映画ごときで人生は変わらない

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「脚色」のことを考えてみた【映画周辺の雑記】

さて今回は「脚色」について考えてみたことと思い出した映画のことをつらつらと。

そもそも「脚色」とは何か?

デジタル大辞林によれば

1 小説や事件などを舞台・映画・放送で上演できるように脚本にすること。「自伝を脚色したテレビドラマ」

2 事実をおもしろく伝えるために粉飾を加えること。「話に多少脚色した部分もある」

…とあります。英語でいえば「アダプテーション」です。今回取り上げるのは1のこと。“舞台・映画・放送で上演できるように“どんな原作も脚色が必要です。例えば小説で「エツコはニッコリ笑って『いいわ』と言った。しかし頭の中では『いいわけないだろチクショーが!』と思っていた」という一文があったとします。これを映像にする場合。一つは俳優にニッコリ「いいわ」と言わせ、別撮りでモノローグ(独り言のナレーション)で「いいわけないだろチクショーが!」と続けて被せる、という方法がありますね。コメディなら画面二分割してニッコリと憤怒の表情を2枚見せるかもしれません。シリアスドラマならニッコリ「いいわ」のあとに、相手のカバンを密かに蹴飛ばすなどの行動を加え「ほんとはよくない」心中を伝えるというのもあり。簡単に言えば「目で見て伝わらないこと」を「伝えるように変える」ことなのではないかと。その方法はいくつもありますが、観た人が「原作と同じ!」と思うか「原作と全然違うじゃん!」と思うかは、原作の雰囲気(コメディ調なのか?シリアス調なのか?)どおりなのか?「エツコ」というキャラクターがぶれていないか?などなど全体のことなんで、なんとも難しい。細部は全く異なるけど芯は同じとかあるもんね。観客としては「別物」と思って観るのが正解かと思います。

映画「アダプテーション」

実はこのままの「アダプテーション」というタイトルの映画があります。(残念ながら2024/2/13現在配信していない様子)2003年の作品で監督はスパイク・ジョーンズ、脚本はチャーリー・カウフマンという、「マルコヴィッチの穴」の奇才コンビです。この作品も「マルコヴィッチの穴」に負けず劣らずヘンテコな作品でして。

主人公は脚本家の「チャーリー・カウフマン」とその双子の弟。ニコラス・ケイジが一人2役を演じます。そのチャーリーに、『蘭に魅せられた男 驚くべき蘭コレクターの世界』というノンフィクションの脚色の仕事が舞い込むみます。何ヶ月も悶え苦しみ、何も書けない。エージェントからは矢の催促。チャーリーが吐く愚痴にまさに「脚色の苦しさ」が詰まっています。

原作にクレジットされているのはまさかの『蘭に魅せられた男 驚くべき蘭コレクターの世界』。でも1ミリくらいしかこの本の内容に触れてなかったと思います。これ「気鋭の奇才脚本家・カウフマン」という肩書きがあったから許されたんではないでしょうか?

映画は大変面白く、なぜか最後ちょっと泣いちゃいました。ちなみに原作者のスーザン・オーリアンをメリル・ストリープがとても楽しそうにふざけながら演じています。興味のある方はぜひ!

スティーブン・キングと脚色

さて、映画の原作といえばスティーブン・キング。(実は読んだことないんですが)「シャイニング」の改変へのブチ切れ具合はつとに有名ですが、自作の映画化で一番好きなのは「スタンド・バイ・ミー」だそうな。

eiga.com

話は変わりますがはじめて司馬遼太郎の小説を読んだ時、「なにこれ、ト書きじゃん!」と驚いたことを覚えています。ト書きというのはシナリオでセリフ以外の状況説明のこと。「柳の木の下 浪人風の男が2人」とかね。小説なのに映像がパアッと鮮やかに頭に浮かんできて、カメラ割りまで想像できます。そのため司馬遼太郎作品も映像化多いですよね。キングの小説もそうなのではないかと。読んだことないのにアレですが。

ちなみにあの胸糞映画「ミスト」のラストは原作とは異なりますが、この改変をキングは絶賛、「このラストが思いついてたらそうしたよ!」と言ったとの逸話も有名ですが、このエピソードの出典が不明で、本当かどうか怪しいです。

ミスト(字幕版)

ミスト(字幕版)

  • トーマス・ジェーン
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アカデミー脚色賞

アカデミー賞には「脚本賞」とは別に「脚色賞」があります。脚本は原作なし、脚色は原作ありの賞。

最近の受賞作だと「ウーマン・トーキング」「コーダ あいのうた」「ファーザー」など。過去受賞作をつらつら眺めていたところで気になったのは2016「マネー・ショート 華麗なる大逆転」。原作は「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」です。

(※話が難しいので吹替版で観た方がよいかも!)

これはノンフィクションで、リーマン・ブラザーズ破綻の際、逆張りをして大儲けしたウォール街の相場師たちの話。いや、この難しい話をよく映像化したな、と。株を知らない人には聞き慣れない単語がポンポン出てきてさらに展開も早く「ついていけねえ〜」って感じなんですが、なぜだか面白い。後半ふいっと、ブラッド・ピット演じる「伝説の相場師」が「第四の壁」を破って突然観客に話しかけてくるんですが、その言葉もタイミングもとても効いている。ワタシはこれを観て株の勉強をはじめましたよ。ちなみに原作者のマイケル・ルイスは「マネー・ボール」の原作者でもあり、「数字に強いノンフィクションライター」のようです。「マネー・ボール」も面白かったですが、「マネー・ショート」とは脚本家も監督も異なります。

(※「マネー・ボール」レビューはこちら)

kyoroko.com

そしてもう一つ2011年の脚色賞「ソーシャル・ネットワーク」も面白かった!原作はベン・メズリックの著書『facebook 世界最大のSNSでビル・ゲイツに迫る男』だそうで。

生きている間に伝記的なものを書かれ、あまり印象良くなく映画化され、でも「うん、まあいいんじゃない」と語ったと言われるザッカーバーグ。全てをエンタメで飲み込むザ・アメリカ!って感じです。

脚本をそのままやると3時間超えになってしまうとのことで、全員がすごい早口でセリフをしゃべっています。それがオタク世界っぽくてとても良い。会社が儲かり浮かれるパリピ社員たちと花火を見るのですが、彼(ザッカーバーグ)だけがガラス一枚隔てた静寂の中にいます。天才の孤独を表現したこのシーンがとても好きです。

ソーシャル・ネットワーク

ソーシャル・ネットワーク

  • ジェシー・アイゼンバーグ
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なんだか思った以上に長くなっちゃいましたが、原作ありの面白い作品、ぜひどうぞ〜。

 

最後になりましたが、原作と脚色の関係といえば痛ましい結果を招いた「セクシー田中さん」を巡る問題。原作者の芦原妃名子先生のご冥福をお祈りいたします。ずっとニュースを追っていたわけではないので言及は控えますが、構造的な問題については元テレ東の方が書いた下記の記事に多いに頷きました。

president.jp