映画ごときで人生は変わらない

映画大好き中年主婦KYOROKOの感想と考察が入り混じるレビュー。うっすらネタバレあり。週1〜2回更新中!

【スリー・ビルボード】ネタバレなし感想と考察/展開とキャラ変がすごい!人間を描いた名作


スリー・ビルボード [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

 

基本情報

公開:2018年

監督:マーティン・マクドナー

脚本:マーティン・マクドナー

キャスト:フランシス・マクドーマンド(ミルドレッド・ヘイズ)ウディ・ハレルソン(ビル・ウィロビー署長)サム・ロックウェル(ジェイソン・ディクソン巡査)

上映時間:115分

あらすじ

<以下、DVD作品紹介文より引用>

アメリカのミズーリ州の田舎町を貫く道路に並ぶ、3枚の広告看板。そこには、地元警察への批判メッセージが書かれていた。7カ月前に何者かに娘を殺されたミルドレッドが、何の進展もない捜査状況に腹を立て、警察署長にケンカを売ったのだ。署長を敬愛する部下や、町の人々から抗議を受けるも、一歩も引かないミルドレッド。町中が彼女を敵視するなか、次々と不穏な事件が起こり始め、事態は予想外の方向へと向かい始める……。

感想

ペルシャ絨毯のような映画

サマセット・モーム作「人間の絆」の中に「人生をペルシャ絨毯に例える」くだりがあります。人生とは様々な出来事による縦糸と横糸で織られる一枚の絨毯のようなもので、どんな模様になるかは死んだ時にしかわからない…と主人公が人生を達観するという状況だったような(うろ覚えですみません)。このくだりを読んだワタシは「とは言っても引いてみないと全体の模様は見えないから、本当にそれが見えるのは神様だけだよなあ」などと思った記憶があります。

さて、「スリー・ビルボード」を観た時に頭に浮かんだのはこの「ペルシャ絨毯」でして。登場人物らはいずれも切羽詰まった状況なので近視眼的にしか物事を見られないまま、行動を起こす。そしてその行動はさらに意外な次の状況を引き起こす。ギリギリまで目を手元に近づけて懸命に糸を織る彼らの絨毯がどんな模様になったのか?神の視点である観客にはうっすら見えるのですが、おそらく劇中の彼らには分からない。まだ人生の途中だからです。

ってしょっぱなから抽象的な話になってしまいました。「スリー・ビルボード」は意外なところに転がる展開とキャラクターへの光の当て方が凄すぎる、ワタシの中の「感動しすぎ作品」の一つですんでうまく説明できる自信がありませんが、もう少しお付き合いを。

一人の人間の中に潜む多様性

しょっぱなの感想は「脚本スゲー!!」でした。今作、ヴェネツア国際映画祭で脚本賞を受賞しています。「ビルボード」とは看板広告のこと。よくアメリカの映画の一場面で見る、だたっぴろい荒野に伸びる一本道の脇にドーンと立っている派手派手しい広告、アレです。その看板が3つ。殺された娘の母親ミルドレッドはこの看板を管理する代理店に広告費を払い「娘がレイプされて焼き殺された」「でも犯人は未だ捕まっていない」「ウィロビー署長、なんで?」と赤地に黒い文字がデカデカと浮かぶ広告を出します。ウィロビー署長は町の警察署長。名指しでデカデカと警察の無能っぷりを非難したわけですから大変な騒ぎに。物語はここからはじまります。ひゃ〜!こっからもうワクワクしますね!

そのウィロビー署長は町中から慕われる「いい人」な上、末期癌で余命わずか。田舎町のせいか、病気のことも町中が知っている。なので看板を立てたミルドレッドが逆に非難されます。。特に署長を慕うキレやすく教養の足りないレイシストのディクソン巡査は激おこ。ミルドレッドに嫌がらせをします。しかしミルドレッドは町中の人に嫌われても怯むことなく逆に立ち向かう…ってかとんでもない大暴走をしはじめます。ミルドレッド役はフランシス・マクドーマンド。役者の力なのでしょう、彼女がどんなに暴走しても単なるサイコパスには見えないところがすごい。自分の正義を貫く強い意思の持ち主に見えます。

この作品の面白いところはその「被害者の遺族で母親」という一見弱い存在である人間がとんでもない暴走列車だと分かったり、「暴力的な警官ディクソン」がある出来事をきっかけに「心優しい正義感」に変化したり、また初めから終わりまで正しい真人間がいたりと、キャラクターの描き方が実に多様なところです。一人の人間の中にも「多様性」があることを、ミルドレッド、署長、ディクソン巡査という主となる三人を通じて描いてるんです。とくに尊敬する人の言葉をきっかけに「憎しみ」から「赦し」に素直に方向を変えるディクソン巡査が面白い。単純なだけに上手な導きがあれば粗暴な人間も変わることができる。この世界の希望のようなキャラクターです。

人と人は出会うタイミング次第で憎しみあうことも出来るし、わかりあうこともできるのだなあ…っていうとありがちですけど、こういうモノを映画でうまく描くのってすごいと思いますよ、ホント。

考察・真犯人は誰なのか?

さて、ワタシはこの作品、「はあ〜良い映画だったわい」とただただ感動したのですが、ブログを書くに当たって調べましたら、みなさん「ミルドレッドの娘を殺したのは誰か?」を気にしてるんですね〜。そうなんです、真犯人は見つからないまま映画は終わるのです。最後、ミルドレッドとディクソンは「90%の確率で娘を殺した犯人ではないけれどレイプをしたことがある」男の元に行くため一緒に車に乗り込みます。その男に会ってどうするのかは決めていません。色々な考察があるようですが、ワタシは脚本家(兼監督)も「真犯人が誰か」は知らないと思います。事件の解決を描く作品ではないからね。

それより登場人物たちが織り上げたこの物語、神である観客から観た模様は「天使」、もしくは「亡くなった娘さんの笑顔」あたりではないかと思うんですが、どうでしょう?

人生変わった度

★★★★★★★

憎悪と慈愛は紙一重

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ペルシャ絨毯の件が気になった方はどうぞ。モームはいいよね。中野好夫の翻訳がおすすめ。