映画ごときで人生は変わらない

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【プロミシング・ヤング・ウーマン】ネタバレ感想と考察/観客を「当事者」にする3つの巧みな仕掛け


プロミシング・ヤング・ウーマン [Blu-ray]

基本情報

公開年:2021年

監督:エメラルド・フェネル

脚本:エメラルド・フェネル

キャスト:キャリー・マリガン(カサンドラ・トーマス/キャシー)ボー・バーナム(ライアン・クーパー)アリソン・ブリー(マディソン・マクフィー)

上映時間:113分

あらすじ

<以下、DVD紹介文より引用>

キャシーは、ある事件で医大を中退し、今やカフェの店員として平凡な毎日を送っている。その一方、夜ごとバーで泥酔したフリをして、お持ち帰りオトコたちに裁きを下していた。ある日、大学時代のクラスメートで小児科医となったライアンがカフェを訪れる。この偶然の再会こそが、キャシーに恋ごころを目覚めさせ、同時に地獄のような悪夢へと連れ戻すことになる……。

その昔、友人が言いました。「映画はハッピーエンドのしか観たくない!お金払ってわざわざ嫌な気持ちになりたくない」。ハイ、良くわかります。普段はダークな映画を好むワタシも現実が辛い時はハッピーな映画にすがりますもの。ですので通常は大まかな内容くらいは知ってから鑑賞するわけですが、それでもなお「だ、騙された…ここまで気持ちがどよ〜んとする作品だと思わなかったよ…」と凹むことがあります。しかも最近多い「ある種の映画」です。「ある種の映画」とは「観客の『当事者性』をぶっ刺してくる作品」。「プロミシング・ヤング・ウーマン」がまさにそれでして、観た後どよ〜んとした気分になり、考えているうちに主人公がかわいそうになって半日後に突然泣き出すという情緒不安定野郎になっちゃいましたよ!

では以下、感想あらすじ交えつつ、最近多い「当事者性映画」(今思いついた造語です!)について考えたことを少々。

感想(注!ネタバレあり!!)と考察

観客を「当事者」にする3つの巧みな仕掛け

「プロミシング・ヤング・ウーマン」。タイトルの意味は「前途ある若い女性」です。どちらかといえば「プロミシング・ヤング・マン」のほうが良く使われるようです。例えば名門大学の体育会系男子が軽犯罪を犯してしまった場合「彼も反省してるし、プロミシング・ヤングマンだからね」なんつってお目こぼししてもらえたりするんだそうな。まあ、立ちションとかスピード違反くらいならイイですよ。でもレイプはさあ…そう言っちゃあダメでしょう、なんて問題になったりするらしい。こういうとこは日本もアメリカも同じみたい。

さて、主人公のキャシーは7年前までは医大生で、まさにプロミシング・ヤング・ウーマンだったのです。酔っ払って正体をなくし、男たちが取り囲む中レイプされ自殺した親友のニーナと共に。ニーナの死にショックを受けたキャシーは大学を中退、コーヒーショップでバイトしながら夜な夜な酔ったフリをして男を誘い出し、彼らに制裁を加えます。とはいえどこまでの仕置きをしているかははっきりと映されません。しかし殺してはいない様子。そしてキャシーが復讐するのは男たちだけではありません。「酔っていたんだから仕方ないわ。女のほうだって悪いのよ」と言った女友達や、「しょっちゅうあるのよ、そんなこと」とレイプの訴えを退けた学長(こちらも女性)にも及びます。このあたりから女であるワタシも胃の後ろあたりがぞわぞわし始めるんですよ…。

「ジョーカー」「TAR/ター」それから未見ですが「アシスタント」という作品もそうらしいですが、観客を「スクリーンを観ている他人」にせず、今、ここで起きている問題の加害者のように思わせる作品が増えているような気がします。結果、観たあと口の中がすっぱい感じになるアレです。一体どうして「当事者性」を感じてしまうのか?同作にある特徴3つから考えてみました。

①善人も悪人もいない

一つは分かりやすい悪人も善人もいないこと。キャシーが制裁を加える男たちはみな弱っちい奴らに見えます。力任せに襲う男はいません。「そんなに酔ったら帰れないよね?介抱してあげるよ」「君が嫌ならしないよ。いいよね?(酔って返事もできない相手に一応聞く)」と予防線を引きつつそうっと触ってきます。たぶん悪人ではありません。女たちもそうです。「女なら酔い潰れちゃダメよ。警戒心持たないと!」これ、悪人が言うセリフではありません。さらにキャシーは「傍観者」にも容赦しません。悪事を見逃すことは中立ではなく悪なのです。ワタシなんてこれを断罪されるともうごめんなさいとしか言いようがありませんよ…。

おそらく多くの人が「やったことがある」「思ったことがある」という行動やセリフばかり。ちょっとヤバかったかな、と思っても生きていればやりそうなこと。リアルです。

②想像の中の暴力(嫌なシーン)を炙り出す

2つ目は暴力、性暴力を直接描かないことです。復讐を果たしていくキャシーですが、相手に何をしたのかその核心部分は観せません。どうやら「脅す」「気付かせる」が目的なので暴力的な手出しはしていないようだな…ということに気が付くまで、観客は暴力シーンを想像します。そして終盤ニーナがレイプされている動画があることが判明するのですが、この動画も観客には観せません。しかし想像します。恐ろしいシーンを…。これ、観客が「自ら想像した」ことに対して後ろめたい気持ちになる仕掛けのように気がします。このへんも「どよ〜ん気分」になるポイント。

③暴力を期待させる仕掛け

そして終盤。キャシーは実際にニーナをレイプした男、いわばラスボスに対峙します。ナースコスプレのストリッパーに扮しバチュラーパーティーに乗り込むキャシー。派手なメイクとカツラとアガる音楽は「ジョーカー」を思い起こさせ、観客を「やれやれ〜!やっちまえ〜!」と煽ってくる。キャシーはラスボスに手錠をかけ、ニーナにしたことを思い出させることに成功。やったぜ!!と思いきや、キャシーは返り討ちにあって殺される。彼女が息絶えるまでを延々と映す目を背けたくなる長回しシーンです。ここまで封印されていた「暴力描写」をこれでもかと見せられる。そして私たちは気づくのです。自分が暴力を肯定し期待していたことに…。う、うっかり期待しちまったじゃねえか!なにしてくれてんねん…。とハッとしても後の祭り。とても怖い仕掛けです。ちなみに映画はキャシーが死んで終わりではありません。その後どうなるかはぜひ観てみて下さい!

その年のアカデミー脚本賞を受賞した同作。この作品を観て「安穏と生きてきた自分ももしかしたら誰かの加害者かも知れない…」と思わない人はいないでしょう。ピンクや水色の可愛いキャシーの衣装、実家の上品なインテリア、音楽にパリス・ヒルトンなどポップで可愛い画面作りをしているのも、とてもスリラーもののセンスがあると思いましたよ。とにかくすごいエグられ方をするので要注意!!でも面白い!おすすめの一本です。

人生変わった度

★★★★

ごめんなさいとしか言えないよ…

「TAR/ター」レビューはこちら。こちらの当事者性はキャンセルカルチャーにまつわるもの。調子づいている有名人を引き摺り下ろしてみんなでぶっ叩くアレです。

kyoroko.com