおり苦悩の日々を送っています。
ここまでが映画の1/3くらい。そうなんです。例の恐怖シーンのインパクトが強くて「女の子が悪魔にずっと憑かれている映画」だと思っていましたが、そこに至るまでの登場人物の紹介でかなりの時間を費やしているのです。
悪魔だけが悪いのか?!
そしていよいよリーガン少女が「ベッドが揺れるから眠れない」と言い出したり、パーティーの席で突然お漏らしをしたりと不穏な雰囲気を出し始めます。母親のクリスはリーガンを病院に連れていきますが、たらい回しにされたあげく「悪魔祓いをするしかないのでは」と言われてしまいます。リーガンの症状はますます悪化。暴言を吐き緑のゲボを吐き顔は傷だらけ。あげく彼女の部屋から飛び降りた男性が不慮の死を遂げます。
クリスはデミアン神父に悪魔祓いを頼みますが、断るデミアン。「悪魔祓い」はとうの昔に絶えた方法でやり方が分からない上、私的な悩みも抱えている。簡単にはできない、教会の許可が必要という部分にリアリティがあります。
しかし結局デミアンは教会を通して悪魔祓いに通じている老神父メリン(冒頭で発掘していた人)とともに悪魔祓いに挑むことに。
ちなみに、悪魔に取り憑かれたリーガンの恐ろしいシーンが続きますが、ワタシがアマプラで観たバージョンでは例の「ブリッジで階段を降りてくる」シーンがありませんでした。実はあのシーンはつながりが悪いということで劇場公開版ではカットされていたのです。後に発売されたディレクターズカット版には入っているとか。
また、リーガンが恐ろしく変貌した理由なんですけど、正直ワタシは「あんな悪環境にいたらそりゃあ気も触れるだろうて」と思ってしまいました。思春期の少年少女がいる家にポルターガイスト現象が起きやすい…という今ではよく知られている話が50年前どこまでメジャーだったかは不明ですが、リーガンを取り巻く環境はあまり良くは見えません。母親が売れっ子女優なので家にいない。いる時は猫可愛がりされていますが。その母親は離婚した父親に電話でヒステリックに怒鳴っている。夜は階下で映画関係者が騒がしくパーティー。リーガンを観た医師が「家に麻薬はありませんか?」と母親に聞くシーンがあります。母親即座に否定しますが、そうかな〜?あってもおかしくないぞ?と思ってしまいました。そして母親には再婚相手候補がいます。ソイツがロクでもない男。パーティーで酔っ払い、使用人の中年男性カールに(名前からしてドイツ系でしょう)「お前ナチだろう」としつこく絡み、怒ったカールに掴みかかられます。本編と全く関係のないこのシーンですが、ワタシは全編の中でここが一番怖かったです。このシーンまでずっと物静かで何を考えているか分からないカールも不気味だし、人をナチと決めつける男が母親の恋人なんてゾッとします。リーガンは「ママが好きなら結婚しなよ」なんて言いますが、本当は嫌なんでしょう。リーガンの部屋から飛び降りて首の骨を折って死んだ男はこの再婚相手候補です。
そして並行して描かれるデミアン神父の苦悩。脚が悪く寂しがる母親を一人NYに残し、仕事でジョージタウンに来ています。その母親は精神を病み孤独死。デミアンは自分が母親を殺した、と苦悩します。デミアンが母親と離れなくてはならなかった「仕事」とは教会の仕事ですから、宗教って何かね?と思ってしまいます。デミアンも「信仰が揺らいでいる」とつぶやくのです。母親のいた精神病院のシーン、デミアンの悪夢も怖いです。
クライマックスでまさかの…!
そしてやってきた悪魔祓いの日。クライマックスです。十字架と聖水で悪魔に対峙するメリン&デミアン神父。「お前が母親を殺した!」とデミアン神父をゆさぶる悪魔。「悪魔の言うことは聞いてはならん!」とメリン神父。緑のゲボも大量発射です。しかし心臓の悪いメリン神父、途中で発作を起こして亡くなってしまいます。デミアンは最終手段として自分に悪魔を乗り移らせて窓から飛び降り、悪魔もろとも亡くなります。
げげっ!神父2人とも死ぬんか〜い…。悪魔の完全勝利やんけ…。一気に鬱な気分になりましたよ。特に何も良いことのなかったデミアン神父が気の毒で…。主役はデミアン神父だったんですよね。親の面倒と仕事の板挟みなんて今にも通じる悩みですし。どんなに手を尽くしても親が亡くなって後悔のない人はいないと思います。そこを教会は救ってくれず、悪魔に付け込まれたのですよ。その気の毒な主役を殺すとは…。
それと最後に元の可愛い女の子に戻ったリーガンですが、忙しい母親と2人暮らしで昼間家にいるのは使用人、夜はホームパーティーという環境は変わらないんでしょ?悪魔が付け入る隙はまだありそうという暗い余韻を残します。
最後に
というわけでショッキングなシーンよりもデミアン神父の心の闇とかリーガン本人も気付いていない心の隙間とか、そんなものにうすら寒い気分になるサイコスリラーでした。
ところがところが。「悪魔の完全勝利」見える終わり方ですが、脚本家は真逆の「教会の勝利」を意図していたのだそう。のちに発売のDVDにはエンディングに和やかなシーンを加え「教会が勝ったんだよ!」を強調しているのだとか。でも製作側が意図せず観客が感じてしまった「なんとも嫌な後味」がこの作品を後世に残る傑作にしたような気がします。映画って本当に面白いですね〜。
アマプラ会員特典(無料)で観られます〜
〜2024/1/11追記:「ヴァチカンのエクソシスト」の感想アップしました!〜