不穏度
40(100を満点として)
まさかの爽やか青春映画
基本情報
公開:2019年
監督:田中征爾
脚本:田中征爾
キャスト:皆川暢二(鍋岡和彦)磯崎義知(松本晃)吉田芽吹(副島百合)
羽田真(東則雄/銭湯「松の湯」のオーナー)
上映時間:114分
あらすじ
<以下、公式サイトより引用>
名門大学を卒業後、うだつの上がらぬ生活を送っていた主人公・和彦。ある夜たまたま訪れた銭湯で高校の同級生・百合と出会ったのをきっかけに、その銭湯で働くこととなる。そして和彦は、その銭湯が閉店後の深夜、風呂場を「人を殺す場所」として貸し出していることを知る。そして同僚の松本は殺し屋であることが明らかになり…。
評価と感想
評価
どうにかして今よりも「上」に行きたいと足掻いていたその昔、先輩に聞きました「ワタシ、何が足りないんでしょうか?」先輩は少し考えて言いました。「んー、『勢い』かな?」
……勢いってなんやねん、どこで売ってるねん…と途方にくれたことを思い出しましたわい。
突然の昔語りで何が言いたいかといいますと、「メランコリック」は「勢い」でできている作品だということです。賛否の別れる作品のようなのではじめにワタシの評価を言っときますと「良い」です。先の読めないストーリーも面白いし良い映画だと思います。では、どこを「良い」と思ったのかざくざく書いてみますね〜。(以下ラストのネタバレあり!注意)
まさかの爽やか後味!
ジャンルとしては「スリラー」に入ります。コメディでもあるかな。舞台は裏家業で死体処理を請け負う銭湯。明るく能天気なバイト仲間の正体はまさかの殺し屋。こんな世界に偶然飛び込んでしまった主人公の和彦は東大を卒業したものの実家でフリーター生活を送る冴えないモラトリアム青年でした。銭湯「松の湯」でバイトをしますが、裏の顔を知ってしまいその世界に飛び込みます。そこから急にイキイキとしはじめるんですよ、それまでうじうじしていた和彦くんが。裏家業とそこで出来た仲間は彼にとってそれまで感じたことのない青春を味合わせてくれるものでした。いろいろあって松の湯のオーナーとその親分のヤクザを殺し、松の湯を自分とその仲間で経営していくことになります。ラストは束の間の高揚を味わうシーンと和彦のモノローグ。このモノローグがとてもいいんですよ。まもなく青春が終わる、その予感はあるけど大切なのは今という刹那を感じること。思わずほろりとしてしまい、観終わったあと「なんちゅういい青春映画や!」となりました。主人公、人殺してますのに。
カメラに映ってしまうもの
第二の『カメラを止めるな!』」になるのでは?という期待もされた本作。300万円という低予算、アイデアの詰まった先の見えないストーリー、スリラーコメディなのにほろりとさせる意外な展開など確かに似ています。興行的には残念ながらカメ止めほどは跳ねなかったようですが、東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門での監督賞受賞などの評価を得ています。さて、この作品はワタシにとって「映画って本当に面白いな」と改めて思わせてくれた一本でもあります。何故かって、映っちゃってるんですよカメラに。おそらく意図していないものが。それは「熱」です。
制作は「OneGoose」。本作で和彦と松本という主要な2人を演じる役者と監督(脚本と編集も)の3人からなる映像制作集団です。3人は1987・88年生まれのほぼ同い年。彼らの熱があってこそ生まれた一本です。勝手な妄想ですけど皆、他の仕事で忙しい中深夜ファミレスに集まってアイデアを出し合い、夜が白々と明けるのを一緒に見たのでしょう。楽しかったろうなあ〜。そんな熱が映っちゃってるんですよ!
また作中狭い階段でのガンファイトがあり、そこだけ異様にクオリティが高かったのですが、やっぱり磯崎義知(松本役)氏のプロフィールに『幼い頃からの武道の経験を活かしTA directorとしても活動中。アクションシーンの構成・演出も担当。』とありまして、あ〜、すごくやりたかったんだろうなこのシーン!という熱も映っちゃってます。(TA directorがなんの略か不明。ナントカアクションディレクター?!)
その熱は、「カメラのピントが合ってなくないか?」や「そもそも銭湯のボイラーで死体を焼けるのか…?」などの小さな疑問が吹き飛ぶほどのもの。(逆にこういうところが気になる人が低評価をつけているようです)よくパンクなどの音楽を評する際「初期衝動」という言葉を使いますが、まさにその初期衝動がぎゅっと詰まった一本。物語の主人公らの青春だけでなく若き製作者たちの青春も見え隠れして、なんだか愛おしくも切ない気持ちになる作品です。
「メランコリック」はアマゾンプライムビデオで見られます〜