映画ごときで人生は変わらない

映画大好き中年主婦KYOROKOの感想と考察が入り混じるレビュー。うっすらネタバレあり。週1〜2回更新中!

【やまぶき】感想/社会問題を提起しつつ面白い!地方発インディーズ映画

www.youtube.com

基本情報

公開年:2022年

監督:山﨑樹一郎

脚本: 山﨑樹一郎

キャスト:カン・ユンス(ユン・チャンス)祷キララ(早川山吹)川瀬陽太(山吹の父親)和田光沙(美南)青木崇高(康介)

上映時間:97分

あらすじ

<以下公式サイトより引用>

かつて韓国の乗馬競技のホープだったチャンスは、父親の会社の倒産で多額の負債を背負った。岡山県真庭市に流れ着き、今はヴェトナム人労働者たちとともに採石場で働き、日本人の恋人とその娘と慎ましく暮らしている。真面目で誠実な勤務態度が認められ、正社員への道が開けたと思われた矢先、不幸な事故に見舞われてしまう。一方で、刑事の父と二人暮らしの女子高生・山吹は、交差点でひとりサイレントスタンディングを始める。この小さな田舎町でも、声が小さくても、いつか誰かの人生と繋がるかもしれない。その思いは山吹の亡き母から受け継がれたものだった。二人とその周囲の人々の運命は、本人たちの知らぬ間に静かに交錯し始める。

開幕しました、東京国際映画祭2023!今年は昨年見逃した「やまぶき」が上映されるとのこと、有楽町の映画館まで足を運びました。

観たいと思った理由は、砂漠のようなところで少女が振り返ってこちらを見据える印象的なビジュアルと、地方在住で農業をやっている監督が5年の歳月をかけて撮ったという情報に心を動かされたからです。実際観た感想は16ミリフィルムのざらざら感が良く、さらにそのざらざらの向こうから突き刺さってくる祷(いのり)キララさんの射抜くような眼差しは「素晴らしい!」の一言。それと「思ってたほど『意識高すぎ映画』ではなかった。けど暗い気分になったな…」ってな感じ。では感想とちょこっと情報など。

感想

微妙なひっかかりが面白い

ワタシの住む田舎では春になるとそこかしこでやまぶきが咲きます。一斉に咲く黄色い花には派手なイメージがありましたが、この作品の「やまぶき」は「日陰で咲く地味な花」の意味なのだそう。そして主人公の少女の名前でもあります。

お話を説明するのはなかなか難しいのですが…地方のとある町に住む、不運続きの韓国人男性チャンスと、母親は他界、警察官である父親と2人暮らしの女子高生山吹のそれぞれの暮らしがカットバックで描かれます。

劇中扱われる「社会問題」は外国人労働者問題、若者の貧しさ、戦争など様々。

中盤から少しずつ話が動き始めると「チャンスのパートナーである美南のただならぬ『訳ありっぽさ』」や「亡くなった山吹の母親の正体は?!」など、観客が微妙にひっかかっていた部分が種明かしされていく。その「ささくれのようなひっかかり」の作り方がうまいな、と思いました。

例えば山吹は「戦争反対」「憲法9条を守れ」といった横断幕を持って交差点に立つ「サイレントスタンディング」をやっています。仲間はおじさんおばさんばかりで山吹のような高校生は他にいない。意識の高い子なんだな〜と思いつつ観ていると、ふと「太陽に向かってみんなで一斉に咲くひまわりと同じじゃなくていいって(亡くなった)母が言ってました」という台詞が出てきて、「え、お母さん只者じゃなくない?!」なんて思わされたと思ったら、後半畳みかけるようにそのお母さんが何者だったかが明かされたり。

そしてその微妙なひっかかりはどれもきちんと解決される。淡々としてて話が進まない、みたいな作品ではなくエンタメ要素もあるわけです。でもかといって作中提示された、今の日本に渦巻く様々な問題は何一つ解決しないまま残るというバランス感も良い。

同作は「日仏合作」作品となっており、「編集協力」に名編集マンで知られるヤン・ドゥデ氏がクレジットされています。これは上映後のトークショーで監督が言っていたんですが、編集を途中までやってヤン氏に送り意見を聞き…を繰り返したのだそう。上記のような編集の妙はこんな制作環境から生まれたようです。

「思ってたより暗い気持ちになった」理由

なぜ暗い気分になったかと言いますと…、監督の居住地である岡山県真庭市が舞台であること、という以外にほとんど情報を入れずに観たんです。前述したようなビジュアル(公式ホームページのトップ画にもなっています)から勝手に「地方の閉塞的な町で生まれ育った少女が日本を飛び出し、砂漠のある国で自分らしく生きる。暗くて重いが最後は青い空と砂漠という抜けのいい画が見られて爽快感を得られるはず!」的に思い込んでたらそうでもなかったのよね…。

それとチャンスのパートナーのラストショット、全く笑顔がなかったけどあれは…?てのもひっかかる。あ、このひっかかりは唯一解決されなかった点です。

地方から世界へ!

第30回カンヌ国際映画祭 ACID部門 日本映画史上初の選出

第51回ロッテルダム国際映画祭 タイガーコンペティション部門

第27回スプリト国際映画祭 グランプリ

第18回ルッカ国際映画祭 グランプリ

などなど錚々たる受賞歴を誇る今作。そして今回山崎樹一郎監督は日本映画監督協会新人賞も受賞されました(上映後には授賞式もありました)。

京都の大学で映画制作をはじめ、岡山県真庭市の山間に移って17年。農業を営みつつ映画作りを続けているとか。そんな田舎から(って失礼ですけど)海外の名だたる映画祭への出品が可能だったのは今作のプロデューサーでフランス在住の小山内照太郎氏の手腕が大きかったようです。なんでも学生時代京都国際学生映画祭に関わっていた頃からの仲間なんですって。(こちらも上映後のトークショーで聞いた話)こんな話を聞くと本当に今はどこにいても自由にやりたいことが出来る時代なんだなあ〜と思います。

だからこそやりたいことを手放さず、おかしいと思ったことはちゃんと考え、流されず生きなきゃらならない。山吹のお父さんが言ってたことが身に沁みるわあ〜なんて今さら思ってしまった50代なのでした。

人生変わった度

★★★★

意外といいお父さんじゃん?

残念ながら配信はまだなし。上映は今後もされるらしいので公式サイト貼っておきます〜

yamabuki-film.com

「カンヌ国際映画祭 ACID部門 日本映画史上初の選出」とのことですが、翌年のACID部門では「逃げ切れた夢」が選出されています。こちらも目力の強い女性が出てきます。良き。「ACID部門って何?」についても書いてます。

kyoroko.com