感想
初日に観てまいりました、ジブリの新作にしておそらく宮崎駿最後の長編となりそうな「君たちはどう生きるか」。感想は言うなれば「これまでの集大成。駿てんこもり。ジブリ全部乗せで楽しかった!!」
宮崎駿の「創作者の性(さが)」をゴリゴリと見せつけられた「風立ちぬ」は面白いものでしたが同時に重すぎて「これを遺作にすんのかよ…」となぜか観客が頭を抱えるっていうね…。これに対し「君たちはどう生きるか」は、これまでの楽しいジブリ作品てんこ盛り。「これはあの映画のあそこに似ているな」と考えながら観るのも楽しく、ジブリとともに歩んできた我々の40年を肯定してくれるものでした。駿が最後に創りたかったものがこれだったことに心底安心しましたよ。また、今っぽい作品にもなっており「『若いものには負けん』精神がまだ残っているのでは?」という期待も感じます。面白かったです。夏休みご家族で観るにピッタリかと。確かに多くの方が書いているように「わけわからん」面もあり、ストーリーをきちんと話せと言われたら困りますが、同作においてはそこは問題ではないと思います。
少なくともパンフレットが発売されるまで(発売日未定)はネタバレは書きません。宣伝・前情報いっさい出さないという大きな賭けに出て見事にやり遂げたチームへのリスペクトです。
とはいえ書いておきたいことがもあるぞ!…ということで「鳥好きから観たメモ」です。〜1ミリもネタバレ読みたくない方はここで引き返して下さい!〜
ワタクシ郊外に引っ越して3年あまり、趣味がバードウォッチングになりまして野鳥の会の「探鳥会」にも参加しています。同作品にはアオサギ、ペリカン、インコが出てきますがなぜその鳥だったのか?が気になりすぎて考えてみました。
アオサギ
ポスターに出てくるアイツです。ヤツは青いわけではなく、白と黒(グレー)のツートンカラー。日本にサギは19種類いますが、日本全土で見られるのはヨシゴイとこのアオサギのみ。ちなみにヨシゴイは想像するサギっぽくない見た目の鳥です。真っ白なシラサギは神の使いとされるなど神秘的な伝説が多く、首の短いゴイサギは怪鳥譚がありますが、アオサギにはそのような「神性」も「怪異性」も少ない。つまり身近なわりに民俗的な記号はほぼありません。フラットな存在であることが作中あの位置に選ばれた理由ではないでしょうか。
ペリカン
同作に出てくるのがモモイロペリカンかハイイロペリカンか不明。日本に稀に迷鳥としてやってくるのはハイイロペリカン。ペリカンにはヨーロッパでも日本でも面白い言い伝えがあります。
以下、日本大百科事典より引用。
ヨーロッパでは中世以来、ペリカンは自分の血で雛を養い、死んだ雛に血を与えてよみがえらせる鳥として知られた。ペリカンの給餌の習性の観察から転化した伝えといわれるが、血を尊重する宗教観念によってまとめられているところに特色がある。古くからキリスト教思想と結び付き、自己犠牲の精神を表す鳥として、一般にはキリストの象徴として広まった。キリストの十字架像には、しばしば上部に、胸を広げ、死んだ雛に血を注ぎかけているペリカンが描かれる。それはまたピエタの像の聖母マリアをも想起させる姿で、民衆の間では母性愛の象徴にもなっている。日本でも琵琶湖(びわこ)などに飛来し、住民の関心をひいた。その生態から、ペリカンを描いて屋上にかけると火災を防ぐという俗信も生まれ、また脂(あぶら)が聴覚障害の治療に役だつといって薬屋に売る者もあったという。ヨーロッパでもペリカンを医療に用いる風習があり、ドイツなどでは脂は足痛風、そこひ、聴覚障害に効くといわれた。
なかなかなもんですね…。とはいえペリカンの民俗的な記号は映画の中ではあまり意味を持たないように思います。関係あるとすれば「死んだ雛を蘇らせるという言い伝え」は、「アレ」をバクバク食べるペリカンだがアレは巡り巡ってまたペリカンの体内から生まれるのではないか?と考えられます。生命の源としての鳥。そういえば世界中の神話で「不死の象徴」も鳥=不死鳥=フェニックスです。けど考えすぎな気もする。
セキセイインコ
オーストラリア内陸の砂漠に大群で住む鳥。古くから飼鳥とされてきた。日本では明治時代に輸入され急速に普及。民俗的な意味合いは見つかりませんでした。
ところで野生化したセキセイインコの群れを見たこと、あります?ワタシは神社の境内で見たのですが、青や黄色の原色が鬱蒼とした木々に点在する姿は異様なものでした。まるで異界からの使者のよう…。そんなイメージから登場させたのでは?と思います。
以上、だからなんだと言われたらそれまでなのですが、「君たちはどう生きるか」の鳥メモでした。そろそろネタバレ解禁してもよいかな?というタイミングでリライトするかもしれません〜。
なお鳥情報の出典は以下の本と百科事典です〜。
追記:インコが象徴するもの/パンフの中身
さて、ここから追記です(2023/8/16)。まずインコの件。ありがたいことにコメントをいただきまして、その方によればwikiに「インコは国家やナショナリズムの象徴としても使われる」とあるとか。(ありがとうございます!)
この一文に関してはwikiの中に引用元が記載されていないのが残念ですが、「文化にみるインコ」の欄は面白い。「国家の象徴としてのインコ」の一例として、ドミニカ国旗の話がありました。なんと国旗にインコが使われているんですって!
※真ん中のかわいい奴はミカドボウシインコでドミニカの国鳥
さて、インコについての話は8/11に発売されたパンフレットの中にも一行だけありました。「大衆の戯画として描かれるインコたちを率いるインコ大王」という一文。ははあ〜大衆の戯画かあ。上記の「国家の象徴」にもつながります。また冒頭の火事あたりのリアルな作画に比べ、インコたちのイラストっぽさが気になっていましたが「戯画」ですから狙いだったのですね。
そしてそのパンフレットについて。文字が少ないですよすんごく。文章は「作品解説(ストーリーのようなもの)」「長編企画書覚書」くらいで、あとは延々作品の一場面のスチール。800円。残念だったのがキャスト一覧は載っているのですが、誰が誰の声か記載のないところ。ワタシは「え?キムタク?誰の声?」ってなくらい間抜けだったので、そこは知りたかった。阿川佐和子さん出てたんですね…。
とはいえ、「宣伝を一切しない」という宣伝方法からはじまり、パンフレットにも情報をほとんど入れない「何をどう感じて考えるかはご自身にお任せします」という態度は一貫していて良いと思います。すぐ「考察」「解説」だのなんだのと言って一人一人の感性を奪う今どきの映画鑑賞法へのカウンターかも知れません。(すまんこのブログのことや)
※最後にパンフちら見せ。(=パンチラって思いついたけど下品すぎるごめん…返す返すもすみません…)