不穏度
40(100を満点として)
この重い問いかけに答えることができますか?
基本情報
公開年:2017年
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ(他監督作品:砂の惑星)
脚本:エリック・ハイセラー
キャスト:エイミー・アダムス(ルイーズ・バンクス)ジェレミー・レナー(イアン・ドネリー)フォレスト・ウィテカー(ウェバー大佐)
上映時間:116分
あらすじ
<以下公式サイトより引用>
突如地上に降り立った巨大な宇宙船。謎の知的生命体と意思の疎通をはかるために軍に雇われた言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)は、物理学者イアン(ジェレミー・レナー)とともに、“彼ら”が人類に何を伝えようとしているのかを探っていく。そして、その言語の謎が解けたとき、彼らが地球にやってきた驚くべき真相と、人類に向けた美しくもせつないラストメッセージが明らかになる――
評価
「砂の惑星 PART2」レビューを読みに来てくださる方が多いので、この勢いで同じドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の名作「メッセージ」について書いてみようかなと。評価は「面白かったし感動した!!」です。難解と言われますが細かい部分は理解できなくても考えさせられるし面白い。ちなみにもっと理解したくて原作テッド・チャンの「あなたの人生の物語」を書いましたがあえなく3ページで脱落しました…。
↓こちらにも書いてますけどどうもSF小説読めなくてですね‥トホホ…
こんなSFオンチ(好きなんだけどね…)なワタクシが3回も観てその度に「良い映画や〜ん!」と感動している「メッセージ」、いったいどこが面白いのか、書いてみましたよ〜。(ちょっとだけネタバレしています!)
感想
美しい縦長UFOを見て考えた
DVDのパッケージにも登場している宇宙船。まずそのデザインに度肝を抜かれます。映画のスクリーンは横長ですから、これまでのSF映画の宇宙船のデザインは横長が多いように思うんですよね(ごめんワタシ調べで根拠はないです。異論は認めます!)。あと平べったいとか。
そんな常識を打ち破るばかうけ型縦長宇宙船。これだけでもかなりインパクト大です。話題作「砂の惑星」シリーズを監督しているドゥニ・ヴィルヌーヴ、その「砂の惑星」に登場する宇宙船や惑星での乗物の中にも「縦長」が度々出てきてそのたびにハッとさせられます。
ちなみにスクリーンが横長なのは映画のフィルムが横長だったから。んで、そのフィルムの比率に合わせたアスぺスト比のスクリーンが生まれ、それに合わせてUFOも横長デザインになった、と。
スマホが生まれてから急に縦長動画が撮られるようになったのと同じく、はじめにハード(フィルム)がありそれに合わせてソフト(映画)が出来た。おそらくスマホで撮影されたUFOは縦長が多いと思いますよ!
さて、宇宙船のデザインから考えたこの「ハードありきのソフトである」という原理は「メッセージ」の中でも語られています。
主人公のルイーズは言語学者。ばかうけ宇宙船に乗ってやってきた宇宙人の言語を解読するプロジェクトの一員になります。ヘプタポッドと名付けられた宇宙人はくらげのように7本の手足を持ち、指先から墨みたいなもんを空中に放出して丸い形を作ります。
この円の出っ張ったところが微妙に異なり、すなわちこれが文字らしい。世界中の言語学者が頭を捻りますが、なかなか解読できない。
しかしルイーズは気が付くのです。ヘプタポッドの世界は時間の流れ方が違うということに。私たちの時間は過去→現在→未来という一方向にしか流れていませんが、彼らの世界は過去・現在・未来がループしている。反対方向に進むこともできるという四次元の世界に生きています。私たち三次元世界の住民とは次元が一つ上。ということは我々の世界の「文字」のような紙の上で表現される二次元のものとは違い、文字も立体的、つまり三次元なのではないか?と。はじめにハード(4次元)があり、次にソフト(立体的な言語)が出来た、と。ソフトだけを観察してても気づけない。ハードの形や特徴を知ることではじめてソフトを解読できたのです。気づきそうで気づけないこのアプローチ法、いつかどこかで役立ちそうです。
もしも未来が見えたなら?
冒頭から何度もルイーズが夢に見る「愛しい娘が小児がんで亡くなってしまう」という悲しい出来事。観客は過去の記憶だと思っていますが、途中でそれは未来の出来事だと気がつきます。ルイーズが特殊能力者なのか?そのへん良くわかりませんが、彼女はヘプタポッドと同じ、ループする時間軸の中に生きていた人間だったのです。だからヘプタポッドの時間の流れが感覚的に分かり、そこから文字を解読することができた、と。
そんで未来で勉強したヘプタポット語を現在で生かしたりと、未来で聞いた中国の将軍の携帯番号に今電話できたりと「え?そんなん出来るん?!」というパラドックスの謎を撒き散らしつつ、ヘプタポッドは宇宙にお帰りになります。
ちなみに彼らが来た目的は「3000年後に地球人が我々を救ってくれるから」。それなのに地球人はこのままでは戦争で滅亡してしまう。そうならないように知恵(ヘプタポッド的高次元の知識)を授けに来た、ということらしいです。
そしてこの映画のキモは「もしも生後数年(10歳くらい?)で亡くなってしまうという未来が決まっていたとしたら、それでもその子を産みますか?」という倫理的にかなり重たい問いかけです。先ほども紹介しましたがルイーズの夢にはかわいい女の子が出てきます。愛情たっぷりに育てているルイーズ。でも苦しい闘病の末に亡くなってしまう。悲しいという言葉ではとても表現しきれない、まさに身を切るような辛さです。それが「決まっている未来」だとしたら…?それでもルイーズはこのプロジェクトで出会った物理学者イアンと結ばれ女の子を産む決心をします。勇気ある決断です。
映画館から帰る道すがら考えましたよ、自分だったらどうするか?って。まずどうにかして未来を変えようとすると思いますが、同時に無理だと分かっているんだろうな、と。「メッセージ」の世界では未来は変えることができないものとして存在しています。大切なものを失う苦しみ、悲しみに耐えられる気がしない。子供にも「なんで産んだの?」と責められそうで怖い。出産を躊躇するだろうなと思ったんですが…ちょっと待てよ、と。だとしたらワタシは今なんで生きてるんだ?と考えたんですよ。だって1年後だろうと100年後だろうと「人は皆死ぬ」という未来は変えられないんです。「決まっている未来」を知っているのはルイーズだけではないのです。とはいえルイーズの見ている未来はもう少し解像度が高いので彼女は未来の楽しみも悲しみも全て知った上で生きていく。それは一周回って達観した穏やかな人生であるような気がします。そういうの「解脱」って言うんじゃないかしら?それって悪くない人生よね…な〜んてことまで考えされられるところがこの作品の面白さなのでありました。
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原作本テッド・チャン「あなたの人生の物語」。なんて美しいタイトルでしょう!「三体」といい、中国SF熱いよね!読んだ方!感想教えてください!(他力本願!)
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督「砂の惑星」レビューはこちら。続けてPART2レビューもどうぞ。