【鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎】評価と感想・考察/左目の謎を考えてみた!

不穏度

65(100を満点として)

戦争は終わっていない、今も。

基本情報

公開年:2023年

監督:古賀豪

脚本:吉野弘幸

キャスト:関俊彦(鬼太郎の父/後の目玉おやじ)木内秀信(水木)種﨑敦美(龍賀 沙代)小林由美子(長田 時弥)白鳥哲(龍賀 時貞)

上映時間:104分

あらすじ

<以下公式サイトより引用>

廃墟となっているかつての哭倉村(なくらむら)に足を踏み入れた鬼太郎と目玉おやじ。目玉おやじは70年前にこの村で起こった出来事を思い出していた。あの男の出会い、そして2人が立ち向かった運命について…。

昭和31年。日本の政財界を裏で操る龍賀一族によって支配されていた哭倉村。血液銀行に勤める水木は当主・時貞の死の弔いを建前に野心と密命を背負い、また鬼太郎の父は妻を探すために、それぞれ村に足を踏み入れた。

龍賀一族では、時貞の跡継ぎについて醜い争いが始まっていた。そんな中、村の神社にて一族の一人が惨殺される。それは恐ろしい怪奇の連鎖の始まりだった。

評価

すごいもの観たな〜って感じです。散々書いていますがアニメや漫画には暗いので分からない点もありましたがとても面白かったし感動しましたッ!

今の人には考えられないでしょうが、ワタクシが幼少時の昭和40年代、テレビは白黒でした(カラーテレビは既に販売されていましたがウチは貧乏でしたんで)。その白黒テレビから流れてくる「ゲ、ゲ、ゲゲゲのゲ〜」という陰鬱な歌とビジュアルがものすごく怖くてですね、「チャンネル変えて〜!」と泣き叫んだことを覚えています。鬼太郎をちゃんと観たのはなんとそれ以来ですよ!そんなワタシが面白いと思った点、あと疑問に思って調べてみたことなど、以下感想と考察です〜。

感想

2018年から2020年まで放映されたテレビアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」の第6シリーズ、そういえば業界内でも面白いと評判になっていました。その第6シリーズの流れを組むのが同作だそうな。鬼太郎のお父さんはなぜ目玉だけになったのか?その謎を紐解いていくのですが、時代は戦後すぐ。「水木」という血液銀行の社員が登場してゲゲ郎(鬼太郎の父)の相棒になっていきます。この水木という男、命からがら戦争を生き延びたもののPTSDに悩まされています。夢の中で戦争シーンがあるのですが、同僚の兵士の顔が水木しげる先生がよく描いていた自画像。あと使うとやたら元気になるお薬「M」はおそらくヒロポンのことでしょう。それから政財界を裏で牛耳るジジイのことをよく「妖怪」などと称しますが龍賀時貞はまさにそれ。妖怪が出てくるお話なのに子供を排除する勢いで(PG12です!)現実社会とクロスオーバーしているのが面白いです。

日本民俗学会の会員として多くの民間伝承に触れる中で、妖怪界と人間界が地続きであることを肌感覚で持っていた水木氏。そしてあまりに悲惨な戦争中の体験。今作はもちろん水木氏が作ったエピソードではありませんが、水木しげるという作家の真の部分を抽出して創られた作品のように思います。

最後、戦いを終えて一人生き残った水木が言います。「全て忘れてしまったのに悲しいという記憶だけはあるんだ」と。ぶわっと泣いてしまいましたよ。これ「ゲゲゲの鬼太郎」という作品そのもののことじゃん。敗戦とその後にどんな苦しい思いをしたか日本人は忘れてしまった。でもその中を生き延びた作家の描いた物語は残った。妖怪が活躍する楽しい話なのにどこか物悲しい。「なんかエモいよね」の「なんか」の部分に歴史があったりするのですね。

左目の考察

作中龍賀家の人々が惨殺されていくんですが、皆左目をやられています。そしてゲゲ郎の中から生き残ったのは左目。目玉の親父の目って左目だったんです。

ではなぜ左目なのか?

はじめに思い出したのは古代エジプトの「ウジャトの眼」ですがあんまり関係ないだろうな。

      ウジャトの眼

んで、少し調べてみたところ日本でも「神が目を傷つけた」という伝承がある場合、それはほとんど左目のことなのだとか。

そして当然水木氏も知っていたであろう「母の目玉」という民話。とある男の女房が産気づく。女は男に「決して産屋を覗くな」と言うが男は心配で覗いてしまう。女は大蛇だった。正体を知られた女は赤子を置いて山の沼に戻ると言うが「赤子が泣いたらしゃぶらせてあげてくれ」と左目を自らくり抜いて渡す。しゃぶっている間に小さくなってしまったので男が大蛇に会いに行くと今度は右目をくりぬいてくれたそうな。

母の愛の話やね。似たような話は日本中にあるようですが、なんにせよはじめにくり抜くのは左目なわけです。

他、「振り返るなと言われたが振り返ってしまった男は左目が見えなくなった」という説話もあり、両目のどちらかがくり抜かれる、あるいは見えなくなると言った伝承の場合、左目のほうに特異な力を受け止める役割があるようです。

なるほど、龍賀家の人々は皆、呪術によって殺されています。なぜ彼らはみな左目をやられたのか、理由はこれでしょう。「その左目で特異な力を受け止めた」結果だと言えます。つまり、殺害現場をみる人が見れば犯人は呪術使いだと分かったわけです。

そしてその中で生き残ったゲゲ郎の左目玉は最強の妖怪よりも強いと言えそうですね。(いや、分からんけど)

この辺の論文を斜め読んで参照させていただきました。面白いです!

https://cir.nii.ac.jp/crid/1390572174043193088

https://cir.nii.ac.jp/crid/1050568838412699136

追記:先日心霊番組を観ていたら、かの宜保愛子さんも左目で霊視していたとか。幼少時に火箸が左目に当たってしまい、治療のため1年間眼帯で生活。眼帯を外した際に「この世にはないもの」が視えたのだそう。

 

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観賞後水木さんのエッセイ「ほんまにオレはアホやろか」も本棚からひっぱり出してパラパラと読んだのですが、何度読んでも面白い。特に戦争の体験談。ラバウルに送られた最後の兵隊の一人となり、落第兵だったのでさらにその最前線に送られ、最終的に左腕を失うという悲惨な経験が笑えるくらい面白く書いてある。水木作品にあって今作にないものがあるとすればこのユーモアでしょう。まあ、時代が変わり過ぎてユーモアを入れたら伝わらないと判断したのかも知れませんね。

追記:「総員玉砕せよ!」感想

「ゲゲゲの謎」を解くに当たって読んだ方がいいなと思った水木しげるの漫画作品「総員玉砕せよ!」の感想を少し。

まず水木先生の戦中体験を描いたノンフィクションだと思っていたんですが、そうではなくフィクション。水木先生の分身は「丸山二等兵」とされていますが、その丸山二等兵が実際には見ていない軍お偉方の会議の様子なども描かれています。(とはいえ、後書きによれば「90%は事実です」とのこと。)

史実では生き残りがいますが、物語の中では全員玉砕。水木しげる作品らしいノンビリした笑えるコマもあるだけに、転がる兵士の死体が細い線で執拗に描かれた最後の数ページはゾッとします。中でも一番怖いと思ったのは、軍医と丸山がまだ息のある兵士の指を切断し、置き去りにするというエピソード。指は遺骨にするために切るのだそうです…。

意味のない場所で、意味のない死を迎えなくてはならなかった多くの戦友たち。あとがきには「ぼくは戦記物をかくとわけのわからない怒りがこみあげてきて仕方ない。多分戦死者の霊がそうさせるのではないかと思う」とあります。生と死が渦巻き合う南国の島で体感した、かつて人であった異形のモノたちの悲しみと怒り。あまりに強烈なこの体験が後の作品作りの原動力になったことは明白です…。

↓こちらの新装完全版には巻末に2021年に発見された直筆の構想ノートが掲載されています。娘さんによれば一つの作品で一冊のノートを作ったことがないそうで、この作品にいかに力を入れていたかが分かります。