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【散歩する侵略者】ネタバレ感想/長谷川博己の宇宙人しぐさと驚きのラスト

 

不穏度

40(100を満点として)

松田龍平が宇宙人なのは知ってた

基本情報

公開年:2017年

監督:黒沢清

脚本:前川知大

キャスト:長澤まさみ(加瀬鳴海)松田龍平(加瀬真治)高杉真宙(天野)恒松祐里(立花あきら)長谷川博己(桜井)

上映時間:129分

あらすじ

<以下、アマプラ紹介文より引用>

数日間の行方不明の後、不仲だった夫がまるで別人のようになって帰ってきた。急に穏やかで優しくなった夫に戸惑う加瀬鳴海。夫・真治は会社を辞め、毎日散歩に出かけていく。一体何をしているのか…?その頃、町では一家惨殺事件が発生し、奇妙な現象が頻発する。ジャーナリストの桜井は取材中、天野という謎の若者に出会い、二人は事件の鍵を握る女子高校生・立花あきらの行方を探し始める。やがて町は静かに不穏な世界へと姿を変え、事態は思わぬ方向へと動く。「地球を侵略しに来た」真治から衝撃の告白を受ける鳴海。当たり前の日常は、ある日突然終わりを告げる。

評価

もう何本書いたか数えるのも面倒になってきた黒沢清作品です。「散歩する侵略者」はアマプラ見放題に入ったので2度目の鑑賞。以前、キヨシクロサワ作品は「名作」OR「ヘンテコ」の箱に振り分けていると書きましたが(あくまで個人の感想ですよ?)この作品は未だどっちに入るのか分からない。分からないけどかなり好き。ツッコミ所は満載だけど、面白い。では以下、ざざっと感想です〜(注!ネタバレあり!)

感想と見どころ

ムズカシ過ぎる侵略方法

こちら原作は戯曲だそうで。舞台という制約もあってか「宇宙人の地球侵略」という全世界規模のハナシが、とある夫婦の物語というミクロの視点で描かれています。

夫婦とは長澤まさみ(加瀬鳴海)&松田龍平(しんちゃん)。しんちゃんの浮気で離別寸前だった加瀬夫婦。ところがしんちゃんの身体が宇宙人に乗っ取られて「別人」になってから関係が変わってきます。

そしてもう一人の主人公が週刊誌ライターの長谷川博己(桜井)。街で起きる不可解な事件をきっかけに2体の宇宙人と接触、行動を共にします。

この2つの物語がカットバックで描かれ、やがて合流し、また分かれていく。

問題はこの「宇宙人」の侵略計画。どうやって地球に来たのかは不明ですが、実体を持たず人間に寄生する。寄生された方は元の人間の記憶もなんとなく残しつつ宇宙人の意識と一体化。3体送り込まれた宇宙人は人間のことを学び、良きところで仲間を呼んで侵略を開始する、という計画です。人間の事を学ぶ方法というのがですね…目の前の人に「ある概念」を想像させた上でおでこに指を触れると、その概念が宇宙人のアタマに入り、その代わり人間のほうはその概念を失う、というもの。例えば、長澤まさみの妹役の前田敦子がこれをされるんですが、「家族」という概念を宇宙人である松田龍平(しんちゃん)に吸われます。すると前田敦子は涙を流して崩れ落ちる。気を取り戻すと、彼女の心配をしてくれる「家族」の長澤まさみがウザくなる。「アナタなんで馴れ馴れしくするんですか?」みたいな。何かの概念を吸われることで明るくなる人もいれば、異常行動に走る人もいる。う、うーん…なんだろ、アイデアは光ってるとは思うけどなんか難しい…。

しかもそれ学んでどうする?人類を絶滅させようとしてんのに?など、色々考えてしまいます。

一見の価値あり!ハセヒロの宇宙人しぐさ

まあ、考えても分からんことは置いといて。

それより何より、同作最大の見どころはズバリ「ハセヒロの宇宙人しぐさ」。ラスト近くのスペクタルシーンで見られます。

男女の若者宇宙人(高杉真宙&恒松祐里)と行動を共にするハセヒロこと長谷川博己。彼らが宇宙人で、人類を滅亡させようとしていることを知ってなお手助けをします。人間に幻滅してるんでしょう、たぶん。宇宙人たちは地球の部品で通信装置を作って仲間を呼ぼうとしますが、完成直前、公安(?)らしきものに撃たれて死ぬ。高杉真宙宇宙人が死ぬ寸前「俺に乗り移れ!」とハセヒロ。ハセヒロ宇宙人の誕生です。ハセヒロ宇宙人は通信装置を完成させ、仲間を呼ぶ。空撃を浴びボロボロになりつつ立ち上がります。この時の関節の動きがですね、まるで宇宙人しぐさなんですよ!いえ、宇宙人がどんな動きするのか知りませんけども、人間離れしているのは確か。「舞台役者って凄えな〜!」って思いましたよ。もしかしてこのシーンのために作りましたか?この映画?ってなくらいに密度が違う。

ワタシがハセヒロを認識したのはNHKドラマ「セカンドバージン」なんですけど、その時は「あのゴージャスな鈴木京香様の相手役にしちゃあ貧相な役者だな!」と思ってしまいまして…同作を見てアタシャ本当に見る目がないな…と深く落ち込みました…。

驚きのラスト

それとびっくりしたのはラスト。

お話の流れは「回路」と良く似ており、黒沢清監督お得意の世界滅亡系かと思いきや、後日談がついていたのに驚きました。

最後、長澤まさみは松田龍平宇宙人に「愛」の概念を吸わせます。結果、松田龍平宇宙人は愛を知り、そのせいかは知らんけど人類が勝つ。逆に愛を亡くして呆然と座り込む長澤まさみに、今度は松田龍平が愛を与えるのです。なんや、ええハナシかい。

長澤まさみが夫松田龍平に対して思う「中身が変わっても愛してる」っての、精神の病や認知症で“人が変わったように”なっても愛してる、ってのに通じるものがあります。なんという深い愛!

いつもの陰惨系を期待していると裏切られるよ!…という意味で驚きのラストなのでした。ネタバレしちゃったけど、かなり端折っていますんで気になるかたはぜひ観てみて下さい〜。

「散歩する侵略者」はアマプラに入っています。

散歩する侵略者

散歩する侵略者

  • 長澤まさみ
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「似てます」と書いた「回路」レビュー。こちらは宇宙人ではなく「霊」が「この世」に侵略してきます…。初見はかなり怖いはず!

kyoroko.com