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【ファーゴ】感想(ネタバレあり)/持てる者と持たざる者の交差しない物語

 

ファーゴ 4Kレストア版 [Blu-ray]

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  • フランシス・マクドーマンド
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※1996年映画版のレビューです(ドラマ版ではありません)

不穏度

20(100を満点として)

意外と後味悪いっていう…

基本情報

公開年:1996年

監督:ジョエル・コーエン

脚本:イーサン・コーエン ジョエル・コーエン

キャスト:フランシス・マクドーマンド(マージ・ガンダーソン)ウィリアム・H・メイシー(ジェリー・ランディガード)スティーヴ・ブシェミ(カール・ショウォルター)ピーター・ストーメア(ゲア・グリムスラッド)                                         

上映時間:98分

あらすじ

<以下アマプラの紹介文より>

無邪気な偽造誘拐から予期せぬ冷酷な殺人事件へ。凶悪犯を追う妊婦の警察署長マージが見た衝撃の結末とは!?

評価

面白かったです!同時に「こんなにじんわり後味苦い映画だったけか?」と思いました。

実はコーエンブラザーズ作品ってあまり得意じゃなくてですね…「バートン・フィンク」も「ノーカントリー」も「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」も面白かったんですが、なぜそこまで評価が高いのかよう分からん…ってのが本音。

そんな中でこの作品「ファーゴ」は文句なしに面白いし評価が高いのも分かります。初めて観たのは劇場公開数年後にレンタルビデオで借りた2000年代前半ごろ。その時は、ドジでまぬけな犯人グループが予想もしなかった方向へと話を転がしていく様子がただただ面白いという感想でした。

あれから20年。再見して胸に広がるビターな味にギョッとしました。な、なんだコレは…?!時代が変わったからこその感想だと思うのですが…。では以下、その「苦味」が何なのか、考えつつの感想です〜。(注!ネタバレあり!)

感想

弱者への解像度が上がったせい?!

まずはじめに言っておきますと冒頭に「実話をもとにした話」と出てきますが、これは真っ赤な嘘。コーエン兄弟ならではの「スカし」です。

ストーリーはこんな感じ。アメリカはミネソタ州(ど田舎)の中古車販売店営業部長のジェリーは義父の社長に頭が上がらない。多額の借金があるため、義父の金を目当てに妻の狂言誘拐を思いつく。依頼した実行役はおしゃべり男のカール(スティーヴ・ブシェミ)と無口な大男ゲア(ピーター・ストーメア)。妻を誘拐した2人、運転中に職質に合う。短気なゲアはその警官を射殺。さらにたまたま現場に通りがかったドライブ中の2人も口封じに殺す。有名な雪の上の死体シーンです。

警察では身重の署長のマージ(フランシス・マクドーマンド)が捜査に乗り出す。

ジェリーは計画通り義父に「犯人グループから身代金を請求された。もちろん警察には言えない」と伝える。義父は金は出すが自分が受け渡しに行くと言って聞かない。

待ち合わせの場所にジェリーでなく義父が来たので、カールはブチ切れ義父を射殺して金を奪う。んで、分前を巡ってカールとゲアが口論。ゲアはカールを殺害、木材粉砕器でバラバラにしているところにマージに踏み込まれ逮捕。ゲアは誘拐したジェリーの妻も殺害していた。その後、首謀者のジェリーも捕まって終わり。

犯人グループのドタバタパートと、淡々と彼らを追う冷静な署長マージのパートがカットバックで描かれます。その2組が同じフレームの中に収まるのはマージがジェリーの職場を訪れて会話をする2度のシークエンスと、最後に確保したゲアを移送するパトカーのシーンだけ。

パトカーの中でマージはゲアに言う。「少しばかりのお金のために人を殺すなんて」「人生にはお金より大切なものがあるのよ」と。ゲアはぼんやりと窓の外を見るだけ。そして最後、犯人逮捕の大仕事を成し遂げた今日も、いつものように夫のいるベッドに潜り込むマージ。このカットで映画は終ります。

実は「後味が悪い」と思ってしまったのは、最後のこのカットのせいなんですよね。

その場しのぎを繰り返して失敗する犯人グループに対し、マージは冷静です。田舎でこんな大量殺人だなんて浮き足だってもおかしくないはずなのに、いつものように夫と一緒に朝ごはんを食べ、妊婦だからお腹が空くと言っては昼食もモリモリと食べ、夫とともに眠る。

最近読んだ本に「幸福とは衝撃や中断のない一定の穏やかな動き」というジャン・ジャック・ルソーの言葉の引用がありましたが、まさにそれがマージの暮らしです。この人は「幸せを掴むコツ」を知っているのでしょう。

一方の犯人グループは真逆。刹那の快楽のために生きているようです。昔見た時は、全員の濃いキャラクターとも相まって「面白ダメ人間やな〜」と思いましたが、今見ると「かわいそうな弱者」に見えるのです。これ、20年前に比較して、「弱者への解像度」が上がったせいなんじゃないかと思います。ワタシが年取ったってのもあるかもですが。「弱者」と言っても様々。彼らはどうしてここまで転落してしまったのか?生育歴に問題はなかったのか?手を差し伸べる人はいなかったのか?と考えて少し悲しくなる。

だから「幸せ強者」であるマージが「お金より大切なものがある」と説教を垂れ、自分だけが幸せの国に帰る最後のカットに冷酷さを感じたのです。寄り添ってあげてくれとは言わないけれど、シミジミと犯人たちの背景に想いを馳せるくらいのシーンはないのかい?と。まあ、そうじゃないから「幸せ強者」でいられるのでしょうが。

日系人マイク・ヤナギタは「向こう側」からの使者?

そんなふうに考えると、マイク・ヤナギタの出てくる不思議なシークエンスも別の意味があるように思えます。

説明しますと…、

中盤くらいにマージに高校の同級生、マイクから電話がかかってきます。二人はダイナーで会い、マイクはそこで「みんなのアイドルだった同級生と結婚したが彼女は白血病で亡くなってしまった。今は一人で寂しい。実はずっと君のことが好きだった」とマージに告白。妊婦のマージは同情しつつもちろん断ります。しかし翌日別の同級生に電話するとマイクの話はまったくの嘘だと判明。

ストーリーに全く関係ないように見えて異彩を放つこのシークエンス、「ミネソタナイス」というミネソタ人気質を紹介するためのくだりだとか。ミネソタナイスとは一見人当たりがよく社交的だけど裏では猛烈に人嫌いという気質だそう。この二面性に気づいたマージは、一度会って感じの良かったジェリーに疑いの目を向けるのです。

…というのが一般的な解釈。

ですが、ワタシはマイクを「弱者側からの使者」と捉えたんですよね。マイクはおそらく虚言症かなにかの病気です。マージが信じてしまったら「あちら側」に連れていかれる可能性もあったわけです。マージがしっかりとこちら側に留まれたのは、愛する夫との愛すべき日常という地盤があったから。そして彼女はこの地盤を守るための努力ができる人だった。

こうなるとますます犯人サイドやマイクの弱さが悲しくなってきます。

あくまで2025年の今見た感想ですけど、ワタシは「ファーゴ」という映画は「持てる者と持たざる者の交差しない物語」と感じたのでした。

あと20年経ってもう一度見たらまた全然違う感想が生まれるかもですね。映画って本当に面白い。20年後生きててまだ映画ブログを続けてたら(!!)再見して感想書きますね〜!

ファーゴはアマプラで観られます!雪に倒れる赤い服の男のビジュアルといい、ゴロゴロと転落していくストーリーといい、のちの多くの映画に多大な影響を与えた傑作です。

ファーゴ

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  • フランシス・マクドーマンド
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ちなみにテレビドラマ版も作られていますが、映画「ファーゴ」から着想を得たのみで全然違う話だそう。