【Cloud】評価と感想(ネタバレなし!)/まさかの展開!斜め上のアウトレイジ?!

不穏度

40(100を満点として)

自分以外みんな狂人

基本情報

公開年:2024年

監督&脚本:黒沢清

キャスト: 菅田将暉(吉井)古川琴音(秋子)奥平大兼(佐野)岡山天音(三宅)

荒川良々(滝本)窪田正孝(村岡)

上映時間:123分

あらすじ

<以下、公式サイト“About the movieより引用>

世間から忌み嫌われる“転売ヤー”として真面目に働く主人公・吉井。彼が知らず知らずのうちにバラまいた憎悪の粒はネット社会の闇を吸って成長し、どす黒い“集団狂気”へとエスカレートしてゆく。誹謗中傷、フェイクニュース――悪意のスパイラルによって拡がった憎悪は、実体をもった不特定多数の集団へと姿を変え、暴走をはじめる。やがて彼らがはじめた“狩りゲーム”の標的となった吉井の「日常」は、急速に破壊されていく……。

評価

初日に観てきましたよ、黒沢清監督×菅田将暉の話題作「Cloud(クラウド)」。面白かったです!黒沢清作品にしては不穏度低め。アクション映画になるのかも知れません。

前半にチクチクと感じる違和感が後半まったく違う方向に爆発し、最終的には「静かなガンアクション、イイな〜!」って言う感想になる。あれ?転売ヤーの話じゃなかったっけ…?みたいな。狂い方が斜め上のアウトレイジって感じ。ワタシは面白かったですが、違うものを期待していた方は「なんそれ?」ってなると思います!

一つ気になったのは、主人公が「転売ヤー」っての、ワタシは微妙な古さを感じたのですが、どうなんでしょう?!企画が立ち上がったのは6年前のことだそうで、ネット周りのことは本当にすごいスピードで古くなっていくから仕方ないんですかね…。

では、絶対ネタバレ前に観た方が面白いんで、以下ネタバレなしの感想です〜。

感想

悪いのは誰なのか?

冒頭、ここはトレーラーにも入っていた部分なのでネタバラシしても良いと思いますが…。

菅田将暉(ド頭なので観客に職業はわからない)が工場のような所で中年夫婦と取引をしています。積み上がった段ボールを前に「一つ3000円で買いましょう」という菅田将暉(吉井)。夫婦は「えっ?!定価40万円だよ?!」と反発しますが、結局3000円で売ることに同意。吉井は大量の段ボールを丁寧に帆付きの軽トラに積んでいきます。

この時、夫婦は「何の努力もしないで(大金を稼ぐのか)」と、吉井を非難する。

え?そうかなあ?とワタシはしょっぱなから違和感を感じてしまいました。

吉井は世間から嫌われる「転売ヤー」ですが、その仕事は多岐にわたります。どの商品が売れるかリサーチし、自分で運搬して保管、その後は商品が美しく見えるよう照明を焚いて高価そうなカメラでブツ撮りし、うまいキャッチコピーを考えてサイトに載せる。

先ほど3000円で買い取った商品は健康器具なんですが、それに「まぼろしの健康器具」というコピーをつけるんです。漢字にしないでひらがなで「まぼろし」にした所にセンスを感じましたよ!

これ電通だったら数百万の人件費がかかる仕事でしょう。それを一人でこなしているのだからたいしたものです。その上、所有者を説得できるトーク力もある。売れるかどうかわからない品を大量仕入れする度胸もある。シゴできさんではないですか!

まあ、法律的にはギリギリ、もしくはちょっとはみ出すことをやっているし、さらに倫理的には人の恨みを買うのも分かりますけどね。でもそういうのは大企業だってやっている。

そんな吉井の仕事を「何の努力もしない」と決めつけるその想像力のなさはどうなの…?と思っていると後半、案の定なことが起きます。ネタバレになるので書きませんが。

法律ギリギリの仕事をコツコツ真面目に行う吉井と、そんな彼を「楽して儲けやがって!」と責める想像力のない人たち。さあ、悪いのはいったいどっちなんでしょうね?!

この企画、当初の仮タイトルは「敗北者たち」だったそうです(分かる)。黒沢清監督はアメリカンニューシネマ的なものを目指したそうで、それを現代の日本の若者に置き換えるとこんな物語になったのだとか。それを聞くとなるほど!となります。

ガンアクションと照明

そして後半は例のごとく廃墟でのシーン。リメイク版「蛇の道」でも楽しそうにやってんな〜と思いましたが、今作ではさらに時間を取ってガッツリ見せています。

実はこのガンアクションについて、菅田将暉氏がNHKの「あさイチ」でこんなことを語っていたんです。

「(今作の撮影で)ガンアクションの時、必ず拳銃にチカっと照明が当たるようにセッティングしているんです。重さとか本物感が出るから、と…」。

映画「Chime」のメイキングで照明さん(撮影さんでもあるのかな?)の仕事っぷりに感動していたんで、うわ〜!それは見逃せない!ってなったんですわ。

実際見ると、確かに薄暗い廃墟の中、チカっと拳銃が光る場面があります。すげえなあ。そういった演出を積み重ねたガンアクションは、「カッコいい」よりも「怖い」感じが出ていたのがすごい。いかにも作り物っぽい派手な銃撃戦も面白いですが、少ない弾薬でも当たれば痛いし確実に死ぬんだな…ってことが伝わってくるというか。ライフルの弾も重そうだしさ…。

菅田将暉が天才と言われる理由

トップに載せた写真はパンフレットの表紙です。1000円で実に読み応えのある一冊!

中でも良いなと思ったのは菅田将暉のインタビューです。あ、この人、要求されていることが感覚的にわかる人なんだな、と思いましたよ。

「黒沢監督の演出は感情面より段取り(本番前の動きの確認)についての指示が多いと聞きましたが?」という質問に対し「(前略)一つの感情だけで動くこと自体、実生活でそんなにないように思うんです。特に黒沢さんの作品だと『嬉しいだけで走っている』と言ったようなものもないので…(後略)」

と答えています。

監督とは撮影開始前に1時間ほど話をしたそうですが、クロサワ演出の本筋を捉えてるな〜と思いました。たまたま監督と考え方が近かったのかも知れませんが、各作品で絶賛されている処を見ると、演出家の意図を汲み取ってそれ以上に表現する力があるのでしょう。凡人が100冊の本を読んで理解するところを1冊で足りるみたいな。これが天才と呼ばれる所以かと納得。

…と、菅田将暉が素晴らしいのはもちろんですが、もう一人、すごいのがいるなと刮目したのが吉井のアシスタント「佐野」を演じた奥平大兼さん。これもネタバレになるんでどんな役かは言えませんが、ちょっとね…すごいですよ。

ってか、登場人物が少ないので役者さん一人一人が粒立っていて、みな良いんです。とにかく良い!

うーむ…ええい、ネタバレなしで書くのもこの辺が限界!あ〜!書きたいことはいっぱいあるけどこれまで!そのうち、ネタバレ版にして書き直すかもです。

そんなわけでぜひ劇場でどうぞ!公式サイト貼っておきます〜。

あ、もう一つ言っておくとCMでガンガンに流れているAlexandrosの曲、映画館では一回も流れません!あれは「インスパイアソング」なんですって!

cloud-movie.com

近年の傑作だと思っている「Chime」レビューはこちら。メイキングドキュメントのレビューも書いています。

kyoroko.com

「花束みたいな恋をした」の菅田将暉もすごかった。大学生から社会人へと大人になっていくんですが、その変化の工程が見えるんですよね。セリフとか衣装とかヘアメイクとかだけじゃ無く。下記レビューでは全く触れていませんが。(どちらかといえば変わらない有村架純に着目)

kyoroko.com