【ロブスター】ネタバレ感想と解釈/それでもあなたは人間でいたいですか?

 

不穏度

85(100を満点として)

とにかく不穏な雰囲気作りがうまいヨルゴス・ランティモス監督作品。音楽の不協和音が良い仕事をしています。

基本情報

公開年:2015年

監督:ヨルゴス・ランティモス(他監督作品:哀れなるものたち)

脚本:ヨルゴス・ランティモス エフティミス・フィリップ

キャスト:コリン・ファレル(デヴィッド)レイチェル・ワイズ(近視の女)レア・セドゥ(独身者たちのリーダー)ベン・ウィショー(足の悪い男)

上映時間:118分

あらすじ

<以下アマゾンプライムビデオ紹介文より引用>

ここでは、45日以内にパートナーを見つけなければ、あなたは動物に変えられます--。“独身者”は、身柄を確保されホテルに送られる。そこで45日以内にパートナーを見つけなければ、自ら選んだ動物に変えられ、森に放たれる。独り身になったデヴィッド(コリン・ファレル)もホテルに送られ、パートナーを探すことになる。しかしそこには狂気の日常が潜んでいた。しばらくするとデヴィッドは“独身者”が暮らす森へと逃げ出す。そこで彼は恋に落ちるが…。

アカデミー作品賞候補となった「哀れなるものたち」や不穏すぎて面白かった「聖なる鹿殺し」(どちらもレビューは下に貼っておきます!)のヨルゴス・ランティモス監督作品です。どうやらコメディらしいんですがブラック要素が強すぎて「いやいや、ここで笑えってか?!」と引きつるばかりで一瞬も笑えませんでしたよ!難解。話がキテレツすぎ。でも牛のごとく後から何度でも反芻できる面白さ!どうにも腑に落ちる解釈がしがたく数日寝かせてしまったのですが、抱えていても仕方ないので思ったことをつらつらと。

感想(ラストの解釈あり)

物語を解体してみたら?

「あらすじ」を読んでもらえれば分かりますが、あまりに素っ頓狂な話です。パートナーを見つけなくては動物に変えられてしまう世界。パートナーは同性でも可なので、生殖させることがこの世界の目的ではなく「恋愛をしない人間は人間ではない」という世界のお話のようです。

この時点で振り落とされそうになるので、一度装飾を振り解き、構造だけで物語を追ってみました。

「とあるルールのある世界」に生きる主人公。このルールは観客からすれば非常識極まりないものですが、まあそれは関係ない。主人公は何の疑問もなくレールに乗って生きています。しかしある時この社会のルールから外れてしまう。「このルールはオカシイ!」と革命を起こそうとするグループと合流。(多くの社会にこういった人たちはいますよね?)でもそのグループには「正しい社会」とは真逆のルールがある。主人公はまたしてもルールに縛られることになる。ここにも自分の居場所はないと知り、どちらの枠からも外れた生き方を選択する。つまりそれは「人間であること」を止めることだった…。

というのが大きな流れになると思います。ラストの解釈は分かれますが、この主人公の性格からしたら「ロブスターとして生きることを選んだ」が正解じゃあないかなあ?

※もし人間でなくなったらどの生き物になりたいか?は自分で選べます。多くの人は犬を選ぶそうですが、主人公が選んだのはロブスターでした

「人間でなくなること」にさほど抵抗のある世界ではなさそうだし。社会のルールに適応しようとしてみた→出来なかったので反対の社会にいった→そこのルールにも適応できなかった という流れから考えたら「この社会の外側」に行くのが自然というか、せめてもの救いです。

こう考えると「人間は社会的生き物なので社会のルールを守れない人間はどこにも居場所がない。たとえそのルールが間違っていたとしても。」という、悲しいけど真実よね…って話なんだな、と納得できます。

恋愛の先に結婚があるのか?!

が、実際のストーリーは「とあるルール」というのが「恋愛をしなければ動物に変えられてしまう」というキテレツなものなので何だかややこしい。「恋愛をしなくてはならない」のか「(気持ちは別として)パートナーがいなくてはならない」のか、フワッとさせている所もモヤモヤするんですよね。この「そこ問い詰められるとアレだから」というフワッとした感じは多くの既婚者と変わらんわけですが。

ちと思い出した自分語りで恐縮ですが、既婚者のワタシ、とある知人のパーティーに一人で出かけたんですよ。その人と夫面識ないし。そしたら「こういう場所はパートナーと来るもんだよ?ちやほやされたくて(独身に見られたくて)一人で来たの?」と言われ「はあ?!欧米か!」とムッとして、その方と疎遠になってしまったことがあります。世の常識がどうかは知りませんが、付き合いで出席したのに酷い言い草やわあ〜と思った次第。

この「ロブスター」の世界でもお出かけはパートナーと一緒じゃないとダメなんですよ。どこに行くのも一緒。だから「愛」がないとやっていけないってことで「恋愛」が必要らしい。何か書いててうんざりしてきたな…。

さすがに日本も少し前の「恋愛至上主義」的なところから脱却しつつあると思いますが、恋愛を美しいもの、最上のものと捉える感覚ってとても動物的だと思うんです。生殖に適した年齢は外見的にも最も美しくなる時期です。その時期に経験するあれやこれやはそりゃあいい思い出になるでしょう。でもそこを頂点にすると長い人生ツライ。人間的であるということは本来、恋愛以外の楽しみを見つけることなんですが、同作の世界では逆になっている。つまり人間が動物に近づいているわけです。だから別の生き物になることにもさほど抵抗はない。このあたり、上手いなあ〜と思います。

共感を拒絶する孤高さ

このストーリーをさらに奇妙なものにしているのが「恋の落ち方」。相手に自分と同じところを見つけると人は恋に落ちます。これは分かりますよね。しかし「ロブスター」の中ではあまりに極端。足が悪い人は足の悪い人と恋に落ち、鼻血が出やすい人は鼻血が出やすい人と恋に落ちる。ってかそういう「共通点」がないと恋に落ちない、落ちてはいけないルールがあるらしい。「共通点」「共感」「共有」。美しいですね。群れで生きる動物になくてはならない感覚です。でも作品の中の「共感」「共有」っぷりはあまりにもグロテクスで観客はいっさい「共感」できません。傷を舐めあうヌルい感覚をぶった切ってきます。素晴らしいです、全く!

主人公のデヴィッドは、優しい所はあるものの共感力少なめの自己中心的な人間。つまり、どこにでもいるごく普通の人です。彼の安息の地はもはや人間界にはなかったのでしょう。エンドロールで流れる波の音は、ロブスターとしてやっとルールに縛られない世界に辿り着けた彼が聴く楽園の音楽だと思いたい。

 

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ロブスター(字幕版)

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ヨルゴス・ランティモス監督のキテレツ世界を理解するにはギリシャ神話を知らなくては!と読み始めましたが序文から面白すぎてギリシャに辿り着けない!

ヨルゴス・ランティモス監督作品「哀れなるものたち」「聖なる鹿殺し」レビューはこちら!

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