映画ごときで人生は変わらない

感想と考察が入り混じる映画レビューブログ。うっすらネタバレあり。週2〜3回更新中!

【福田村事件】感想/映画として面白い!見る価値アリの一本です!

 

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基本情報

公開年:2023年

監督:森達也

脚本:佐伯俊道  井上淳一  荒井晴彦

キャスト:井浦新(澤田智一)田中麗奈(澤田静子)永山瑛太(沼部新助)柄本明(井草貞次)ピエール瀧(砂田伸次朗)水道橋博士(長谷川秀吉)東出昌大(田中倉蔵)コムアイ(島村咲江)

上映時間:137分

あらすじ

<以下公式サイト「物語」より引用>

大正デモクラシーの喧騒の裏で、マスコミは、政府の失政を隠すようにこぞって「…いずれは社会主義者か鮮人か、はたまた不逞の輩の仕業か」と世論を煽り、市民の不安と恐怖は徐々に高まっていた。そんな中、朝鮮で日本軍による虐殺事件を目撃した澤田智一(井浦新)は、妻の静子(田中麗奈)を連れ、智一が教師をしていた日本統治下の京城を離れ、故郷の福田村に帰ってきた。同じ頃、沼部新助(永山瑛太)率いる薬売りの行商団は、関東地方へ向かうため四国の讃岐を出発する。長閑な日々を打ち破るかのように、9月1日、空前絶後の揺れが関東地方を襲った。木々は倒れ、家は倒壊し、そして大火災が発生して無辜なる多くの人々が命を失った。そんな中でいつしか流言飛語が飛び交い、瞬く間にそれは関東近縁の町や村に伝わっていった。2日には東京府下に戒厳令が施行され、3日には神奈川に、4日には福田村がある千葉にも拡大され、多くの人々は大混乱に陥った。福田村にも避難民から「朝鮮人が集団で襲ってくる」「朝鮮人が略奪や放火をした」との情報がもたらされ、疑心暗鬼に陥り、人々は恐怖に浮足立つ。地元の新聞社は、情報の真偽を確かめるために躍起となるが、その実体は杳としてつかめないでいた。震災後の混乱に乗じて、亀戸署では、社会主義者への弾圧が、秘かに行われていた。そして9月6日、偶然と不安、恐怖が折り重なり、後に歴史に葬られることとなる大事件が起きる―。

いや〜、恥ずかしながら今作で話題になるまでこういった事件があったことを知りませんでして。観てきましたよ、ドキュメンタリーの名手森達也監督が撮った初の劇映画「福田村事件」。今やワタシのホームシアターとなっている田舎のイオンシネマ、平日にも関わらず入りはまあまあよく、客層は高齢男性8割、残り2割が高齢女性(ワタシ含む)。

なにしろ題材が重いですから感想は「考えさせられました」が正解なんでしょうが、ワタシ的な感想は「とても面白かった!」です。テーマ、主張は置いといたとしても映画としてちゃんと面白かった。

森達也監督は番組制作会社時代にフジテレビ枠で撮ったノンフィクションをすごいなと思った記憶があります。社会的意義がありながらも、ちゃんと視聴者の興味をそそる下世話さがある企画。この監督、左翼的、説教系と思われがちですが、話題性や大衆性、下世話さを外さずとても上手に企画を立てる人だと思います。今回の作品においては「関東大震災100年目」に公開日を合わせてきたこと、そして豪華なキャスティングに話題性、エンタメ性を意識したことがわかります。上手いです。だって、出っくんこと東出昌大が間男役っすよ!?

テーマや実際の事件についてはどこかでちゃんとした人がちゃんと語っていると思いますんで、ここでは「映画として」一体どこが面白かったのか紹介してみます〜。

※実際にあった「福田村事件」については知りたい方はこのあたりを入り口にしてみるのがよろしいかと思います〜。

www.nhk.or.jp

感想

じわじわ来る絶妙なキャスティング

前述したとおり、東出昌大が間男役です。えっと、間男役なんて言い方はないな。村の境界線に利根川があるんですけど、そこで渡しの船頭をしている男、倉蔵の役。農業と醤油作り(福田村は今の野田市です)に携わる仕事をする者がほとんどの村の中で、川っペリの小屋に住み船頭を生業にしている倉蔵はアウトローなんですわ。んでこういう男の人を好きな女性って一定数いるじゃあないですか。モテるんですよ倉蔵。亭主が戦争に行っている間にその奥さんとデキちゃう。うん、仕方ないよねアウトローだし出っくんだもの。

んでその相手の奥さん役がコムアイさんで、この方が演技しているは初めて見ましたがとても良かったですよ。顔も体つきもどしっと存在感があってして農村の女性に見えます。

それから在郷軍人会の分会長に水道橋博士。戦争でもないのに軍服を着て威張るのが大好きな小男です。

地元新聞社のデスク役にピエール瀧。昔はジャーナリストとして理想を掲げていたけど今では長いものにぐるぐる巻きにされ、若い記者に突き上げられている。

村長は豊原功補。大きな醤油屋の息子でボンボン。デモクラシーにかぶれたインテリですが、最後は弱さを見せてしまう。

事件の被害者となる香川県からやってきた15人の薬売り一行の親分に瑛太。この集団は被差部落の人々です。自分よりさらに身分の低い人をいじめたがる昔気質の兄さんもいれば、水平社宣言(この事件の前年に出された)を空で暗誦できる子供もいる。そのようなバラバラな人々をまとめる頼れる親分です。

どうです?なんかじわじわくる絶妙さじゃあないですか?この豪華キャスティング!このメンツを揃えられただけでもう安パイって感じです。

丹念に描かれる「加害者の日常」

映画は福田村で過ごす人々の日常が描かれます。のちに加害者となる人々ですが、馬を大切に世話する爺さま、のんびりした村長、そこかしこに残る戦争の爪痕、姦通騒動(東出くんと人妻のコムアイ、他にもあり)、寄り合いでの噂話やらなにやら。どこにでもありそうな田舎の村です。加害者はサイコパスでもなければ「異端の人」でもない。一人一人が喜びと悲しみを抱えるごく普通の人々なのです。

この「村の日々」を飽きさせず面白く見せてくれるんですよ。一人一人のバックボーンや生活ぶりが描かれるので、いざ事件が起きた時になぜこの人がこういう行動をとったかの整合性がとれます。いや、とれすぎ。この作品の弱点をあげるとしたらこの「整合性がとれすぎ」なところかも知れません。行動の理由がわかりすぎるのです。「なんでこんなことをしたのか分からない」というのもまた人間ですんでね。

川が象徴するもの

当たり前ですけど映画として面白いというのは映像表現として面白いものがある、ということです。ワタシはこの作品「川」の使い方が良いなあ〜と思いましたよ。出てくるのは利根川です。そこそこの幅がありゆったりと水が流れている。地震の時は波打ったとのことですが、川周辺の被害は描かれません。

その川を日がな一日見て過ごす船頭の倉蔵は前述のとおりアウトロー。村の因習にも一般的なモラルにも囚われない男です。

村に馴染めない静子(田中麗奈)は「ここではないどこか」に行こうと、川を行ったり来たり。ネタバレになるので触れませんが、川の上であることが起こります。それもまた世間一般から見たらインモラルなことです。

村の一部の人たちは殺害を止めようとしますが、彼らは総じてこの川に近しい人たちだったように思います。暴走し恐怖の奴隷と化す集団の中で自分を貫くことができた彼らが見ていた川の向こうには何があったのでしょう?差別のないユートピアでしょうか?単に「この村よりマシなところ」かも知れません。なんにせよ、向こう岸は夢見る者だけがたどり着ける場所なのです。差別から逃れようとしていた薬売りの一群がこの川を渡ることができなかったのも悲しい。

っつう感じで何度も出てくる川が映画としていいなあと思ったのでした。公式サイトのトップページにも川のスチールが使われています。

人生変わった度

★★

利根川、見に行きたい

公式サイト置いときます!

www.fukudamura1923.jp

こちらは韓国の実話。実際にあった事件の映画化「殺人の追憶」。「パラサイト」でアカデミー作品賞受賞のポン・ジュノ監督の名作です。当ブログの人気記事の一つ。(胸糞注意!)

kyoroko.com

アマゾンプライム会員特典(無料)で観られる森達也監督ドキュメンタリー置いておきます。代表作「A」はオウム真理教を扱ったもの。地下鉄サリン事件以降、社会がオウムをどう扱ったかを内側から描いています。公開当時観られなくて、本を読みました。それで満足してしまって観てないのです。森監督の立ち位置はわかるけど、もろ手を挙げて賛成はできない。多くを問いかけてくるテーマです。

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こちらがノベライズ【「A」マスコミが報道しなかったオウムの素顔】です