【ナビミアの砂漠】感想(ネタバレちょいあり!)/大暴れする彼女の切実な理由

基本情報

公開年:2024年

監督&脚本:山中瑶子

キャスト:河合優実(カナ)金子大地(ハヤシ)寛一郎(ホンダ)

上映時間:137分

あらすじ

<以下、公式サイトより引用>

世の中も、人生も全部つまらない。やり場のない感情を抱いたまま毎日を生きている、21歳のカナ。

優しいけど退屈なホンダから自信家で刺激的なハヤシに乗り換えて、新しい生活を始めてみたが、次第にカナは自分自身に追い詰められていく。もがき、ぶつかり、彼女は自分の居場所を見つけることができるのだろうか・・・?

評価

ん〜面白かったけどあまりワタシにはハマらなかったかな…。期待していたほどではないというのが正直な感想です。期待ってのは、新聞雑誌のレビューやら宣伝文句から「Z世代的新しいぶっ飛んだ女性像が観られる!」と勝手に思い込んでいただけなのですが。

主人公のカナ(河合優実)は良くいるメンタルがブレブレの20代女子で、なんならワタシも昔はカナそのものだったし、その前の時代にだってこういう女性はたくさんいたことでしょう。確かにこの手のやっかいな女の子の生態を映画の中でガッツリと(特に嫌な面を)描いたことは珍しいのかも知れません。監督脚本が女性だからなしえられたと言われればそうなんだろな、とは思います。これまでなら「女性の神秘性」とか「メンヘラちゃん」で片付けられていたカナのような行動を取る女の子の心の奥底の澱のようなものにようやく日の目が当たったとも言えます。

たぶんワタシがハマらなかったのはカナのやることがみな、うっすら身に覚えのある「あるある」の範疇で収まってしまったから。とうに「カナの季節」を過ぎて落ち着いたオバちゃんになってしまった今となっては、もっと過激でヘンな女の子が観たかったのです。

もちろん、現在カナと同世代だったり、作品に共感とリアルを期待する方には、とてもハマる良い作品だと思います!

では以下、感想です。少々ネタバレあるので未見の方はご注意を!

感想

素晴らしい冒頭

ファーストシーンはどこかの駅前のような賑やかな場所(どうやら町田らしいです)。引きで雑踏を映すカメラ。その雑踏の中になんだか妙な歩き方をしてる子がいます。それがカナです。「人目とかカンケ〜ねえし」的な歩き方、その後友人と落ち合った喫茶店での態度。この2つのシークエンスでカナの性格が見えてきます。素晴らしい!

喫茶店では友人がカナにとっては興味のない話をしています。カナが興味津々なのは後ろ席の会話。でもあからさまにつまらない態度は取らず、懸命に興味のあるフリをする。それが対人関係における常識で、常識的であるべき、とカナは思っているのです。後にカウンセラーに言われる「あなたは『〜すべき』という気持ちに囚われている」に繋がりますね。

あと、今気が付いたのですが、冒頭に提示されたこの「“人目を気にしないフリーダムさ”と“常識人”というアンビバレントな2つを持つカナの性格」が後に覆されることなく、表現を変えて反復されるのみ…というところに、面白みを感じなかったのもハマらなかった理由の一つかと。すごくリアリティはありますけどね。

心配なのは男性陣

それから事前に想像してたのと違うなと思ったのはカナの話というより、カナとホンダ(寛一郎)、カナとハヤシ(金子大地)という2組のカップルの話だということ。

苦しみつつも自らの意思でカウンセリングに繋がるカナに対し、彼女に惚れ込む2人の男性は自らの闇に無自覚な感じがしてちょっと心配です。

特に、カナとプロレスのごとき大げんかを繰り広げるハヤシ。カナのような子と付き合うにはお育ちの良すぎる坊ちゃんに見えます。なぜ彼女に惹かれるのか?その理由はクリエイターである彼の「ミューズ」というだけではないように思います。共依存まっしぐらだしさあ。おそらくコンプレックスを埋めるものとしてカナを求めているのでしょう。

これはほぼワタシの妄想ですけど、ハヤシは格のある高校から内部進学で大学に進学、大企業に就職したものの、「クリエイター」への憧れを捨てられずドロップアウト。頑張って業界に入りMV制作だかなんだかの仕事を得られるようになった。夢を叶えた当初はイキっていたものの、やがて自分の仕事が同級生たちの仕事に比べて「世の中にとって何の役に立たない仕事」であることに気づく。焦りはあるが、今更引き返せない。

だから、カナが必要なのです。若くて綺麗で自由な空気を身にまとい、でも社会的地位は自分より格下の女。同棲してみたら予想以上にやっかいだったけど、その凶暴さも受け入れられる自分でありたい。…なんだかなあ。

女性映画と言われるものは、男性映画でもあるんですよね。彼らの心情に寄り添って観るのもまた面白いかと。

妊娠と出産と中絶と

ネタバレ全開になるので詳しい説明は避けますが、映画の中には妊娠、出産、中絶という女性性に大きく関わる記号が繰り返し埋め込まれてます。カナは男性を酷に扱いますが、その理由は「自分が女で彼らが男だから」なんですよね。彼女はそれ自体を不公平なものと思っているように見えるし、反出生主義…とまでは行かないまでも自分がここにいること、生まれてきたことを祝福とは考えていないように見えます。

世間は「多様性」と言うけれど、今も変わらず自殺はダメだと言われるし、親や家族が嫌いとは言いにくい。チャラけているように見えて、死ぬのは自分か?世界か?ってくらいギリギリのところに立っている。

誰にも理解してもらえないモヤモヤ感情を抱えたまま日々を生きる。苦しいでしょう。映画なんかで時間を潰したって何にもならないし、やりたいこともないしさ。

でもね、「夜明けのすべて」を観たから言うわけじゃないけど、それ、おおかた女性ホルモンのせいなんですよね。カナに共感し過ぎてイタタタ…ってなっている女子には婦人科に行くことをお勧めしますわよ。あとはもう少し生活力を身につければ大丈夫、頑張って!

最後になりましたが、カナ役の河合優実さん、いつも素晴らしいですね。ワタシが「なんかすごい若手がいるな」と、この役者を認識したのは「由宇子の天秤」。こちらもお勧めです。

「ナミビアの砂漠」公式サイト貼っておきます〜。

happinet-phantom.com