映画ごときで人生は変わらない

映画大好き中年主婦KYOROKOの感想と考察が入り混じるレビュー。うっすらネタバレあり。週1〜2回更新中!

【ロスト・イン・トランスレーション】考察/20年経って気づいた疎外感の正体


ロスト・イン・トランスレーション [DVD]

基本情報

公開年:2004年

監督:ソフィア・コッポラ

脚本:ソフィア・コッポラ

キャスト:ビル・マーレイ(ボブ・ハリス)スカーレット・ヨハンソン(シャーロット)ジョバンニ・リビシ(ジョン)アンナ・ファリス(ケリー・ストロング)藤井隆(マシュー南)

上映時間:102分

あらすじ

<以下アマゾンプライムビデオの紹介文より引用>

ウィスキーのコマーシャル撮影のため来日したスター、ボブ・ハリス。彼は滞在先の高級ホテルでスタッフから手厚い待遇を受けながらも、異国にいる戸惑いや居心地の悪さを感じていた。さらに自宅にいる妻との電話で、気分はますます滅入るばかり。一方、同じホテルにはカメラマンの夫の仕事に同行してきた新妻シャーロットが滞在中。彼女は多忙な夫にかまってもらえず、部屋で孤独を持て余していた。そんな2人が偶然出会い…。

先日、用事で八重洲に行った帰りラーメン食べたいなあとふと思い、東京駅のラーメンストリートのお店に入ったのですよ。そしたらですね、店員さんが皆外国の方でして。インドネシアとかそのあたりかな?客には日本語で対応してくれるのですが、店員さん同士の会話は異国の言葉。東京のど真ん中で一人、カウンターでラーメンを啜りつつ頭上で飛び交う異国語を聞いていたら、物悲しいというか寂しいというか、よるべなき不安感に襲われて「こ、これはもしかして『ロスト・イン・トランスレーション』の気分なのでは?!」と突如この映画のことを思い出しました。

東京に居ながら、かの映画の気分に浸れるとは日本もずいぶん変わったなあ〜なんて思いつつ、20年前に観た時には思い至らなかったあることに気がつきました。それはボブ(ビル・マーレイ)の疎外感の正体です。以下、そのあたりのことをだらだらと。(レビューですらありません、すみません)

考察・ボブの疎外感の正体

「ロスト・イン・トランスレーション」、直訳すれば「翻訳で失われるもの」ってところでしょうか。実際、東京に来たアメリカ人の2人(ボブとシャーロット)は言葉が通じないという孤独の中、さらに同じ言語を話し隣で寝ている人とすら分かり合えないという寂寥感に襲われます。

ボブは落ち目のハリウッドスターで東京にCM撮影の仕事でやってきます。彼の感じる孤独というのは「落ち目である」「異邦人である」ところから来ているのだと思っていましたが、今、ワタシ自身がボブに近い年齢になってもう一つ「年齢による孤独感」があることに気がついたのです。伝統的ムラ社会では「長老」として尊敬される年齢でも、資本主義社会のど真ん中では「働き盛り」を過ぎた老人。旅先でアバンチュールができるほど元気はあるのに、ですよ?これマルクスが言うところの「疎外」の一つなのではないでしょうか?

作品の主題は「ディスコミュニケーション」ですが、これは資本主義、物質主義によってもたらされたものです。主役の一人を「働き盛りを過ぎたため社会から疎外された人」にすることで、きっちりとディスコミュニケーションの元凶を描いていたのです。ボブの滞在理由が「酒のCM撮影」という、ブルジットジョブを煮詰めたような仕事であることもまた皮肉が効いています。考えてみれば物質主義を正面から批判した「ファイト・クラブ」の公開は1999年。「ロスト・イン・トランスレーション」は2003年の作品。20年も前から物質主義の弊害を語っているのに世界は変わってないのだわな。

この作品を観たのは30代の頃。当時はスカーレット・ヨハンソン演じるシャーロットに気持ちを入れて観ていましたが、20年たってボブに近い年齢になって初めて気づくとは自分も適当に映画観てんなあと思いつつ、こういう気づきがあるから映画って面白いよな〜なんてことも思いつつ。

※とはいえ、ファッション性を強く打ち出している同作を「物質主義批判」と観るのは製作側の意図とは真逆な気はしますが。

最後のセリフは何だったのか?

さて、この作品を語る上でどうしても外せないのがラスト近くの謎。東京で友情を育んだ孤独な2人、ボブとシャーロットの別れのシーンです。ボブがシャーロットの耳元で何かを囁くのですが、そのセリフは聞こえない。一体何を言っているのか?ちょっと調べてみたところ、ビル・マーレイが何年か前に「質問ある?なんでも答えるよ!」的サイトでこの質問に答えていました。答えは…「忘れちゃった!」ですって。絶対言う気はなさそうです。喜劇役者ってのは粋ですね。知ったところで何にも伝わらないことに変わりはないのです。都市に生きる私たちは誰もがボブで誰もがシャーロットで、言葉の通じない世界を孤独に生き続けるしかないのですから。良い作品です。

人生変わった度

★★★★

「エモいお洒落映画」で終わらすのはもったないよ!

ちなみに東京駅で食べたラーメンはここの。あっさり細麺塩味、エビの出汁が効いてて美味しかったです〜

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