基本情報
公開年:2024年
監督:三宅唱
脚本:和田清人 三宅唱
キャスト:松村北斗(山添孝俊) 上白石萌音(藤沢美紗)渋川清彦(辻本憲彦)芋生悠(大島千尋)光石研(栗田和夫)
上映時間:119分
あらすじ
<以下、公式サイトより引用>
月に1度、PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢さんはある日、同僚・山添くんのとある小さな行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。だが、転職してきたばかりだというのに、やる気が無さそうに見えていた山添くんもまたパニック障害を抱えていて、様々なことをあきらめ、生きがいも気力も失っていたのだった。職場の人たちの理解に支えられながら、友達でも恋人でもないけれど、どこか同志のような特別な気持ちが芽生えていく二人。いつしか、自分の症状は改善されなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになる。
評価
今年公開のこの作品が早くもアマプラ(Netflixにも)入っていました。いや〜、良いとは聞いてましたが、文句のつけようがないっつうか、中盤からドボドボ泣いてしまい、見終えた今はただただ「良い映画だわ〜」しか浮かばないすわ。ドラマチックなシーンはないし、地味だし、でもじわじわと伝わってくる。
映画って何のために観るかと言えば「人の痛みを知るため」なんですよ。まあ映画に限らず「物語を追うこと」全般に言えると思いますが。人は自分以外の人間のことは分かりません。当たり前です。でも想像することはできる。映画の中には様々な人が出てきます。遠い国で戦争をしている人、世界の平和を担うヒーロー、そしてこの映画のように身近にいそうな人。物語を通じてそういう他人の痛みを感じることができると、少しマシな人間になった気がします。…気がするだけなんすけどね。まあ、そんなことを改めて感じた作品でした。では以下、ざっくり感想。
感想
PMSを真正面から取り上げた
冒頭、上白石萌音演じる藤沢さんのモノローグで始まります。藤沢さんはPMSを患っているため職場でうまくいかず、追われるように退社します。警察のお世話になるのはかなり重症ですが、それでもこのくだりに「ひえっ…」と肝が冷える女性は多いのではないでしょうか?
ワタシは「PMSって自覚があるだけマシだよ…」と思ってしまいましたよ。この病名が一般的になったのは割と最近。少し前は「急にヒステリックになる女性ってよくいるよね」くらいの認識でした。ワタシは30代後半にこの言葉を知り、漢方薬を飲んだところびっくりするくらい良く効きまして、それまでの持って行き場のない怒りを散々彼氏にぶつけてたことを反省しましたよ。すんませんでした…。
もし今、制御できない感情を持て余して人に当たっている女性がいたら、ぜひ一度婦人科を受診されて下さい。ほんのちょっとのホルモンバランスの崩れで人生棒にふることはありませんから。
それにしても映画の中で真正面からPMSを取り上げるって、今作が初めてなんじゃないでしょうか?これまで様々な作品で描かれてきた「不思議ちゃん」「ヒス女」…全部PMSで説明つくんじゃね?!
遠くを見通す物語
…と、PMSの話になってしまいましたが、藤沢さんは転職し、小さな町工場に努めます。そこで出会う同僚がパニック障害持ちの山添くん。「命が奪われるほどではないから軽く見られがちだけど本人はとても苦しい病気」を抱えた2人の話かと思いきや、中盤でこの会社の社長(光石研)のバックボーンが明かされます。
社長は共に会社を経営していた弟を自死で失くしています。そのグリーフケアの集まりの仲間が、渋川清彦。彼は山添のそれまでいた会社の上司です。パニック障害になって電車に乗れない山添を、歩いて通える光石研の会社に預けたのです。
このあたりから物語がパアッと広がり始める。「描かれてはいないけど、この4人以外の人々も皆何かしらの『苦しみ』を抱えているんじゃないか…」と観客は想像するんです。
そしてこの人間模様に重なってくるのが、宇宙、星、生命というスケールの大きな話。光石研社長の会社は学習用のプラネタリウムを作っており、藤沢さんと山添はその上映プログラムを作成するのです。タイトルの「夜明けのすべて」はここに掛かっています。
おそらく原作が良いんだと思いますが(未読です)、物語の奥行きの見せ方が見事。どっから泣き始めたか分かんないすけど、たぶんここらへんからだと思います。
自転車が象徴するもの
藤沢さんのお母さんが編んでくれる赤いミトンや、故人の声が入ったカセットテープなど、小道具も効いてるなあと思いますが、特に良いと思ったのが自転車。
山添を理解しようとパニック障害について調べた藤沢さんは「徒歩範囲しか行動できなくなるから自転車があると少し世界が広がる」という当事者ブログの一文を見て、使っていなかった自転車を無理やり山添にプレゼント。
迷惑そうにしていた山添ですが、ある時PMSで早退した藤沢さんに忘れ物を届けるため、その自転車に乗ります。初めはゆっくり確かめるようにペダルを踏み、坂道では降りて引いて歩く。上り坂では自転車はただの荷物です。しかし映画は、帰りに下り坂を爽快に降ってくるところまで丁寧に観せています。
自転車は彼の病気の象徴であり、藤沢さんのような「同志」の象徴なのかと。調子のよい時もあればしんどい時もある。ウザい時もあれば、いてくれて良かったと心から思う時もある。
この作品、エンディングがとても良いんですけど、そのエンディングでも山添は自転車に乗ります。この美しいシーンをぜひ多くの人に観て欲しいです。何でこんな何でもないシーンで泣いとるんかなワレ?ってびっくりするよ。
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原作はこちら。瀬尾まいこは信頼できる司書さんから「間違いない」と強くおすすめされた作家です。