
基本情報
公開年:2006年
監督:ターセム・シン
脚本:ダン・ギルロイ ニコ・ソウルタナキス ターセム・シン
キャスト:カティンカ・アンタルー(アレクサンドリア / 山賊の娘) リー・ペイス(ロイ・ウォーカー / 黒山賊)
上映時間:118分(4Kデジタルリマスター版は120分)
あらすじ
<以下、4kデジタルリマスター版公式サイトより引用>
時は1915年。映画の撮影中、橋から落ちて大怪我を負い、病室のベッドに横たわるスタントマンのロイは、自暴自棄になっていた。そこに現れたのは、木から落ちて腕を骨折し、入院中の5才の少女・アレクサンドリア。ロイは動けない自分に代わって、自殺するための薬を薬剤室から盗んで来させようと、思いつきの冒険物語を聞かせ始める。
それは、愛する者や誇りを失い、深い闇に落ちていた6人の勇者たちが、力を合わせて悪に立ち向かう【愛と復讐の叙事詩】―。
評価
いやいやいや。びっくりしました。良いとは聞いていましたが、あくまで映像的に素晴らしいのみという意味かと思ってたんですよ。
それがこんなに泣けるなんて聞いてないよ!すごく良かったです!!!
実はターセム監督の前作「ザ・セル」を去年久しぶりに観ましてね。幻想的な映像のパートは素晴らしいけど、それ以外のパートがあまりにくだらなすぎるなあ…と、以前観た時と全く同じ感想を持ったので、レビューは書かずにいたのです。
そんなわけで「落下の王国」も同じパターンだろうと舐めてかかっていたのですが、さにあらず。どうしてあれほどまでに美しい映像が必要だったのか?の理由が分かった時にボロボロと泣けて仕方なかったですよ。涙も落下すんのかい。
では以下、その理由も含めての感想です。「ザ・セル」の話も少し。
感想
撮影期間4年。13の世界遺産、24ヵ国以上のロケーション。衣装は石岡瑛子。デヴィッド・フィンチャーとスパイク・ジョーンズがサポート。配信はしておらず円盤も廃盤。「幻の映画」として名高かった今作が、4Kデジタルリマスター版で2025年秋から公開され、大きな話題を呼びました。
とはいえ、先ほども書いたように「ザ・セル」にあまり感心しなかったので鑑賞予定ではなかったのです。今回はたまたま新宿で時間が空いたので武蔵野館に飛び込んだまで。それがこんなに感動するなんて!!
映像は大きく2つに分けられます。
1つは1915年のロスの病院。木から落ちて腕を折り入院中の5歳の少女が、同じく足を骨折したスタントマンと知り合う。スタントマンのロイは少女に口から出まかせの壮大な冒険物語を聞かせます。
もう1つのパートはその出まかせ物語です。こちらがつとに有名な部分。本物の世界遺産(主にインドの)で撮影された、息を呑むような美しく素晴らしい映像が続きます。観終わったあと「落下の王国 ロケ地」で検索すると無茶苦茶楽しいです。
こちらについては皆さんが絶賛している通りなので端折るとして、ワタシが感動したのは病院のパート。「語り手側のシーン」です。
こっちのパートって、「ネバー・エンディング・ストーリー」や「タイタニック」の例を挙げるまでもなく、ともすれば退屈になりがち。
しかし同作は違います。
まず聞き手の少女アレクサンドリアがすんごい可愛くて眼が離せない。
そしてロイが出まかせ物語を彼女に聞かせるのには切実な理由があります。歩けない自分の代わりにモルヒネの瓶を盗ませようとしているのです。「あれを持ってきてくれたら物語の続きを聞かせてあげるよ」と。失恋したロイはモルヒネ自殺しようとしていたのです。
ところが適当にでっち上げた物語はアレクサンドリアの頭の中で、凄まじく壮大で美しく映像化されてしまう。想像ですからなんとでもなります。
そしてその物語の中に、彼女もそしてロイも引き摺り込まれていきます。自殺願望のあるロイは、物語を、自分=主役が死んでバッドエンドで終わらせようとしますが、アレクサンドリアは泣きながら物語の中に入り込み、阻止。その結果、主役は生き残り、現実のロイも自殺を思いとどまります。
ロイはアレクサンドリアという素晴らしい聴き手によって、自分が作った物語に救われたのです。
そのロイの職業は映画誕生間もない時代、スクリーンを彩ったスタントマン。ロイとアレクサンドリアの関係は、スクリーンの中の人と観客という関係と重なります。
感動ポイントはここなんですよね。
つまり映画とは観客も作り手の一人である、ということ。そして作り手も観客と同じように映画によって救われているんだよ、という話なのですよ。
だからこそ、その映像と物語は想像の限界ギリギリまで甘美でなくてはならない。作り手は観客と自分のために決して妥協してはならない、とターセムは言っているのです。これがあまりに美しい映像の理由です。
ああ、心から映画が好きな人が映画のために撮った作品なのだなあと気づいた時にもう泣けて泣けて。
…という流れで言うのもアレですけど、ここからいまいちだった「ザ・セル」の話。
こちらに出てくる幻想的な映像は人の内面世界を映像化したもの。ジェニファー・ロペス演じる精神科医が特殊な装置を使って、昏睡状態の被験者の内面世界に侵入する。被験者の一人は少年、そしてもう一人は連続殺人犯です。殺人犯の精神世界にダイブして、誘拐された女性の居場所を聞き出そうとするのですが…。
この内面世界の映像は素晴らしいのですが、まずジェニファー・ロペスが大根すぎ。あと、やたらと胸を露出させてるせいでとても精神科医に見えません。FBI捜査官との恋愛模様もダルい。
まあ、色々と事情はあったのでしょうが、この微妙な作品の後に、監督がおそらく本当に撮りたかった今作が撮れて良かったねえと思います。一生に一本、こんな映画が作れたら、もう人生合格でしょう。
「落下の王国 4Kデジタルリマスター版」、偶然ながら観られて本当に良かったと思います。2026年3月現在、まだ上映している映画館がありますので、未見の方はぜひ!奇跡のような一本ですよ。
公式サイト貼っておきますね〜。
「ザ・セル」はアマプラで観られます。映像美は素晴らしいです!
