基本情報
公開年:1966年
監督:山本薩夫
脚本:橋本忍
キャスト:田宮二郎(財前五郎)田村高廣(里見脩二)東野英治郎(東教授)小川真由美(花森ケイ子/財前の愛人)藤村志保(東佐枝子/東教授の娘)
上映時間:149分
あらすじ
<以下アマプラの映画紹介文より引用>
大阪・浪速大学医学部では、東教授の定年を控え、後任教授には若きエリート助教授・財前五郎が有力視されていた。しかし、野心家で傲慢な財前を嫌う東教授が対立候補を擁立したため、教授戦に向けて熾烈な裏工作合戦が始まる。そんな折、財前は、同期の里見助教授から依頼された患者の胃に癌を発見するが、里見の忠告を無視して断層撮影をせずに手術した結果、肺移転により死亡させてしまう。財前は教授の座を手に入れたものの誤診で訴えられることになる…
感想
モノクロで良かった!
実は観たことなかった名作シリーズ(今名付けた)、今回は「白い巨塔」です。先日NHKBSで放映されていたんで録画したのですよ。これまで観たことあるのは2003年のフジテレビ・唐沢版のドラマだけでして、ストーリーは把握していたものの「へえ〜」な感じの見どころがたくさんありました!
まず冒頭からいきなり生々しい手術の開腹シーン。その後も何度か同様のシーンは出てきますが、実際の手術を撮影したのだとか。同作はモノクロなんですけどこれカラーだったらかなり観る人を選びそうです。血ィムリ…って人には絶対ムリ。
それから、小説は文庫本にして5巻までなんですけど映画で語られるのはその前半部分のみ。ざっと説明しますと、財前が教授になるまでの学内政治劇が前半、後半は財前の誤診を訴える患者遺族との裁判が中心。辛くも財前が勝ち、上り詰めた財前と大学を去る里見の姿を対照的に映して映画は終わります。小説はというと、この後遺族側が控訴し財前は敗訴、同時に胃がんが発覚し後悔しながら亡くなるという悲劇的なラスト。なんでも後半は映画公開後の1967年から「続編」として連載を再開したもの。作者の山崎豊子も映画バージョンまでで完結させたかったのだそうですが、あまりの反響に大きさに編集部から押し切られたのだとか。まあ、人気が出るのはわかりますよ、面白いもん。あと、これピカレスクものではありますが、なんだよ出世欲の塊が勝って庶民(患者側)が負けるのかよ!…っていう【後味の悪い物語】に当時の大衆がまだ慣れてなかったのでは?と思います。(推測ですけど、「後味の悪さ」や「むかつき」を多くの人がエンタメとして許容できるようになったのって割と最近なんでは?)
ちなみに同じ田宮二郎主演のフジテレビドラマ版「白い巨塔」は1978年に放映され財前が亡くなるまでを描いています。
ファスト映画を先取りか?!
映画で語られるのは一審の裁判結果が出るまでとはいえ、大変な密度の人間模様をぎゅうぎゅうに詰め込んで描いています。手術、教授室で会話、料亭で会話、その間にどんどん登場人物が増えテロップで肩書きと名前が紹介される。どうやらこの財前という男野心家のあまり敵が多いぞ。いや、身内に協力な味方もいるのか…!などなど押し寄せる大量の情報とスピード感に「これファスト映画か?」と思っちゃいましたよ。映画らしい余白がほぼない。ロングショットもない。テレビドラマのダイジェスト版みたいで面白かったけど、この年のキネ旬1位というのはちょっと意外でした。キネマ旬報って「映画っぽい映画を評価する」というイメージがありますんでね。
それでも上滑りにならず深い余韻を残すのは重厚な役者陣に加え、リアリティのある台詞。(さすが橋本忍!)当時としては最先端の話題であろう医療ミス裁判シーンは、ちんぷんかんぷんな医療用語が早口で飛び交います。こんなのも最近のドラマっぽい。題材も古くないし、これ今の若い人が観てもかなり面白いと思うんじゃないでしょうか?!
里見はダメ人間?!
これまで財前=出世欲の塊・里見=真摯な医師っていうイメージでしたが、里見先生も研究オタクで患者のこと人として見てなくないないか?って気づいたのが新しい発見。逆に財前も東教授も悪人ではない。医師として真っ当でありたいという気持ちは同じです。だからこそ信念のある自分が偉い立場につかなくては、と思っているわけで。
まあ、どの組織にも本業以上に出世ゲームが楽しくなっちゃう人っているよね。自分はそんな人を冷ややかに見てる里見タイプだと思ってたんだけど、その里見もロクなもんじゃねえなとゲンナリしました。「患者を安心させることも臨床医の仕事だよ」という上司の言葉に耳を貸さず患者にとって負担となる検査を繰り返す。上にゴマをする同僚を軽蔑してましたけど、今となってはそういう人は偉かったなあと思いますよ…。ただ逃げてただけでした、すんません…。
…と一人反省会はさておき、60年近くも前の作品なのにしっかり現在の「自分ごと」に感じることのできる映画でした。人間が何人か集まれば起きることは60年やそこらじゃ変わらんってことやね。
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山崎豊子自身も財前のごとく毀誉褒貶の多い人ですが、夢中で読めちゃう面白さは凄いよね!
同じ橋本忍脚本作品「七人の侍」レビューはこちら。