映画ごときで人生は変わらない

映画大好き中年主婦KYOROKOの感想と考察が入り混じるレビュー。うっすらネタバレあり。週1〜2回更新中!

【もらとりあむタマ子】感想/前田敦子という女優のこと


もらとりあむタマ子 [Blu-ray]

基本情報

公開:2013年

監督:山下敦弘(他監督作品:マイ・バック・ページ 苦役列車)

脚本:向井康介

キャスト:前田敦子(坂井タマ子)康すおん(タマ子の父)伊東清矢(中学生)富田靖子(曜子)

上映時間:78分

あらすじ

<以下、アマプラ紹介文より引用>

東京の大学を卒業したものの、甲府の実家に戻ってきて、無気力な日々を送るタマ子、23歳。現在、無職。家事を手伝うこともなく、就職活動をすることもなく、ただ食べて、寝て、マンガを読む生活を送っている。テレビを見れば「ダメだな、日本は」とか「クソ暑いのに野球なんてよくやるよ」とか悪態をつき、近所の中学生には「あの人、友だちいないから…」と同情される、逆ギレばかりのぐうたら娘。「就職活動してるのか?」という父の言葉に「その時が来たら動く。少なくとも今ではない!」と威勢がいいのか悪いのかわからない啖呵を切るが、秋から冬、そして春から夏へと季節が移りゆく中、タマ子の気持ちにも少しずつ変化が現れていく。そんな矢先、父に再婚話が持ち上がり、彼女の心は激しく揺れる。モラトリアムな毎日を過ごすタマ子が、ゆっくりと新しい1歩を踏み出す四季の物語。

前田敦子という人のこと

山下敦弘監督作品、取り上げるのは3回目。そして前田敦子は山下作品「苦役列車」に出演しています。これがとても良かったんですよ!…って思ったのはいち観客のワタシだけではなく「もらとりあむタマ子」のプロデューサーの方も「前田敦子×山下敦弘」の組み合わせはいいんでないかい?と思ったようで、そこから生まれた企画だそうです。

前田敦子さんのことを初めて気にしたのはその2012年公開の「苦役列車」でした。この年、彼女はAKB48を卒業しています。それまでほぼ興味がなく「AKB48のセンターを張っている女の子」としか認識していなかったのですが、彼女を知るにつれ、センターに据えた秋元康氏、やっぱすごい眼力だなと思いました(遅すぎる)。

AKB48が生まれるもっと前、女子アイドル(の卵)グループの番組に携わったことがあります。諸先輩方にも散々言われ、実際に痛感したのは「女の子の集団は難しい」ということでした。(今では性差別的な言い方になりますので、昔の話として聞いてくださいまし)「共感力」や「協調性」が強いため、圧が内側に向くんですよ。本来、外に向けて表現しなくてはならないパワーがグループの内に向いてしまう。この時は結局、この問題を解決できないまま終わってしまいました。こんな時に1人いて欲しいのが(というか、本来その「1人」を探さなくてはならなかったのですが)AKB48の前田敦子であり、スーパーモンキーズの安室奈美恵のような人です。横に合わせるのではなく、自分だけが前に出ようとするわけでもなく、ビシッと鏡に向かって自身の「芸」だけをストイックに突き詰めようとするタイプの人です。なかなかいません。だからスターなんですけどね…。

と、話はズレましたが本作はそんな彼女の魅力が詰まった作品です。おそらくストイックな彼女とはまったく違うキャラクターを演じたためか、ちょっと肩に力入っちゃってるかなという感じもしますが、周囲の芸達者さん(お父さんがすごく良いです!)がフォロー。グループを辞めて一人で活動をはじめた彼女の一歩目としてはとても良かったと思います。

感想

山下敦弘&向井康介コンビならではの、くすっと笑えるだらだらとした日常が描かれる本作。タマ子は東京の大学でおそらく何も掴めなかったのでしょう、山梨の実家に戻り、一人暮らしの父親に寄生して過ごします。テレビを観ては社会に文句を言い、パジャマなんだか部屋着なんだか知らんけど膝の出たジャージを着て寝転んで漫画を読んでいる。外に出ると中高時代の知り合いに会ってしまうのであんまり出たくない。山梨という中途半端に東京に近い場所がまたいいです。その気になれば中央線で新宿まで行けるけど、遠い。ロケ場所になった実家「甲府スポーツ」は実在の店舗だとか。

物語はタマ子が実家に帰ってくる秋にはじまり、父親の再婚相手候補(富田靖子)を偵察する夏に終わります。1年を通して少しだけ前に進むタマ子。そのタマ子に父親はじめ、周囲の人たちはなんだかんだと暖かく接してくれます。

そんで終わり方がすごくいい。映画が終わってもタマ子たちの生活は続くんだな、と思わせてくれるなんでもないカットがラストシーンになります。

しょうもないけど愛おしい。捨てられない小さな可愛いお菓子の箱のような作品です。(我ながらなんだこの比喩)

78分という短さもこの作品に合っていて、楽しくて爽やかな気分になれます。あと、当時は今ほど売れっ子でなかった伊藤沙莉さんがちょっとだけ出てきます。どこに出てるか、どうぞ確かめてください〜。

人生変わった度

★★★★★

少なくとも今ではない!(時々使います、このセリフ) 

 

過去紹介の山下敦弘監督作品2点

渋谷すばる君主演の「味園ユニバース」や「松ヶ根乱射事件」(山下作品にしては陰な感じの鬱映画です。おまけに主演が新井浩文だしな…)などなど書きたい作品はまだたくさんあるのですが、今んとこ紹介しているのは以下2作品のみです。

①マイ・バック・ページ 全共闘運動時代の話。実話を元に描かれています。これも山下作品にしては重め。妻夫木君のことを書いてますが、インチキアジテート野郎を演じる松山ケンイチもすごく良いです。

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②苦役列車 原作は芥川賞作品。クズすぎる主人公(森山未來)なのになぜか爽やかな気分になるのはなぜなんだ…

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