不穏度
45(100を満点として)
あんな世界の果ては嫌だ
基本情報
公開年:2000年
監督:ジョセフ・ラスナック
脚本:ジョセフ・ラスナック ラヴェル・センテノ=ロドリゲス
キャスト:クレイグ・ビアーコ(ダグラス・ホール/ジョン・ファーガソン/デヴィッド)アーミン・ミューラー=スタール(ハンノン・フラー/グリアソン)グレッチェン・モル(ジェイン・フラー/ナターシャ・モリナーロ)ヴィンセント・ドノフリオ(ジェイソン・ホイットニー/ジェリー・アシュトン)
上映時間:100分
あらすじ
<以下、アマプラ紹介文より引用>
とある高層ビルの13F。ホールは仮想現実創作技術を駆使し、1937年のロサンゼルスを再現しようとしていた。ある日、ボスのフラーが何者かに殺される。容疑者にされてしまったホールは、事件の真相を追ううちに1937年と現在にパラレル・ワールドが存在し、そこで危険な二重生活が展開されていることを知る。過去と現在が"13F"で交錯、そして自分の存在そのものさえ疑わざるを得なくなる・・・
評価
世間ではB級扱いされているようですが、ワタシは大好き。隠れた傑作SFの一本だと思っています。初めて観たのは深夜のテレビ放送。30年代のロスの風景が素敵だな〜と、なんとなく観ていたら面白くて観入ってしまい、その後TSUTAYAにレンタルを借りに走った覚えがあります。
同作が「隠れた傑作」になってしまった理由は公開があの「マトリックス」と同じ年だったからなんですね。日本公開は2000年ですがアメリカでは1999年5月。マトリックスはその2ヶ月前に公開されています。仮想現実を扱ったテーマが似ているけど、マトリックスに比較すると大味な感じがするのは否めない。結果、批評家の評価は低くなりました。
けれどある意味マトリックス超えてるじゃん!?ってな部分もあったりして、埋もれさせるのは勿体ない作品だと思うわけですよ!
では以下、マトリックスと比較しつつの感想です〜(注!がっつりネタバレしています!)
感想
ラストまでのあらすじ
初手からラストまでのあらすじをバラしてしまいますが…
大成功した企業家で天才科学者のフラーは、コンピューター上に仮想現実を作り上げ、入り込みます。その仮想現実は1937年のロスを再現したもの。古き良き時代です。その37年のロスでフラー(推定60代)は夜な夜な若い女性と不倫を楽んでいる。しかしそこで「ある秘密」に気づきます。現実社会に帰りその「秘密」を部下のダグラスに伝えようとした直前、何者かに殺されてしまう。
この「天才科学者殺人事件」を縦軸に現在(1999年)と仮想現実が交差。主人公のダグラスは「記憶がないが自分が殺したのでは?」という恐怖に怯えつつ、フラーが伝えようとした「秘密」が何かを探るため、仮想現実の中に飛び込んでいく。
同作の中の仮想現実、つまり1937年のロスで、そこに生きる人々は「個体」と言われます。ある程度の情報を入力した後、勝手に動き始めて個性を持った「電気信号」です。現実社会にモデルがいるので、ダグラスが仮想現実に入る時にはダグラスと同じ外見の「ジョン・ファーガソン」という人物になる。フラーが入ると「グリアソン」という人物に。普段仮想現実の中で自主的に生きているジョン・ファーガソンにダグラスがアクセスすると、ファンガーソンは「身体を乗っ取られた」状態になります。その間の記憶がなくなるわけです。
んで、現実社会ではあらかじめタイマーを設定。ダグラスは仮想現実でファンガーソンの身体を借りて、2時間後に帰ってくる…なんてことが出来るのです。このダイブには命の危険もある、という設定。
主人公ダグラスは仮想現実で命を狙われたり、現実社会ではフラーの娘を名乗る謎の美女と急接近しつつ、ついにフラーが気づいた「秘密」に迫る。
その秘密とは、現実だと思っている1999年の世界もまた仮想現実で、自分も「個体」の一つだということです。
ラスト、ダグラスは美女に導かれ「本当の現実世界」である2024年に行きます。そこには死んだはずのフラーもいます。
ラストは幻想的な未来世界の画で終わるのですが…観客は思います。「ここもまた仮想現実じゃないのか?!」と。
そう、マトリックスを超えているというのはこの部分でして。もう一枚世界が多い上に、さらに上があるんじゃないか?という広がりを想像させる。
そして「本当の自分」を発見して最後には救世主の自覚を持つネオに比べて、ダグラスは「自分は何者なのか?本当に生きているのか?」と、アイディンティティの揺らぎに悩む繊細な主人公です。この辺はブレードランナーにも通じると思うのですが、うーん、なんだろう…ダグラスの抱える不安が上手く表現されていないのが残念。
それと、皆の尊敬を集めるフラーが仮想現実で行っていたのが「買春」だったり、ダグラスの本体(2024年の人物)が仮想現実で殺人を楽しんでいたりと、仮想現実が欲望の捌け口になっている、というのも、うすら寒いリアリティがあってイイです。ほんと、今思ったんですけどメタバースって、ほっといたら現実では絶対に出来ない暗い欲望を撒き散らす無法地帯になるよね、きっと。
ラストの解釈
先ほど観客が『ここもまた仮想現実じゃないのか?!』と感じる、と書きましたがその理由について少し。タイトルの13Fとは、高層ビルの13階のこと。フラーが率いるコンピューター会社の、仮想空間の実験が行われているフロアが13階なのです。
1999年世界を仮想現実の中に創った2024年の世界では「謎の美女」と「ダグラスの本体」が一緒に暮らしていますが、その家は99年世界と同じビルの13Fにあります。
女がエレベーターで逃げる時に「13」のボタンが映るので13階に住んでいること、エレベーターの特徴的な赤いランプのアップで「99年世界と同じビル」であることが分かります。どちらも1秒ほどの短いカット。見逃すとだいぶラストシーンの印象が変わると思います。
このビルの13Fは1937年・1999年・2024年と繋がっている。さらにその先があってもおかしくはない…。そもそもキリスト教圏で忌み数とされる13ですから、タイトルからして不穏をチラ見せしてるんですよね…。
…とまあ、イイ発想はてんこ盛り。なのにいまいち生かし切れてない感じがするので、雰囲気作るの上手い監督、誰かリメイクしてくんないかな〜?
って、最後は褒めてんだかけなしてんだか分からなくなりましたが、まだ観ぬ面白いSFが観たい方、ぜひどうぞ!
13Fはアマプラで観られます〜。(2024/7/5現在、レンタル料かかります!)
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